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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年9月
288/506

長州に負けた影響は?

 九月になった。

 現代になおすと、十月の中旬から下旬ぐらいになる。

 だいぶ秋らしくなってきた。

 先月末に山崎さんたちが長州から帰ってきた。

 そして幕府は、長州征伐に出た兵たちに対し休兵の宣言をし、それから長州と休戦協定を結んだ。

 幕府は、撤退する兵たちを攻撃しないようにと長州藩と約束し、長州藩は幕府が今回の攻撃に対し反省している様子が見えたら、再び交渉をしましょうと約束をした。

 幕府が負けたんだから、仕方ないよね。

 長州藩ももっと強気に出るかと思っていたので、これですんでよかったと思っているのは私だけか?

 ここから倒幕への動きが強くなっていくんだけどね。


 そんな中、長州から帰ってきた山崎さんたちが、長州征伐の報告をしに近藤さんの部屋で話をしに来た。

 私と土方さんも同席することになった。

 山崎さんからの報告が終わると、近藤さんがため息をついた。

「わしも、長州へ行ったときにこのままじゃ幕府は負けるかもしれんと思ったが、まさか、本当にまけるとは思わなかった」

 普通の人たちは、近藤さんと同じことを思っているだろう。

 近藤さんは幕府が負けるかもって思っただけすごいと思う。

「山崎と吉村もご苦労だったな」

 土方さんが二人にそう言った。

 山崎さんと吉村さんは、軽く頭を下げた。

「今回の幕府の敗因はなんだと思う?」

 近藤さんが山崎さんに聞いてきた。

「やっぱり士気と武器でしょう。長州軍の士気は幕府軍の倍以上ありました。幕府軍は多藩で構成されていたせいか意見の食い違いが多く、それをまとめなければならない総督そうとくもまとめるどころかやる気のない人間ばかりだったので、それが敗戦につながったのでしょう」

 山崎さんはスラスラと説明をした。

「あの……」

 恐る恐る、私は話しかけてみた。

「何ですか?」

 山崎さんが優しい笑顔を向けてくれた。

「そうとくって、何ですか?」

 いまいち分からないのよね。

「お前、そんなことも知らんのか?」

 土方さんに言われた。

 だから聞いたんじゃないか。

「総督とは、この場合は幕府の人間になりますね。兵をまとめて統率する人です。幕府軍は色々な藩の集まりだったので、その集まりをまとめる人間が必要だったのです」

 山崎さんが優しく説明してくれた。

「さっき、武器が違うとも言ったが、どう違うんだ?」

 今度は土方さんが聞いてきた。

「幕府の武器は古いものでした。おそらく戦国の世の物ではないかと思います」

 もしかして、火縄銃とか……。

「しかし長州の武器は異国の物でした。鉄砲の飛ぶ距離も幕府のそれをは倍以上違います」

 山崎さんのその言葉に、

「そんな武器を使っていたのか? 刀なんて役に立たないじゃないか」

 と、近藤さんが驚いていた。

「刀持って走って向かっているうちに打たれっちまうよ」

 土方さんが近藤さんのことを笑いながらそう言った。

 いや、笑いごとじゃないからね。

「長州は貿易が禁止されていたと思うが……」

 近藤さんが首を傾げながら言った。

「貿易を禁止してたって、やろうと思えばいくらでも方法はあるだろう」

 土方さんが話していたその方法とは。

「亀山社中ですね」

 私はそう言った。

 亀山社中が長州と異国との間に立って取引をしていたのだ。

「聞いたことない名前だな。蒼良はよくそんなことを知っているな。なんでだ?」

 近藤さんが私に聞いてきた。

 あ、これは答えたらいけないと言うバターンだったか?

