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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年6月
272/506

宵山と屏風祭り

 沖田さんの部屋の前でうろうろしている私。

 私としたことが、帰ってきたことを沖田さんに報告するのを忘れていた。

 報告しなければ一番厄介……いや、いじける……じゃない。

 一番しなければならない人に、まだしていなかったのだ。

 しかも、自分の直属の上司にあたる人間に、帰って来て数日も報告していなかったって、一番してはいけないことだろう。

 しかも、相手は沖田さんだぞ。

 ますます厄介だろう。

 帰って来て早々に柴田さんが脱走したから悪いんだ。

 あれが無ければ、ちゃんと報告していた……と思う。

 沖田さんいるかなぁ。

 いなければいいなぁなんて思いながら、数ミリぐらい襖を開けて見る。

 その隙間から中をのぞくと……あ、いた。

 いたよ。

 深呼吸をしてから、

「沖田さんいますか?」

 と、襖をあけた。

「あ、蒼良そら。待っていたんだよ」

 沖田さんはニッコリ笑顔でそう言った。

 目が笑っていない冷たいような笑顔じゃなく、普通に笑顔だ。

「どうかしたのですか?」

 普段と違う反応だったので、思わず聞いてしまった。

「間に合ってよかった」

 何にだ?

「今日は宵山じゃん」

 あ、祇園祭か。

「もしかして、沖田さんは宵山に行くつもりじゃあ……」

 ないよね?

 祇園祭の宵山と言ったら、祇園祭のクライマックスで人もこの日が一番多いと思うのだけど。

 そんな人ごみに労咳の沖田さんを連れて行ったら、疲れて体力がなくなって、労咳が進行してしまうかもしれない。

「もしかして、蒼良は僕が行くのを反対しているの?」

「当たり前じゃないですか」

 行かせられない。

「なんだ、せっかく長州から帰ってきた報告がなかったことを水に流してあげようと思ったのに」

 えっ、そうなのか?

「長州から帰ってきて、何日になる?」

 うっ。

「僕は数日前に聞いたんだけどね」

 うっうっ。

「そのうち来るだろうと待っていたんだけど、なかなか来なかったね、ここに」

 うっうっうっ。

「僕への報告を忘れるとは、蒼良もえらくなったね」

「す、すみませんでした」

 急いで私は謝った。

「あのですね、報告しようとは思っていたのですよ。でも、帰ってきてすぐに事件があったじゃないですか」

「でも、数日前だよね。その間に報告で来たと思うけど」

 はい、おっしゃる通りです。

「で、どうする? まだ宵山に行くの反対している?」

 いや、その話とこの話は違うだろう。

「そうだ、蒼良も一緒に行けばいいんだよ。それならいいでしょ?」

「だめですよ」

 私が一緒ならいいとかって言う問題じゃない。

「えっ、そうなの? それならどうしようかなぁ。お仕置きを……」

 わわっ!

「わかりましたっ! 一緒に行きましょうっ!」

 沖田さんにお仕置きされるなら、一緒に行ったほうがいいだろう。

 何されるかわかったもんじゃないもん。

「わーい。蒼良ならそう言ってくれると思っていたよ」

 もしかして、はめられたってやつか?

「昼過ぎに行こう。楽しみにしているよ。それまで休んでいていいよ」

 休んでいていいよって言われたけど、私が休んでいたら土方さんに怒られますからね。

 しかも、巡察もあるし。

「報告はこれで終わりでいいよ。ご苦労さん」

 えっ、本当にこれでいいのか?

 不安に思って沖田さんの顔を見たけど、相変わらず笑顔だったので、いいのかな?


 昼の巡察を終え、昼過ぎに沖田さんの部屋を訪ねた。

「あ、来ちゃった」

 沖田さんは私の方を見て言った。

 来たらいけなかったのか?

「平助を追い出そうと思ったのに」

 そう、沖田さんの部屋には藤堂さんも来ていた。

「なんで私を追い出すの? もしかして、蒼良とどこかでかけるの?」

「宵山に行くのですよ」

「あっ! 蒼良なんで言っちゃったのっ!」

 えっ、言ったらいけなかったのか?

