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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年4月
262/506

隊士が食傷になる

 今日は、一番隊の稽古の日で、いつも通り私が稽古をしようと思い、道場へ行った。

 すると、沖田さんと一番隊の隊士数人がいた。

「あ、沖田さん」

「今日は、僕が稽古をしようと思って道場に来たんだけどね」

 えっ、そうなのか?

「沖田さん、体調は大丈夫なのですか?」

「蒼良はいつもそれを聞くね」

 だって、心配だからだろう。

 労咳になっている沖田さん。

 安静が一番の薬だと言う事なので、絶対に安静っ!と言っているのだけど、それを聞く沖田さんじゃない。

「大丈夫だから、ここにいるんじゃないか」

 それ、本当か?

 ま、元気が無ければ道場になんて来ないよね。

 そこで、改めて周りを見回した。

 あれ?一番隊の隊士って、こんなに少なかったか?

 人数が、いつもの半分もいない。

「沖田さん、何かやりました?」

 私が来る前に稽古をして、沖田さんの稽古についていけなくて逃げ出したのか?

「僕は、まだ何もやっていないよ」

 まだ何もやっていないのね。

 これからやろうとしていたのか?

「じゃあなんでこれだけしかいないのですか?」

「なんでだろうね」

 沖田さんもわからないらしい。

蒼良そら、調べてきてよ」

 えっ、私がか?

「これも、組長補佐の仕事でしょ」

 言っとくけど、組長補佐の仕事があるのは、一番隊だけですからね。

 他の隊は、補佐なんて仕事はない。

 沖田さんが労咳になっているから、土方さんが特別に作ったのだ。

「早く調べてきてね」

 ここに、私の意思はないのか?

 なさそうだな。

「わかりました」

 仕方なく、道場を後にした。


 隊士が寝起きしている大部屋に様子を見に行った。

 みんなおなかを抱えて寝ていたり、突然飛び起きて厠へ行く人がいたりした。

 そう言えば、朝の厠がいつも以上に混んでいたような……。

 いったいなにがあったんだ?

 呆然と立っていると、

「そこ、邪魔だから」

 と、声がした。

 振り向くと、良順先生の指導を受けている南部先生が立っていた。

「どうしたのですか? 何かあったのですか?」

「ああ、食傷だ」

 えっ、しょくしょう?もしかして、同じものを食べすぎで、飽きてしまって、こうなったのか?

「あの、それって……」

「説明は後で。今は治療が先だ」

 その通りだ。

 と言う事で、私は南部先生に場所を譲り、大部屋を後にした。


 向かったところは、土方さんのところだった。

 土方さんなら、隊士になにがあったかわかるだろう。

「ああ、食傷だ」

 南部先生と同じ言葉だった。

「あの、同じもの食べすぎて、飽きてしまってみんなあんなふうになったのですか?」

「はあ? 何言ってんだ?」

 えっ、違うのか?

 食傷と言えば、どの辞書ひいてもそう出るぞ。

「食べたものの中に悪いものでも入っていたんだろう」

 えっ!

「まさか、毒を盛られたとか……」

「そうじゃねぇっ! お前はないのか? ちょっと悪くなったものを食べて、気持ち悪くなったり、吐いたりしたことが」

 もしかして、食中毒か?

 それなら、隊士たちのあの症状もわかる。

「ああ、そう言う事ですね」

 やっと納得が出来た。

「なにが悪くなっていたのですか?」

「どうやら、昨日食べたものらしいが、その中のどの食べ物かまではわからねぇよ」

 現代なら、この食べ物って特定もできるけど、この時代はそこまで特定はできないんだろうなぁ。

 みんなが食べたもので、共通している物が、昨日の夕飯で出たと言う事なんだろう。

 あれ?

「でも、私や土方さんも食べたけど、全然大丈夫ですね」

「そりゃ、大丈夫な奴もいるだろう」

 そりゃそうだよね。

 だって、一番隊の隊士数人も大丈夫だったし。

「運がよかったと言う事ですね」

「ま、簡単に言うとそうだな」

「土方さんの場合は、鉄の胃袋持ってそうですけどね」

「なんか言ったか?」

 書き物をしていた土方さんが、すずりを持って振り向いた。

 も、ものすごい殺気がっ!もしかして、それを投げようとしているんじゃあ……。

 硯を投げられた日には、当たり所が悪かった場合命のも係わりそうだし、部屋が墨だらけになるのも嫌だったので、

「あ、何でもないですよ」

 と言って、急いで部屋を後にした。

 そうだ、沖田さんに報告に行かなければ。

 すっかり忘れていた。


 道場へ行くと、一番隊の数少ない隊士はみんな倒れこんでいた。

 沖田さんの稽古はハードな稽古だからなぁ。

 教える方の沖田さんは、自分を基準に教える。

 天才を基準にされた方は大変だ。

 できないことが多すぎるのだ。

 はっきり言って、沖田さんの言う事が言う通りにちゃんとできたら、その人は第二の沖田総司になれる。

 しかし、そんな簡単に天才は生まれないので、みんなの方がばてる。

 それを見て、いつも

「ああ、こんなこともできないのか」

 と、がっかりして帰っていく沖田さんなのだ。

 で、この日もこういう展開になったらしい。

「蒼良、遅かったね。もう稽古も終わったよ。何回も教えているのに、なかなかできないんだよね」

 そりゃできないだろう。

 でも、それを言って聞き入れる沖田さんじゃないので、

「お疲れさまです」

 と、私は言ったのだった。

「で、何だったの?」

 えっ?何がだ?

