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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年8月
285/506

西本願寺へ潜入?

 土方さんが、疲れた顔をして部屋に入ってきた。

 ふうっとため息までついている。

 そうとう疲れているなぁ。

「お疲れですね。大丈夫ですか?」

 私が聞くと、一瞬私の顔を見た土方さん。

 そして、ため息をつく。

 私の顔を見てため息つくってどうなの?

「西本願寺から呼び出されて行ってきた」

 そうだったのか?

 西本願寺のお坊さんたちのお説教が長いと聞いたことがある。

 さぞかし疲れたのだろう。

「お茶か何か持ってきますか?」

 私にしてはものすごく気を使ったのだけど、

「いい」

 と、一言で断られてしまった。

「お前、ちょっと座れ」

 土方さんが指をさしてくれたところに座った。

 なんだろう?

 しばらくすると、

「失礼します」

 と言いながら藤堂さんが入ってきた。

 本当に、何だろう?

 私と藤堂さんが並んで座ると、土方さんが話し始めた。

「今日、西本願寺へ行ってきた」

 それはさっき聞いた。

「今回もかなり色々と言われた」

 そうなんだ。

「俺もいい加減いやになってきて、俺に言われても困るっ! と言ってきた」

 そりゃそうだろう。

「それなら直接その隊士に言ったほうがいいだろうと言う事になった」

 その通りだろう。

 何もやっていない土方さんに言うより、色々やって西本願寺に迷惑をかけた人に直接言った方がいいだろう。

「どうせ直接言うなら、西本願寺へ行って坊主と一緒に修行をして、その腐った心根をなおしたほうがいいと言う事になった」

 そうなんだ、そこまでやるんだぁ。

「というわけで、お前ら修行へ行け」

 土方さんの最後の一言に、藤堂さんと私はシーンとなってしまった。

 ちょっと待て。

「なんで私たちなんですか?」

 私はすぐ反論をした。

 なんで私たちなんだ?まだ何もしていないと思うんだけど。

「お前がそれを言うか?」

 土方さんにそう言われてしまった。

「だって、何もしていませんよ」

「ほお、どの口がそんなことを言っているんだ?」

 そう言う土方さんから殺気がただよっているのは気のせいか?

「除夜の鐘を鳴らして大騒ぎになったのは誰だ? 後、無断で夜に桜を見に行くとか言って入って行ったのは誰だ? そう言えば、柿もとって食べたやつがいたよなぁ」

 すみません、全部私だと思います。

 あれ?

「沖田さんもいたと思うのですが」

「病気の総司に修行をさせるのか?」

 あ、確かに。

「他にも、西本願寺に入って行って騒ぎを起こした隊士はいたが、お前たちの場合、同じ隊士でも身分が上で、しかも騒ぎも大きかったから、隊士を代表して行って来い」

 隊士を代表してって、いつの間に代表になっているんだ?

「私は、騒ぎを起こしていないと思うのですが」

 藤堂さんが恐る恐るそう言った。

 あ、藤堂さん、自分だけ逃げるのかっ?

「お前はこいつの子守役だ。こいつ一人で行かせると何するかわからないからな」

 そ、そうなのか?

「わかりました。しっかりと子守します」

 藤堂さんは笑いながらそう言った。

 いや、私はもう二十歳過ぎの大人ですから。

 子守いりませんから。

「というわけだ。西本願寺の坊主たちが待っているから、早速行って来い」

 えっ、今か?

「あの、心の準備をする時間ってないのですか?」

 私はほしい。

「そんなことを言っていると、坊主たちが怒り出して、修行も大変なことになるぞ」

 そ、そうなのか?

「い、行ってきますっ!」

 私は急いで屯所を後にして、お隣にある西本願寺へ行った。


 西本願寺へ行くと、本堂に案内された。

 本堂は、阿弥陀堂と呼ばれているらしい。

 ここって現代では入れるのか?