「蒼良と二人で行きたいから、みんなに内緒にしていたのに」

 えっ、そうだったのか?

「みんな、蒼良を誘おうと思って、朝からそわそわしているから、僕がさっさと誘って、みんなには蒼良は用事があるからって言っておいたのに」

 沖田さんは、そこまで手をまわしていたのか?

「でも、そわそわしていませんでしたよ」

 みんな普通だったけど。

「蒼良は鈍感だからわからないんだよ」

 沖田さんにそう言われてしまった。

 どうせ、鈍感ですよ。

「総司、するいよ。僕だって蒼良を誘おうと思っていたのに、総司がみんなに蒼良は用事があるって言って歩いていたから、誘わなかったんだよ。それなのに、かげでこっそり誘って、ずるいや」

「それなら藤堂さんも一緒に行きましょうよ」

 私がそう言ったら、

「だめだよ。二人で行くって約束したんだから」

 と、沖田さんが言った。

「ずるいっ!」

「ずるくない。ここを使ったんだ」

 ここと言うところで、沖田さんは自分の頭を指さした。

 ああ、もうっ!

「あのですね、誰が誰と行こうが、祇園祭は同じですからね」

 私が言ったら、

「いや、違うっ!」

 と、二人が声をそろえて言った。

「それなら、私は行かないので、沖田さんと藤堂さんで行ってきてください」

 二人でだめだの行くのって言いあっているなら、私が行かない方が一番いい。

「ええ、平助と行くの? つまらないよ」

「総司、それは私の言う言葉だよ」

「男二人で行ったってつまらないじゃん」

「私だって、変な誤解されたくない」

 あれ?余計にやかましくなっているか?

「男二人も三人も同じと思うのですが……」

 私だって男装しているから、はたから見たら男だぞ。

「違うよっ!」

 再び二人が声をそろえて言ってきた。

 ああ、もうっ!

「わかりました。三人で行きましょう。そうじゃないと、私は行きませんからねっ!」

 二人も三人も同じだろう。

 二人が文句を言おうとしたので、

「行きませんよっ!」

 と、大きな声で言ったら、

「わかったよ」

 と、また声をそろえて言った。

 と言うわけで、三人で祇園祭に行くことになった。


「蒼良、山鉾やまぼこが昨年より増えているね」

 藤堂さんが山鉾を見ながら私に言ってきた。

「本当ですね」

 禁門の変で、祇園祭の山鉾と言う大きな山車がほとんど燃えてしまった。

 だから、その年の祇園祭はものすごく寂しい物だった。

 それに比べると、現代の祇園祭と比べるとまだ地味だけど、少しずつ復活してきている。

 よかった、よかった。

「あ、そうか。昨年、蒼良は平助と祇園祭に行ったんだよね」

 そうだったか?そうだったような気がする。

「僕は、鈴虫でごまかされたんだよね」

 ごまかしたつもりはなかったんだけど……。

「でも、今年は一緒に来れたからよかったじゃないですか」

「三人でだけどね。僕は二人で来たかったんだけどね。来年は二人で行くよ」

 えっ、もう来年の約束なのか?

「なにこそこそ話しているの?」

 藤堂さんが私たちの方を見てそう聞いてきた。

「来年の……うぐぐっ!」

 約束をって、言おうとしたら、沖田さんに口を押えられた。

「何でもないよ」

 うぐぐっ!鼻もふさがれて苦しいのですがっ!

「総司、蒼良の顔が真っ赤だよ」

「あ、鼻もふさいでいた。ごめんね蒼良」

 と言う声とともに空気が吸えるようになった。

 わ、わざとだろう。

 本気で死ぬかと思ったぞ。

 ぜえぜえと息をしていると、違う山鉾がやってきた。

 本当に山鉾が増えてる。

 それが嬉しかった。

 沖田さんは来年の話をしていたけど、来年の今頃は何をしているんだろう?