「ほら、稽古に来る隊士が少ない理由」

 あ、そうだった。

 そのために土方さんのまで聞きに行って、硯を投げられそうになりながらここに来たのだ。

「食……食傷らしいです」

 食中毒と言いそうになってしまった。

「ああ、食傷ね」

「沖田さんは大丈夫なのですか?」

 労咳になっているから、そんな菌が入った日には、命にかかわってくるんじゃないのか?

 しかし、沖田さんは元気そうだよなぁ。

「原因は、昨日の夕食かな?」

 元気な沖田さんはそう聞いてきた。

「そうらしいです」

「あ、そう。よかった。僕は食べなかったんだよね」

 えっ?

「どこかよそで食べたのですか?」

「うん、祇園の方でね」

 あれ?

「沖田さん、安静にしている様にって、言われているんですよね」

「うん、そうだよ」

 沖田さんは、何事もなかったかのようにそう言った。

 ちょっと待て。

 なんで安静を言いつけられた人間が、祇園にいるんだ?

「ちょっと散歩にね」

 散歩で、夕飯食べるのか?

「僕だって、たまには外に出たい日だってあるよ」

 たまにじゃ無いような感じがするのですが……。

「沖田さん、一昨日の夕飯はどこで食べました?」

「ああ、島原だったかな?」

 要するに、ここ数日は屯所で夕食を食べていないってことだな。

 と言う事は、安静にしていないと言う事か?

「沖田さん……」

「だって、たまには屯所の外で夕飯食べたいじゃない?」

 たまにはって、たまにじゃないだろう。

「あ、僕は安静にしていないとね。そろそろ南部先生が診察に来そうだし。じゃあね」

 沖田さんはそう言って、帰って行った。

 診察前に稽古をつけに来たのか?

 って、そんなことをしていて大丈夫なのか?


 数少ない元気な一番隊の隊士たちは、沖田さんの稽古で倒れたため、みんな部屋に返した。

 みんなを稽古しながら、自分も稽古をしようと思っていた私にとって、肩すかしをくらったような感じになってしまった。

 仕方ない、すぶりでもするか。

 そう思い、竹刀を振っていると、斎藤さんが入ってきた。

「なんだ、一人か?」

 斎藤さんは、元気そうだった。

「あれ、斎藤さんは何ともないのですか?」

 もしかして、鉄の胃袋を持っているのか?

「昨日の夕飯か? 俺は外で食べたからな」

 そうだったのか。

「お前は大丈夫なのか?」

 斎藤さんに聞かれて気がついた。

 土方さんに鉄の胃袋って言ったけど、私も一緒に食べたんだよね。

 それで何でもないってことは、私も鉄の胃袋を持っているってことじゃないかっ!

 これって、いいことなのか?悪いことなのか?

 そんなことを思いながら、コクンとうなずいた。

「そうか。で、一人で何してたんだ?」

 斎藤さんに聞かれたので、今まであったことを全部話したら、

「なるほどな」

 と、言われた。

「それなら、俺が稽古をしてやる」

 えっ、斎藤さんが?

「安心しろ。俺は総司のような教え方はしない」

 そうだよね、安心していいよね。

「お願いします」

 私は頭を下げた。

 斎藤さんは竹刀を持ってきて私の近くに来た。

 それから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか?

 気がついたら、日が暮れかけていた。

 斎藤さんから色々なことを教わり、時間も忘れていた。

 最後に手合せもしてもらった。

 もちろん、斎藤さんが勝った。

「お前、意外に強いな」

 すべてが終わった後、斎藤さんが竹刀をかたしながらそう言った。

「一応、私も小さいときから竹刀を握っていましたから」

 私の祖父はあのお師匠様だ。

 お師匠様が孫の私をほっとくわけない。

 案の定、気がついたら竹刀を握っていたのだった。

 好きだからいいのだけど。

「あの天野先生ならあり得るな」

 斎藤さんもそう思ってくれたらしい。

「そうか、それなら強くもなるよな」

 でも、新選組に来てから、私もまだまだだなぁと思う。

 だって、私より強い人がたくさんいるじゃないか。

 だから、その中の一人である斎藤さんに強いと言われたことは、とても嬉しかった。

「ありがとうございます」

 私は頭を下げてそう言った。

「本当のことを言っただけだ。お前がその気になれば、俺や総司もこえられるかもしれないぞ」

 いや、それは絶対にないでしょう。

「な、何言っているのですか」

「いや、俺は本気だぞ」

 そ、そうなのか?

 そう思いながら斎藤さんの顔を見たら、吹き出しそうになるのをこらえている顔をしていた。

 なんだ、冗談だったのか。

 一瞬、本気にしたぞ。

「いくらなんでも、私に斎藤さんや沖田さんをこえることはできないですよ」

 私だって、自分が隊の中でどれぐらいの強さなのかはわかっているつもりだ。

「そうだな。でも、お前が強いのは本当だ。他の隊士と比べてもお前はかなり強いと思う。女なのにな」

 そう言いながら、ポンッと私の頭に手をのせた斎藤さん。

 冗談かなぁと思ったけど、今度は普通の顔をしていたから、冗談ではないらしい。

「どうせ、今夜は隊で飯を食う気にはなれんだろう? 一緒にどうだ?」

 ご飯のお誘いなのに、斎藤さんはの手は、お酒を飲む手振りをしていた。

 その手振りを見て、

「いいですね、行きましょうっ!」

 と、喜んでしまった私。

「単純だな」

 そう言われてしまった。

 どうせ、単純ですよ。

 単純のどこが悪いっ!

「行くぞ」

 斎藤さんが道場を出る前にそう言ったので、

「はいっ!」

 と言って、喜んで後をついていった。

 本当に、私って単純だわ。

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