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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年4月
258/506

浄教寺で人質事件

「そこに和尚を人質に立てこもっている浪士っ! この寺は新選組が包囲した。あきらめて出てきなさいっ!」

 私は寺の塀の外で、かわら版を配っていた人から、それを何枚かもらい、それを筒状にして、そこから声を出した。

 普段より少し大きな声が出た。

 拡声器があればもっといいんだけど、この時代はそんな物はない。

 それにしても、これって、刑事ドラマみたいだなぁ。

「犯人に告ぐっ! じゃなかった。浪士に告ぐっ!」

「蒼良、楽しんでないか?」

 横にいた原田さんに言われてしまった。

「いや、楽しんでないですよ」

 私はあわてて否定した。

 浪士が浄教寺と言うお寺に和尚さんを人質にとって立てこもっていると言う通報があったので、急いで現場に向かった。

 お寺につくと中から浪士の

「中に入ってきたら、和尚を斬るからな」

 という声が聞こえてきた。

 やっぱりテレビドラマのような展開だ。

 というわけで、私も拡声器の代わりにかわら版で対抗中と言う状態だ。

「おい、俺はもう我慢できないっ! 中に入るぞっ!」

 永倉さんが、今にも門から中に入ろうとしていた。

 それを必死で止める私たち。

「和尚さんの命がかかっているのですから、もうちょっと冷静になってください」

「そうだぞ。新八のせいで和尚が殺されたら、目覚めが悪いだろう」

「でも、いつまでこんなことをやってんだ?」

「犯人……浪士のすきが出来るまでです。相手だって、一瞬のすきを見せる時があるでしょう」

 そのときに、一斉に突入して、犯人……じゃなかった、浪士捕縛、和尚さん無事に保護という展開を考えているんだけど。

 まさにドラマだなぁ。

「やっぱり、楽しんでないか?」

「は、原田さん、そんな不謹慎なことをしませんよ」

 決して楽しんでいない……と思う。

 ドラマのような展開にわくわくしているのは確かなんだけど。

 あ、やっぱり楽しんでいるのか?

「わかりました。犯人の情に訴えましょうっ!」

 そんな私の言葉に、原田さんと永倉さんが顔を見合わせてから、

「えっ?」

 と言った。

 そんなことはかまわずに、再び筒状にしたかわら版に口をつける私。

「こんなことをして、田舎にいる両親に顔向けできるのですか? 今、大人しく出てきたら、そう言う事にはならないようにしますから、出てきてください」

 私の一言が効いたのか、沈黙が辺りを包んだ。

「あなたのお母さんは、あなたがこんな事をさせるために産んだんじゃないと思いますよ」

「う、うるせぇっ! 俺の親はとっくに死んでんだっ!」

 えっ、そうなのか?

「変なことばかり言いやがってっ! 和尚を斬るぞっ!」

 うわっ!逆効果だった。

 ドラマだと、犯人がウウッて泣かなかったか?

「おい、殺すなよ。何かあったら、こっちだって考えがあるんだからなっ!」

 原田さんが慌てて私からかわら版を取ってそう言った。

「うおおおおっ! もう我慢できないっ! 中に入るぞっ!」

 永倉さんも再び門の外で暴れだしたので、必死で止めた。

 寺の中では浪士が人質とっているし、外では永倉さんが暴れているし。

 もしかしたら、中にいる浪士より、私たちの方が早く疲労してすきだらけになるかもしれない。

「これは、長くなりそうだな」

 原田さんがため息交じりでつぶやいたのだった。


 原田さんの言う通り、この状態のまま夜が明けてしまった。

「いい加減に出てきなさいっ! この寺は新選組が包囲しているっ!」

 眠気に襲われつつ、声を大きくして言った私。

「新選組が包囲しているって、みんな帰って、俺たちだけだぞ」

「永倉さん、それを言わないでくださいよ」

 包囲していると思わせていたほうがいいだろう。

「で、いつ中に入るんだ? もしかしたら、和尚も斬られてるかもしれないぞ」

 そ、そんな縁起でもないことをっ!

 それを聞いた原田さんは、永倉さんの頭をポカッと殴った。

「蒼良が必死になって頑張っているのに、そんなこと言うなよ」

「でもよ、いつまでもこのままじゃだめだろう。俺は早く屯所に帰って寝たいぞ」

 私だって寝たいぞ。

 中にいる浪士だって、きっと眠いと思うぞ。

 それなら、突入しちゃうか?

