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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年9月
290/506

見廻組に協力

「なんで見廻組がいるんだっ!」

「それはこっちの言うセリフだ。なんで新選組がいるんだ?」

 ああ、また始まった。

 最近、幕府から京都見廻組と新選組の警備地の変更があったせいか、以前は巡察中に京都見廻組の人と会う事はなかったのだけど、最近はよく会う。

 これが組長とかのレベルだと、

「よっ!」

 と軽く挨拶をかわして終わりなんだけど、普通の隊士たちはそうはいかないらしい。

 会えば、

「なんでここにいるんだ?」

 という言い合いが始まるのだ。

 同じような仕事しているんだから、別に会ってもいいじゃないかと思うんだけど。

 むしろ、情報交換とかして仲良くしたほうがいいと思うのは、私だけか?

「はいはい、喧嘩しないでくださいね」

 にらみ合っている間に私は入って行った。

 それでも、お互い手を出し合ってくる。

「仲良くしてくださいよ」

 出してきた手をはらった。

 その様子を見ていた斎藤さんは笑っていた。

「斎藤さん、笑いごとじゃないですよ」

 一緒に止めてよ。

「喧嘩なんてやらせておけばいいだろう」

 そう言うわけにはいかないだろう。

 新選組と見廻組の喧嘩をほっといたら、大事になりそうだぞ。

「だめですよ。京を二つに分ける戦になりそうですよ」

 私の言葉に、

「それもいいな」

 と、再び笑った斎藤さん。

 だから、笑いごとじゃないんだってば。

「こらこら、喧嘩するな」

 そんな斎藤さんの代わりに喧嘩を止めてくれた人がいた。

「あ、佐々木さん」

 そう、京都見廻組の佐々木さんだった。

 お兄さんが会津藩の人だ。

「君たちもいたのか」

 佐々木さんが嬉しそうにそう言った。

 そういえば、佐々木さんって強い人が好きみたいで、以前斎藤さんを見廻り組の道場に招待したよなぁ。

 その後に沖田さんも招待されたっけ?

 沖田さんの三段突きを受けて喜んでいたという、変わった人だ。

 そんな佐々木さんが斎藤さんをチラッと見た。

 もしかして、また道場へ招待されるのか?

 いや、今日は巡察中だから……。

「久しぶりに斎藤君の剣を受けたいと思ったが、今日は見回り中だから無理そうだ」

 そっちも仕事中だったのね。

「ほら、喧嘩してないで、行くぞ」

 佐々木さんはうちの隊士とにらみ合っている人たちを連れて去っていった。

「止めなくても、止める人間が来るものだ」

 斎藤さんが、去っていく佐々木さんの背中を見ながらそう言った。

 たまたま止めてくれた人がいたんじゃないですか。

「もし止める人がいなかったらどうするのですか?」

「その時は、その時だ」

 斎藤さんはそう言い切ったのだった。

 え、そうなのか?

 

 この日の夜、事件が起こった。

「出かけるぞ」

 土方さんのその一言で始まった。

「何人か隊士を連れて行った方がいいな」

 キョロキョロと見回しつつそう言った。

 その場にいたのは、私と永倉さんだった。

「お前ら、自分の隊を連れてちょっと来い」

 自分の隊って……。

「一番隊でいいのですか?」

「一番隊と二番隊だな」

 沖田さんに言ってから行こうと思ったけど、急いでいるような感じだったので、そのまま土方さんと一緒に出た。


 着いたところには大徳寺だった。

 そこには、昼間会った京都見廻組の佐々木さんもいた。

 見廻組との共同戦線か?珍しいな。

「土方さん、すまない」

 佐々木さんはそう言っていた。

 すまないって、どういう事なんだ?

「実は、京都見廻組の奴が薩摩と通じていたらしい」

 土方さんが説明をし始めた。

 そ、そうなのか?

「それが幹部ときたから恥ずかしいことだ」

 佐々木さんがそう言った。

「それで、そいつを問い詰めていたら、見廻り組の仲間を連れてここに閉じこもったらしい」

 土方さんが大徳寺の方を見て言った。

「見廻組で対処できなくなったので、新選組の協力をお願いしたんだ。本当に申し訳ない」

 佐々木さんが頭を下げた。

「そんなこと、気にするな」

 土方さんは、佐々木さんの肩をポンッとたたいて言った。

 この人たちは、いつの間に仲良くなったんだ?