 入れないってなっていたら、これは貴重な経験だぞ。

 キョロキョロと色々な所を見てしまった。

「あんた、人の話きいとんのか?」

 説明していたお坊さんに言われてしまった。

 お坊さんの方も二人いた。

 土方さんの話だと、お坊さんたちがものすごく怒っているような感じがしたんだけど、ここにいるお坊さんは、穏やかだった。

 最初に、西本願寺の由来とか、親鸞しんらんがここを作ったみたいで、そのお話とか、宗派の浄土真宗のお話とか、普通の話だった。

 怒られるかと思っていたので、かなりホッとした。

「それでは、後はお願いします」

 親切なお坊さんが立ち去り、明らかに私たちに殺意を持っているであろうお坊さんが入ってきた。

 だって、もう目つきが違うんだもん。

 こっちをにらみつけているし。

「覚悟は出来とるんやろうな?」

 お坊さんが私たちをにらみながらそう言った。

 えっ、覚悟?


 連れて行かれたところは、対面所と言う広いところだった。

 欄間らんまという上に窓のようなものがついていて、そこにこうのとりの彫刻があるので、鴻の間と言われているらしい。

「すごい広いのですね」

 周りを見回しながら、私が言うと、

「二〇三畳あるんや」

 と、隣にいたお坊さんが得意げに言った。

 すごい、二〇三畳もあるんだぁ。

 掃除が大変だろうなぁ。

「あんたら、ここ掃除してや」

 えっ?

「頼んだで」

 そう言ったお坊さんは言うだけ言って行ってしまった。

 えっ、掃除?

 思わず、藤堂さんと顔を見合わせてしまった。

 これって、なんかの罰ゲームなのか?


 この時代は掃除機と言うものがない。

「藤堂さん、どうやって掃除しますか?」

 二〇三畳の広い広い部屋の真ん中で藤堂さんに聞いた。

「まず、ほうきで掃くことからやらないとね」

 そ、そうなのか?

「こうやって、畳の目にそって掃くんだよ」

 藤堂さんが手本を見せてくれた。

 二〇三畳ほうきで掃くのか……。

 広い広い部屋を見渡してしまった。

 最近出た勝手にお掃除してくれる掃除機五台ぐらいないと一日で終わらないかもしれない。

 普通の掃除器でもいいからほしい。

 普通の掃除器で掃除するのだって大変だぞ。

 この広さだと、延長コードが必要だぞ。

 ああ、その前に、その掃除機がないじゃないかっ!

 二〇三畳と言う事は……。

「一人101.5畳ですね」

 私がそうっている間にも、藤堂さんはさっさと畳をほうきで掃いている。

 私も急いでやらないと。

 そう思いながらほうきを動かした。

 すみの方へ行ったとき、カサカサカサと音がした。

 シーンとした部屋なので、その音よく聞こえてきた。

 え、何?

 思わず手を止めて見てしまった。

 すると、再びカサカサと音がした。

 これはあまりいい音ではないぞ。

 しかし、音のでどころが気になってしまった私は、音がしたすみの方を見た。

 薄暗くてよく見えなかったので、もっと近づいて見てみた。

 ものすごく近づいてからその正体がわかった。

「ぎゃああああー」

 正体がわかった途端、悲鳴を上げた。

「蒼良、どうしたの?」

 藤堂さんがほうきを投げるように置いてから私の方へダッシュで来てくれた。

 私は、近くに来た藤堂さんに抱きついてしまった。

「えっ?」

 藤堂さんは驚きつつも、背中に手をまわして私を落ち着かせようとしてくれていたのか、さすってくれていた。

「く、く、くもがいたのですよ」

 部屋のすみを指だけさして、私は言った。

 さした指以外は、藤堂さんにしがみついていた。

「えっ、くも?」

 藤堂さんは、私を横にどかして部屋のすみへ見に行った。

「あ、本当だ」

 と、藤堂さん、なんでくもの足を持っているのですかっ!