「俺が教えたんだ。山崎から報告の文がきていたから、それを見ながら説明してやったんだ」

 そう、そうなのですよ。

 コクコクと私はうなずいた。

 近藤さんから見えないところで、土方さんに突っつかれてたんだけどね。

「報告ご苦労だった。行ってもいいぞ」

 土方さんが山崎さんたちに言った。

 それを他人事のように聞いていたら、

「お前も行け」

 と、土方さんに言われてしまったのだった。


 近藤さんの部屋を出て、しばらく歩いていると、山崎さんに肩をたたかれた。

 振り向いたら、ちょっとこっちへというしぐさをされたので、山崎さんの後について行った。

 誰もいないことを確認してから山崎さんが話し始めた。

「高杉晋作、覚えていますか?」

 覚えているも何も、有名な人じゃないか。

 教科書にも出ている人だぞ。

 コクンとうなずいた。

「労咳が悪化してました」

 そ、そうなのか?

 長州征伐で大活躍したと、歴史で聞いたことがある。

 それに、私たちが実際に会った時からすでに発症していた。

 長州征伐でかなり無理をしていたのだろう。

「私が京へ帰る前に会ってきたのですが、もう末期の症状になっていました」

 そうだったんだ。

 って……。

「なんで会ったのですか?」

 思わず聞いてしまった。

 だって、敵だろう。

 私たちが食事をした時は、長州征伐が発表になっていたけど、まだ実行されていなかった。

 だからのんきに食事もできたんだけど。

「彼は私の正体を知っていました」

 そ、そうなのか?

「それでも奇兵隊に入らないかって言われましたけどね」

 山崎さんが笑顔でそう言った。

 そうだったんだ。

 なんか、彼らしいと言えば彼らしいのか?

「最後は、療養している場所まで呼びつけられましたよ」

 えっ、そうなのか?

「何かされたのですか?」

 恐る恐る聞いてみた。

 だって、敵に呼びつけられるってあまりいいことじゃないだろう。

「いや、ただ会いたかったと言われました」

 なんだ、そうだったのか。

 でも、労咳が悪化しているって言ってたよな。

 確か、高杉晋作は……。

「慶応三年の四月に亡くなると思ったのですが……」

 私の記憶が確かなら、労咳が悪化をして亡くなってしまう。

 しかも二九才という若さで。

「えっ?」

 山崎さんが驚いた顔をしていた。

 あ、これはまだ知らないことなんだよね。

 しかも、山崎さんは私が未来から来たことを知らない。

「勘ですよ、勘」

 再び勘でごまかす進化のない私。

「あ、そうですか。月まではっきりと言える勘に驚いてしまいました」

 山崎さんが笑顔でそう言ったので、私ももう笑うしかなかったのだった。


  屯所でも何人かは幕府が長州に負けたと言う事を知っていた。

 しかし、あくまで停戦協定を結んだだけなので、完全にまけたと言う事にはなっていない。

 だから大きな声で負けたと言う人はいなかった。

 伊東さんたちをのぞいては。

 そもそも伊東さんたちは幕府派じゃなく倒幕派なので、新選組にいるのがおかしいんだけどね。

 伊東さんなりに色々考えてここにいるんだと思うんだけどね。

 乗っ取ってやろうとか、乗っ取ってやろうとか、自分が局長になって乗っ取ってやろうとか……。

 乗っ取ることしか考えてないように見えるけど、色々考えているんだよね、きっと。

 だから、勉強会の内容も少し過激な方向になってきたような。

 私はそう言うものに出ていないからよくわからないんだけどね。

 出たくもないと言うのが本音なんだけど。

 そんな中、伊東派の人間である藤堂さんと巡察に出ることになった。

 藤堂さんも伊東派なんて抜ければいいのにと思うんだけどね。

 伊東さんを新選組に連れてきたのは藤堂さんだから仕方ないか。

 なるべく、伊東さんのことを話さないように、ふれないようにしていたのだけど、この日は違っていた。

蒼良そら、巡察がてらちょっと出かけないか?」

 巡察中に藤堂さんがそう言ってきた。

「でも、巡察をしないで出かけたら土方さんに怒られますよ」

 ばれなきゃ大丈夫なんだけどね。

 でも、土方さんは色々なところに間者を放っているからな。

「わかった。巡察を早く終わらせよう」

 そう言うと、藤堂さんの歩くのが速くなったので、私も一緒に速足で歩いた。

 そのおかげか、巡察も早く終わったのだった。


 藤堂さんと一緒に来たのは、高台寺と言うところだった。

 どこかで聞いたことがあると思っていたら、新選組を抜けた後の伊東さんたちが、御陵衛士になった時に屯所にする場所じゃないか。

 藤堂さん知っていて来たのか?

