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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年3月
256/506

伊東さん帰京

 巡察から帰ってくると、屯所がにぎやかだった。

「何かあったのですか?」

 一緒に巡察した原田さんに聞いた。

「ちょっと待て、蒼良そら。俺は、お前と一緒にここに帰ってきたから、俺だってなにがあったか聞きたいぐらいだ」

 そうだよね。

 ちょうどそばに永倉さんがいたので、原田さんが永倉さんに声をかけた。

「おい新八。何かあったのか?」

「おお、左之っ! 伊東さんが帰ってきたんだ」

 そうなのか?

 奥の方に伊東派の隊士たちが固まっていて、その真ん中に伊東さんと、その伊東さんと一緒に長州に行った篠原さんがいた。

「なんだ、伊東さんが帰ってきたのか」

 原田さんが興味なさそうに言った。

「左之、何言っているんだ? 伊東さんが無事に帰ってきたんだぞ」

「でも、局長をほったらかして好き勝手してたんだぞ。そんな奴、帰って来ても来なくても一緒だろう」

 そうだ、原田さんの言う通りだ。

 思わずうなずいてしまったので、

「蒼良までうなずきやがって」

 と、永倉さんに言われてしまった。

「蒼良も左之も、伊東さんの価値のある話を聞かないから、伊東さんの素晴らしさがわからないんだ」

 そんなもの、わかりたくもない。

「あんなもの、眠くなるだけだろう」

「そうなんですよ。原田さんと同じで眠くなっちゃうんですよ」

 そんな私たちの言葉を聞いて、

「お前ら……」

 と、永倉さんはあきれてしまった。

「いいか、攘夷をするためには、刀だけじゃだめだ。伊東さんのように頭脳もないとだな……」

「はい、はい、はい」

 永倉さんの話をさえぎるように原田さんが言った。

「伊東さんが帰ってきた。よかったな」

 原田さんが棒読みのようにそう言って、永倉さんの肩をポンッとたたいた。

「左之、心からそう思ってないだろう?」

「さ、行くぞ、蒼良」

 原田さんに手を引かれて屯所の奥にある土方さんの部屋に向かった。

「俺も伊東さんはあまり好きではないが、蒼良も相当なものだな」

 原田さんが笑いながらそう言った。

「だって、これから先起こることを考えると、好きになれませんよ」

「ああ、確か裏切るんだったよな」

 原田さんも、私が未来から来ていることを知っていて、いつか私が、伊東さんは新選組を裏切ると原田さんに教えたので、原田さんも伊東さんのことをあまり好きではないらしい。

「新八のやつも、伊東さんに夢中になりやがって。あいつは単純だからすぐに影響されるんだよな」

 原田さんはため息をつきながらそう言った。

「原田さんは、仲のいい永倉さんのことが心配なのですね」

 変な宗教に入ったみたいになっちゃっているから、心配なんだろう。

「あんなの、心配するだけ損ってやつだろう」

 そ、そうなのか?内心は心配なんじゃないのかな?

「大丈夫ですよ。永倉さんは、伊東さんと一緒に隊を出ることはないですから」

 永倉さんが隊を出る時は、確か原田さんと一緒だったと思う。

「別に、心配してないからいい」

 と言いながらも、原田さんはホッとしたような顔をしていた。


 原田さんと土方さんの部屋へ行き、土方さんに伊東さんが帰ってきたことを報告した。

「ほっとけ」

 土方さんは、そう一言言っただけだった。

「ええっ! だって、近藤さんをほったらかして、単独で行動してしていたのですよ」

 何か罰みたいなものがあったっていいだろう。

「近藤さんがそう言ったんだ」

 ええ、そうなのか?

「わしが置いて帰ってきてしまったから、わしが悪いと言っていたんだ」

 近藤さん、それはいくらなんでもいい人すぎるだろう。

「だから、ほっとけ」

 納得できないが、近藤さんがそう言っていたなら仕方ないのかな。

 でも、やっぱり、納得できないなぁ。

 思わず原田さんの顔を見てしまった。

 原田さんは、納得しているのかな?

 私と目があった原田さんは、仕方ないと言う感じでうなずいた。

 やっぱり、仕方ないのか。


 とりあえず、沖田さんの部屋に報告に行かないとなぁ。

 巡察の報告と、伊東さんのこと。

 沖田さん、いじけると大変だからなぁ。

「沖田さん、入りますよ」

 襖を開けると、沖田さんは寝ていた。

 ええっ!具合悪かったのか?

「沖田さん、大丈夫ですか?」

 近くに行き、沖田さんのおでこをさわってみた。

 熱いと言われれば熱いかもしれないけど、これが普通と言われると、普通なのかな?