「大丈夫だよ。単なるくもだから」

 くもはくもでも、私の見たことあるくもよりものすごくでかいからっ!

 こんな大きいくもは、見たことないからね。

「もしかして、蒼良はくもが苦手とか?」

 だから、くものあしをもってブラブラと揺らすのは、やめてくださいってば。

「虫はほとんど苦手です。お願いですから、そのくもをどこかにやってください」

「あ。ごめん」

 藤堂さんはそう言うと、縁側の方までくものあしをもって移動して、外に逃がしてくれた。

「ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、

「蒼良のかわいいところが見れた」

 と、藤堂さんは喜んでいるような感じだった。

 あのですね、私にとっては全く喜ぶことじゃないですからね。


 再び無言でのお掃除タイムが始まった。

 まだほうきで掃く畳は大量に残っている。

「藤堂さん、掃いたら終わりなんですよね」

 少しでも希望がほしいと思い、藤堂さんに聞いた。

「掃いた後、ぞうきんを固くしぼってからふかないと」

 えっ?

「掃いた後はふくのですか?」

 二〇三畳を?

「そうだよ」

 だ、誰がふくんだ?やっぱり、私たちか?

 やっぱりこれは修行じゃなくて、罰ゲームだろう。

 希望どころか、落胆してしまった。

 そんなとき、シクシクと泣き声が聞こえてきた。

「今、何か聞こえませんでした?」

 もしかして、この世のものではない何かが出たのか?

 怖くなって藤堂さんに聞いたら、藤堂さんもうなずいてくれたので、少しホッとした。

 藤堂さんは音をたてないようにほうきを置き、その泣き声の方へ気配を殺しながら近づいて行った。

 私はそれを見守っていた。

 だって、この世のものじゃなかったら、ものすごく怖いじゃないかっ!

 その正体がわかったのだろうか、藤堂さんが私の方を見て手招きをした。

 な、何だろう?

 恐る恐る近づいて見てみると、小さな男の子のお坊さんだった。

 こんな小さな男の子もいるんだ。

「どうしたの?」

 私は小さい男の子に近づいた。

 この世のものだとわかってホッとしたら怖い気持ちがどこかに行ってしまった。

 いきなり声が聞こえてきて驚いたのか、小さい男の子は泣き止んで顔をあげた。

「あ、あやしいものじゃないんだよ」

 藤堂さんは男の子にそう言った。

 そうだよね。

 ここに部外者の私たちがいたら驚くよね。

「今日は、罰ゲ……じゃない。修行でここのお掃除をしているんだよ」

 危うく、罰ゲームって言いそうになってしまった。

 この時代には、そんな言葉はないだろう。

「なんや、うちと一緒や」

 えっ、そうなのか?

「うちは修行がうまくできんかったから、ここの掃除をしろって言われたんや」

「えっ、一人で?」

 藤堂さんが驚いてそう聞くと、男の子はうんとうなずいた。

 ええっ、一人で二〇三畳?

 新種のいじめなのか?

「あ、慣れとるから大丈夫や」

 いや、大丈夫じゃないだろう、さっき泣いてたし。

「慣れてるって、しょっちゅう掃除しているの?」

 藤堂さんは小さな男の子の目線に合わせて座ってからそう聞いた。

「うちはしょっちゅう修行を失敗しとるし。それに今日は一人やないから大丈夫や」

 そのたびにこの部屋を掃除しているのか?

「よし、みんなで掃除をして、早く終わらせよう。一人増えたから、ノルマは101.5畳から、約67.6畳になったからね」

 私がそう言ったら。

「えっ、のるま?」

 と、藤堂さんと男の子に不思議な顔をされてしまった。


 人数が増えたのと、男の子が、

「掃くだけで大丈夫や」

 と言ってくれたので、思っていたより早く掃除が終わった。

「うちは、お坊さんにむいとらんのかもしれんわ」

 男の子が話し始めた。

 ちょっと疲れたから、休んでから終了したと言う報告をしに行けばいいかなと思い、座って雑談タイムに入った。

「なんでここに来たの?」

 私が聞いたら、藤堂さんが首をふった。

「そう言う事は聞かないほうがいいよ」

 藤堂さんが小さい声で私に言ってきた。

 なんでだ?