「さて、どうやってここから奴を出すかな」

 土方さんがそうつぶやいた。

 どうやって出そうか……。


「犯人に告ぐっ! 無駄な抵抗はやめてさっさと出てきなさいっ!」

 私は、厚めの紙をぐるっと丸め、それを口にあてて行った。

 少しは声が大きくなったんじゃないかな。

 せめて拡声器があれば、ドラマみたいでいいなぁと思ったんだけど、そんなものはこの時代にない。

「おい、犯人ってなんだ?」

 土方さんが私の横でそう言った。

 この時代は、犯人って言う言葉がなかったのか?

「今、ここに閉じこもっている人のことを言うのですよ」

 説明するのが面倒だったので、そう言った。

「わかりずれぇ言葉だな。それじゃあ奴も出てこねぇだろう。誰のことを言っているかわからねぇしな」

 土方さんがあごに手をあててそう言った。

 ドラマではよくそうやっていると思うんだけど。

「俺がやる。貸せ」

 永倉さんに、厚紙を丸めたものをとられてしまった。

「早く出てこないと、斬るぞっ!」

 永倉さん、それは脅しだろう。

「逆に犯人の心を逆なでして人質が殺されますよ」

「おい、人質ってなんだ?」

 私が言っている横で、土方さんが聞いてきた。

 人質って言葉もないのか?

「中にこもっている人ですよ」

 簡単に説明した。

「早く出て来いっ!」

 土方さんとのやり取りの間に永倉さんが再びそう叫ぶ。

「永倉さん、それはだめですよ」

「おい、中にいる奴は犯人じゃないのか?」

 私が必死に止めている間に、土方さんがそう言ってきた。

「犯人と人質、両方中にいるのですよっ!」

「なんで犯人が人質を斬るんだ? お前の言っていることは訳が分からねぇや」

 土方さんこそ、こういう時に質問してきて訳が分からないですよ。

「おい、本当に斬るぞっ!」

 だから、永倉さん、そう刺激するようなことを言わないでくださいってっ!

「そもそも、中にいる人間はみんな仲間だから、斬り合いにならねぇだろう」

 えっ、土方さん、今なんて言いました?

「仲間なのですか?」

 私が聞いたら、土方さんがそんなことも知らなかったのかと言いそうな顔をした。

「話を聞いてなかったのか? 俺は、薩摩と通じていたと思われる男を問い詰めたら、仲間を引き連れてここに閉じこもったと言ったと思うが……」

 あ……はい、確かに、そう言ってました。

 と言う事は、人質とか犯人とかってないのね。

 急に恥ずかしくなってしまった。

「本当に斬るぞっ!」

 恥ずかしがっている私を無視して、永倉さんの声が聞こえてきた。

 これでいいのか?

 そう思っていると、

「十数える間に出てこないと、こちらからお邪魔しちゃうよ」

 と、永倉さんと違う声が聞こえてきた。

 この声はっ!

「沖田さんっ!」

 永倉さんが持っていた厚紙は、沖田さんがにぎっていた。

「な、なんでここにいるのですかっ!」

 思わず指をさして言ってしまった。

「だって、蒼良そらが勝手に僕の隊を連れて出かけちゃったからさ」

 あ、そうだった。

 急いでいたから、そのまま出てきたんだよなぁ。

「すみません。急いでいたもので。ね、土方さん」

 土方さんに助けを求めたけど、土方さんは大徳寺を見て考え込んでいた。

 こっちのことまで頭に入っていないらしい。

 助けを求めたんだけど、こりゃだめだな。

「沖田さん、安静にしてないと」

 とにかく、屯所に返さないと。

「大丈夫だよ。大きな声で話すぐらい」

 確かにそうなんだけど。

「でも、安静なのでだめです」

「なんだよ、蒼良のケチ」

 ケチでもなんでも結構。

 沖田さんの為なんだから。

「と言う事で、斬りに言っちゃうよ」

 沖田さんが再びそう言った。

 だから、安静だって言っているじゃないかっ!