 眠いからすきだらけだろう、多分。

 でも、和尚さんの命がかかっているしなぁ。

 人の命がかかっているときに、軽はずみな考えで行動するのはだめだ。

「もう少し、頑張りましょう。きっと、中にいる浪士だって眠たいはずです」

「そうだな。俺たちも寝てないが、向こうも寝てないからな」

「俺は、さっさと終わりにしたいぞ」

 再び門の外で暴れる永倉さん。

「新八、そんな元気があるなら、眠たいなんて言うな」

 原田さんの言う通りだ。

 そんなことをやってると、向こうの方から砂埃が見えてきた。

 そして、その砂埃はこっちに向かってきた。

「援軍が来たのですかね?」

「屯所からか?」

 私の言葉に、原田さんが信じられないなぁと言う顔で言った。

 援軍じゃないとしたら、あの集団の正体は……。

「敵か?」

 永倉さんがそう言うと、素早く刀を抜き取ってかまえた。

 あんなに眠たそうにしていたのに、敵だと思ったらすぐに刀をかまえるなんて、さすが永倉さん。

 で、私はと言うと、本当に敵なのかわからず、砂埃が近づいてくるのをジイッと見ていた。

 近くまで来て、味方ではないことはわかった。

 でも、刀を出して走ってきているわけでもなく、殺気も感じなかった。

「なんだろう?」

 思わず声に出してしまった独り言に、

「なんだろうな?」

 と、原田さんは返事をしてくれた。

 その集団は、あっという間に近づいてきたと思ったら、通り過ぎて言った。

 そう、あっさりと寺の門を開けて中に入って行ったのだ。

「あ、ちょっとっ!」

 止める間もなかった。

 永倉さんなんか、刀を持ったまま

「なんだ、ありゃ?」

 と言って、門の中に入って行った。

 そうだ、私たちも中に入って、和尚さんの無事を確かめないと。

 もしかして、あの人たちは和尚さんを拉致しに来たのかもしれない。

 急いで寺の中に入った。

 そして見たものは……。

「お騒がせしました」

 そう言って、寺に立てこもっていた浪士を持ち上げて帰って行った集団だった。

「あれは、なんだ?」

 原田さんも、去って行った集団を見てそうつぶやいた。

 敵なのか、味方なのか?

 それすらもわからないうちにことが終わってしまった。

「あ、和尚さんの無事を確かめないと」

 私は急いで寺の中を探し回った。

 和尚さんはお堂でお経を唱えていた。

「大丈夫でしたか?」

 私が声をかけると、お経が止まり、

「御仏のご加護があったのでしょう」

 と、笑顔で和尚さんがそう言った。


 それから永倉さんと原田さんもやってきて、それを見た和尚さんは、

「御仏とは……」

 と、話始めた。

 和尚さんの無事はわかった。

 わかったから、そのお話は次来た時にしてほしかった。

 だって、昨日からこの人質事件のせいで寝ていないのだ。

 いい子守歌になってしまうだろう。

 もちろん、間もなく夢の中へ誘われていった。

 気がついたら、

「というわけであり、私たちがこうやって暮らせるのも御仏のご加護があるからなのです」

 と、話が終わりそうになっていた。

 寝ていたのがよくばれなかったなぁと思っていたら、和尚さんは目をつぶってお話ししていたのだった。

 そりゃ、ばれないよね。

 永倉さんと原田さんを見ると、二人ともコックリ、コックリとやっていた。

 私は肘で二人を突っついて起こした。

「もうすぐ終わりそうですよ」

 私がそう言うと、二人とも、和尚さんはなんで気がつかなかったんだろうか?と、思ったみたいで、目をつぶって話をしている和尚さんに気がついて、納得していた。

「蒼良は、起きて聞いていたのか?」

 原田さんにそう聞かれ、

「まさか」

 と言ってしまった。

 それを聞いた原田さんは、

「だよな」

 と言って、笑っていた。


 そう言えば、私たちは人質になった和尚さんを助けに来たんだよなぁ。

 和尚さんのお話が終わった後、ふとそう思った。

 気がついたら、こうやって和尚さんのお話を聞いていた私たち。

 あまりに長い一日で、何をしに来たのか忘れそうになっていた。

「ここに来たのも何かのご縁でしょう。境内をゆっくり見てからお帰りなさい」

 和尚さんにそう言われ、お言葉に甘えて境内をゆっくり見ることになった。

 この浄教寺は、平重盛が四十八間と言う長さの精舎という、精進する人たちのすむところを建て、柱ごとに一つずつ、全部で四十八体の阿弥陀仏を置き、四十八の燈籠とうろうまで置いたらしく、燈籠堂と呼ばれていたらしい。

 でも、私たちが見たものは、普通のお寺で四十八の燈籠やら阿弥陀仏やらが置いてあった形跡は全くなかった。

 それもそのはずで、その後荒廃してしまった。

 それを場所を移して建てたのがこの浄教寺と言うわけだ。

 平重盛の像がある以外は普通のお寺だった。

「なんか、訳が分からんが、そうか、平重盛公を祀ってあるのだな」

 永倉さんがそう言うと、

「平重盛って、誰だか知ってるのか?」

 と、原田さんが聞いていた。

「知ってるさ。平清盛の息子だろう」

 永倉さんのその言葉に、原田さんと拍手をしたのだった。

「お前が、俺をばかにしてんだろ?」

「そんなことないですよ」

「じゃあ、平清盛は何をした人だ?」

 原田さんのその問いに、

「武士で最初に太政大臣になったのだろう? 武士の世を作った人間ともいうか?」

 と、永倉さんが答えた。

「永倉さんって、頭いいのですね」

「蒼良、お前までばかにしてんのか?」

 いや、そんなことはない。

 ただ、そこまで博識だったとは思わなかっただけだ。

 よく考えたら、永倉さんって、新選組の本を書くんだよなぁ。

 やっぱり、頭がいい人なんだよ、本当は。

「お前ら二人でばかにしやがって」

「いや、ばかにしていませんよ。博識だなぁと思ったのですよ」

 私は一生懸命永倉さんをなだめたけど、

「新八は単純に見えるからなぁ」

 と、原田さんが火に油を注ぐような事を言ったので、屯所まで永倉さんに追いかけられて帰ったのだった。

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