「うちは貧乏やさかい……」

 男の子はそう言って黙り込んでしまった。

「口減らしだよ」

 藤堂さんは私にそう言った。

「くちべらしって何ですか?」

「え、蒼良知らないの?」

 ここだけ藤堂さんは普通の声量に戻ったので、男の子が不思議そうな顔をしていた。

 藤堂さんが小さい声で説明したくれた言葉によると、家が貧しい場合、食事とかの量を減らしたほうが家計に優しくなるので、子供をよそへ預けたりするらしい。

 預けるところがある場合はまだいい方らしいけど、どっちにしろかわいそうな話だ。

 その話を聞いたら、目の前の男の子がかわいそうな子に見えてしまった。

「そんな顔せんでええよ。うちは大丈夫やさかい」

 逆になぐさめられてしまったのか?

「うちも、新選組に入ろうかな」

 男の子は屯所のある方角を見つめてそう言った。

「でも、新選組も厳しいよ。規則を破ると切腹だからね」

 確かに、藤堂さんの言う通りなんだよね。

「それはここも同じや」

 確かに。

 この広い部屋を一人で掃除するんだもんね。

「よし、私が何とかしてあげるよ」

 このままここに置いておいてもかわいそうだから、いっそのこと屯所に連れて帰ってしまおう。

「蒼良、大丈夫なの?」

 藤堂さんが心配そうな顔で聞いてきた。

 大丈夫だよ、多分。


「おい」

「土方さん、そんな怖い顔をしないでくださいよ。男の子が怖がっているじゃないですか」

「この顔は元からだっ!」

 いや、もっと優しい顔を知っているぞ。

「いいか、俺は修行をして来いとは言ったが、坊主を連れて来いとは言ってないぞ」

 ええ、確かに。

 それは私も聞いてないですよ。

「返して来い」

「ええ、なんてひどいことを言うのですかっ!」

「お前な、西本願寺が最近うるさいから、それを静かにさせるためにお前が行ったんだろうが」

 そうなのか?

「それなのに、坊主を連れてきちまったら、余計うるさくなるだろうが」

 ああ、そう言われるとそうかも。

「でも、この子かわいそうなのですよ」

 私がそう言うと、土方さんが男の子の顔をのぞきこんだ。

 そ、そんな顔してのぞきこんだら、怖いじゃないですかっ!

「お前、武士になりたいのか?」

 土方さんは怖い顔をしてそう聞いた。

 男の子はしばらく黙っていた。

 けど、

「今の生活が嫌なだけや。寺から出れるなら、何でもええ」

 と、土方さんより強い目つきをして男の子はそう言った。

「わかった」

 土方さんは一言そう言った。

「認めてくれるのですか?」

 私は嬉しくてそう聞いたら、

「認めたら、また文句言われるだろうが」

 と言われてしまった。

 そ、そうなのか?

「でも、お前のその気持ちは受け取った。たまに稽古に通うぐらいならいいだろう。それぐらいなら、文句言わせねぇよ」

 やっと土方さんが優しい顔になった。

「ありがとうございます」

 男の子と一緒に私はお礼を言った。

「稽古もきついぞ。その歳で寺にいるんだから、竹刀を持ったことねぇだろう?」

 土方さんがそう言ったら、男の子はうなずいたけど、嬉しそうな顔をしていた。

「お前と平助で世話してやれ。連れてきたんだからな」

 はい、一生懸命面倒見ますっ!

 というわけで、男の子は暇と西本願寺のお坊さんたちのすきを見ては、屯所に通ってくるようになった。

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