「土方さんからも何とか言ってくださいよ」

 土方さんに助けを求めたけど、

「なんとか……」

 と、一言言って自分の世界へ入ってしまった。

「それじゃあためだ。俺に貸せ」

「ええ、僕まだ一言しか言ってないのに。新八さんはたくさん言ったでしょ」

「いや、言い足りない」

 今度は、永倉さんと厚紙の取り合いをしているし。

 って言うか、その厚紙を丸めて作ったのは私ですからねっ!


 時間が過ぎた。

 大徳寺に閉じこもっている京都見廻り組の人は、うんともすんとも言ってこない。

 どうしたもんかな。

 打つ手が無くなった時、

「幕府から要請を受けてきた」

 と、男性がやってきた。

「やっと来たか。待ってたぞ」

 土方さんがその人を見てそう言った。

 その顔、どこかで見たことがあるぞ。

 どこだっけ?

「ああっ!」

 思い出して、そのすごさに思わずその男性を指さしてしまった。

 社会で習ったぞっ!

「渋沢栄一っ!」

「お前、失礼だろう」

 土方さんに怒られた。

 確かに失礼だ。

「す、すみません」

 私は頭を下げた。

「で、知り合いか?」

 知り合いも何も、

「有名じゃないですかっ! 日本の資本主義の父と言われていて、たくさんの企業を起こした実業家でもある人ですよ」

「え、資本主義?」

 土方さんに怪訝な顔をされてしまった。

 あ、まだなかったのね。

 と言う事は、この人は……。

「私は、渋沢栄一という名前ではない」

 なんだ、その人のそっくりさんか。

「渋沢篤太夫と申す。一橋家に仕えている」

 確か、渋沢栄一も一橋家に仕えていて……って聞いたことがあるような。

 名字が同じだし、写真と似ているから本人だっ!

「あの、握手……じゃない、手をにぎってもいいですか?」

 ミーハー心を出してしまい、握手してもらおうと思ったけど、握手という言葉はこの時代なかったことを思い出し、途中で言いなおした。

「お前、何言ってんだ?」

 土方さんがそう言った時は、私は彼の右手をさわっていたのだった。

 

 場所は大徳寺の隣にあるお店に移動した。

 そこで、一橋家から来た渋沢さんと土方さんと永倉さんと沖田さんと私で話し合うことになった。

「私が捕縛するようにと命を受けて来たのだから、私が捕縛する」

 渋沢さんはそう言った。

「しかし、俺たちはあんたの護衛も兼ねてここにいるんだ」

 土方さんがそう言った。

 えっ、そうだったのか?

「僕が屯所を出る時に、この人と近藤さんがそう言う話をしていたよ」

 沖田さんが小さい声でそう言った。

 そうだったのか?

「捕縛するときあんたに何かあったら、こっちだって新選組がついていながら一橋家の家臣に怪我させたと大事になるんだ。とりあえず、うちが捕縛し、捕縛後に其方に引き渡す。それでどうだ?」

 土方さんが渋沢さんにそう言った。

 一橋家の家臣と言う事は、のちに幕臣になるってことだよね。

「すごいじゃないですか」

 幕臣だぞ、幕臣。

 そう思ってつぶやいたんだけど、

「単なる一橋って家の家臣だろ」

 と永倉さんに言われてしまった。

 そ、そうなのか?

「ああ、こんなことやっている間に、さっさと大徳寺に言って斬って捕縛すりゃいいだろう」

 永倉さんが、刀を持って立ち上がった。

「新八さん、僕も一緒に行くよ」

 だから、沖田さんは安静でしょうがっ!

「ちょっと待てっ!」

 立ち上がった永倉さんと沖田さんを土方さんが止めた。

「あんたの言う通りにしよう。ただ、俺たちも一緒に行く。あんたを怪我させたら大変だからな。捕縛はあんたがすりゃいい。俺たちはあんたが無事に捕縛できるように手助けをするそれでいいだろ?」

 土方さんがそう言った。

 永倉さんたちは納得していないような感じだったけど、渋沢さんは納得してくれた。


 結局、みんなで突入した。

 中にいた見廻組の人はなんと、寝ていたらしい。

 大あくびをしながら出てきた。

 というわけで、何事もなくあっさりと捕縛したのだった。

 寝ていたなんて、緊張感と言うものがないのか?

 佐々木さんを見ると、

「いやーかたじけない」

 と言いながら照れていた。

 いや、照れている場合じゃないからね。

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