 いや、知らないだろう。

 だって、これから起こることなんだもん。

 きっとこれは偶然なんだよ。

 この高台寺は、豊臣秀吉の奥さんのねねが秀吉を弔うために建てたお寺らしい。

 ここの庭が綺麗だったので、ながめながら藤堂さんと歩いていた。

 それにしても、なんでここなんだ?

「いい場所でしょ?」

 突然、藤堂さんに声をかけられ、

「もしかして、知っていて来たとか?」

 と、言ってしまった。

「えっ、何を?」

 やっぱり知らないで来たんだよ。

 そうだよね。

「いや、何でもないです」

 私はあわててごまかしたけど、

「何かあるの?」

 と、藤堂さんも気になったのか何回か聞いてきたので、話をした。

 ちなみに藤堂さんは私が未来から来たことを知っている。

「へえ、そうなんだ。知らなかったよ。まさかここが私の未来の住むところになるとは」

 藤堂さんは周りを見渡しながらそう言った。

「その時は蒼良も一緒だと嬉しいんだけどね」

 藤堂さんのその一言に速攻で、

「無理です」

 と答えていた。

 伊東さんと一緒に住むなんて、絶対に無理だ。

 精神的に受け付けられない。

 さわやかでいい人そうなんだけど、裏で何を考えているかわからないんだもん。

 そんな私を見て、あははと藤堂さんは笑っていた。


「伊東さんが動きはじめそうなんだ」

 観月台という、ねねが秀吉をしのんで月を見たと言われる台の上で池を見ているときに藤堂さんが言った。

「長州が勝ったからね。伊東さんも時期が来たと言う事で動き始めそうなんだ」

 そうなんだ。

 でも……。

「それをなんで私に話すのですか?」

 私に話したら、伊東さんが不利になると思うよ。

 だって、私は新選組の中でも土方さんの近くにいるし、反伊東派の人間なんだから。

 今の新選組が嫌な人は私にそんなことを話さないだろう。

「なんでだろうね。蒼良だからかな」

 藤堂さんは理由にならない理由を言った。

 なんだその理由は。

「藤堂さんは、伊東さんと一緒に動くのですか?」

 返事はわかっている。

 それなのに聞いてしまった。

「うん。一緒に動くつもりだよ」

 やっぱり。

「ごめんね、蒼良」

 藤堂さんが謝ってきた。

「なんで謝るのですか」

「だって、前に蒼良と約束したじゃん。新選組を抜けないって。でも、その約束は守れないかもしれない」

 そんなことわかっていた。

「だからって、謝ることはないじゃないですか。そうなるんだろうなぁとは思ってましたよ」

「本当にごめん」

 だから、謝らなくていいって。

「やっぱり、幕府が長州に負けたからですか?」

 今の幕府の権威は落ちるところまで落ちている。

 だから、討幕派にしてみれば、行動を起こすなら今なんだろう。

「そうだね。それがきっかけだね」

 そう言えば、早くても半年後には伊東さんが御陵衛士と言うものを作って隊を出て、藤堂さんも新選組を抜けているかもしれないんだよな。

「半年なんだ」

 ポツリとつぶやいていた。

「なにが?」

 藤堂さんが私の顔をのぞき込んできた。

「いや、何でもないです。わかりました。藤堂さんが隊を出る約束は守れないとしても、死なないと言う約束は守ってくださいね」

 藤堂さんには油小路と言う場所で亡くなることは知らせてある。

 それを回避してもらえれば大丈夫だろう。

「わかったよ」

 藤堂さんは笑顔でそう返事をしてくれた。

 幕府が長州に勝っていたら?藤堂さんも新選組にいたのだろうか?

 今更負けたことが悔しくなってきた。

 幕府の人たちは悔しくないのだろうか?

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