 藤堂さんは、新選組を抜けているよね。

 沖田さんの病気はどれぐらい進んでいるのだろう?

 この先のことを考えると不安だ。

 来年も、笑顔でここにいるのだろうか?


 山鉾を見た後、沖田さんのことを考えて、

「人ごみを避けて帰りましょう」

 と私が言うと、

「せっかく来たんだから出店が見たい」

 と、沖田さんがわがままを言った。

 私はあんたのために言っているのに、わからんのかっ!

 何が出店じゃっ!

「総司の具合が悪くなったら大変だから、蒼良の言う通り、人ごみを避けて帰ろう」

 藤堂さんがそう言った。

 もしかして、藤堂さんは沖田さんのことを知っているのか?

 そういう目で見ていたのだろう。

 藤堂さんは私の顔を見て黙ってうなずいた。

 うなずいてくれたから、知っているんだよね。

「総司、たまに変な咳しているから、もしかしてと思っていたんだよね。やっぱりそうなの?」

 そこまで知っているのなら、もう嘘はつけないんだろうなぁ。

「労咳です」

 先を歩く沖田さんの姿を見ながらそう言った。

「やっぱり。新八さんや左之さんとそうじゃないかって言っていたんだ」

 そうだったんだ。

 付き合いの長い人たちはなんとなくわかってしまうものなんだろう。

「二人で、なにこそこそしているの?」

 前を歩いていた沖田さんが、立ち止まって振り返ってきた。

「別に、コソコソしてないよ。ね、蒼良」

 私は、コクンとうなずいた。

「そんなことより、これ見て見なよ」

 沖田さんが一軒の大きな家を指さしたので、その家を見てみると、屏風びょうぶを玄関から見えるところに飾っていた。

 そして、人がたくさんいた。

 なんだろう?

「楽しそうだから、行ってみよう」

 えっ、ちょっと待ってくださいよ。

 そう言って沖田さんを止める間もなく、沖田さんは家の中へ入って行ってしまった。

「たまに外に出たから、楽しんだと思うよ。行ってみよう」

 私は、藤堂さんと一緒に沖田さんの後を追った。


 そこの家にはたくさんの屏風が置いてあり、その屏風に人々が集まっていた。

「祇園祭と関係あるのでしょうか?」

 二人に聞いてみたけど、二人とも首をかしげていた。

 後で調べてみたけど、これは屏風祭りと言って、祇園祭の宵山の時期に京で行われる。

 老舗やお金持ちの人たちが、家宝を飾って人々に見せる。

 屏風がよく飾られていたので、屏風祭りと呼ばれているらしい。

 ちなみに、数は少なくなったけど、現代もやっている。

 表通りは豪華な山鉾が練り歩いているけど、一つ裏に入ると、こういうお祭りも同時に行われていたとは知らなかった。

 それにしても、綺麗な屏風だなぁ。

 屏風の前に三人で座って、じいっと見ていた。

「これ、なんの屏風かわかる?」

 沖田さんに聞かれた。

「綺麗な屏風だと言う事はわかりますが、誰がいつ作ったとか、そういうことは分かりませんからね」

「なんだ、つまらないな。蒼良は」

 そう言う沖田さんはわかるのか?

 じいっと沖田さんの顔を見ると、

「僕もわからないけどね」

 と言った。

 沖田さんだって、つまらないじゃないですかっ!

「平助ならきっとわかるよ」

 沖田さんにそうふられた藤堂さんは、首をふっていた。

「誰の作であっても、綺麗な屏風だと言う事には変わりないですよ」

 私がそう言うと、

「そうだね」

 と、二人も言ってくれた。


 屏風を堪能した後、無事に屯所に着いた。

「あの屏風、僕の部屋にほしいなぁ」

 と、沖田さんが帰り道にとんでもないことを言っていたけど、私たちによってすぐに却下された。

 きっと、あの屏風は高いぞ。

 新選組には手に入らない、絶対に。

 屏風を手に入れるお金があるのなら、異国から武器を買った方が、後日ものすごく役に立つと思うんだけど。

 そんなことを思ってしまう私がいた。

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