「蒼良、いつまで僕のおでこさわっているの?」

 あ、起きてる。

 目を開けた沖田さんと目があい、急いで手をどかした。

「す、すみません」

「いや、別にいいよ。蒼良の手、気持ちよかったから」

 沖田さんに手をにぎられ、無理やりおでこに乗せられてしまった。

「具合悪いのですか?」

「蒼良は、すぐそれなんだから」

 だって、まだ夜じゃないのに寝ているんだもん。

 心配するじゃないか。

「眠いから横になっていただけだよ」

 そう言うと、沖田さんは飛び起きた。

 なんだ、そうだったのか。

「そう言えば、伊東さん帰ってきたみたいだね」

 あ、知っていたのか?

「それを教えに来たのですが、知っていたのですね」

「うん。本人が僕の部屋に来たから」

 えっ、そうなのか?

「なんで沖田さんの部屋に?」

「なんでって、失礼だなぁ」

 し、失礼だったか?

「すみません」

「いいよ。冗談だから」

 えっ?そうなのか?

 で、なんで沖田さんの部屋に伊東さんが来たんだ?

「誘われたんだよ。伊東さんに」

 誘われたって、何にだ?

「夜の会に。蒼良も行く?」

 夜の会って、夜の宴会のことか?

 伊東さんが帰ってきたから、宴会をやるってことなんだろう。

「喜んでいきますよ」

 伊東さんの宴会って言うのが気に食わないけど、その分お酒をたくさん飲んでやるっ!

「よかった。僕一人で行くのもなぁと思っていたから、よかったよ」

「誘ってくれて、ありがとうございます」

「僕は、断られるかと思っていたんだけどね」

 お酒の席は断りませんよ。

 

 そして、沖田さんと一緒に行ったところは、屯所の道場だった。

「あれ? 夜の宴会じゃなかったのですか?」

「えっ、誰も宴会なんて言ってないよ。僕は、夜の会って言ったよね」

 確かにそう言っていたような気もする。

 いつ宴が入っちゃったんだ?

「いくらお酒が好きだからって、そこまで聞き間違えちゃうとねぇ」

 ニヤっと笑って沖田さんが言った。

 そうですよね、そんな間違いするのって、私ぐらいですよね。

 ああ、泣きたい。

 と言う事は……。

「伊東さんの夜の会って……」

「ああ、勉強会って言うの?」

 ああ、泣きたいっ!なんで誘われちゃったんだろう?しかも、お礼まで言っていたよね、私。

「蒼良、来てくれたんだね」

 藤堂さんがそう言いながら嬉しそうにやってきた。

「来てくれるなんて思わなかったから、嬉しいよ。ありがとう」

 そう言いながら藤堂さんは私の手をにぎり、ブンブンと上下にふった。

 テンションが高いぞ。

「蒼良は、勉強会と……」

 勉強会と宴会を間違えたんだよ、って言うんだろうなぁと思ったので、急いで沖田さんの口をふさいだ。

「え、どうしたの?」

 それを見て驚いた藤堂さん。

「何でもないですよ。ね、沖田さん。咳が出そうだったから、私がおさえてあげたのですよ」 

「そうなんだ。そう言えば最近、総司はよく咳しているよね」

 え、そうなのか?

「平助、余計なことは言わないでよ」

 藤堂さんの言葉に驚いて、いつの間にか沖田さんの口から手が離れていた。

「蒼良が余計な心配するから」

 余計な心配って、心配するじゃん、そう言うことを聞いたら。

「久しぶりだから、結構集まったな」

 そう言いながら伊東さんが入ってきた。

「さ、始まるから、座って」

 藤堂さんに言われたから座ったけど、一番前だった。

 ええっ!一番前は嫌なのですがっ!

「沖田さん、後ろに行きませんか?」

「なんで?」

 だって、こんな前だと……。

「眠れないじゃないですか」

「え、眠る気でいたの?」

 そう言う気はないのですが、睡魔と言うものが襲ってくるので。

「それなら、なおさら前じゃないとね」

 え、そうなのか?

「緊張感があれば、眠くならないからね」

 いや、変な緊張感が出てすごい嫌なんですが。

「今日は、沖田君と蒼良君が来てくれた」

 伊東さんは、一番前に座っている私たちを見つけると、みんなに向かってそう言った。

 これも嫌なんだけどなぁ。

 チラッと沖田さんを見ると、楽しそうに笑っていた。

 えっ、楽しいのか?


 何回目かに出る伊東さんの勉強会。

 一番前の顔ぶれは、相変わらず変わっていなかった。

 永倉さんと斎藤さんをはじめとする、伊東派の隊士たち。

 そして、話もあまり変わっていないような……。

 ああ、睡魔が襲ってくるのですが。

 沖田さんは大丈夫なのか?と思い、沖田さんを見ると、楽しそうに話を聞いている。

 もしかして、伊東さんに感化されたか?

「というわけで、新選組も長い目で見れば、勤王派に鞍替えした方がいいと思う」

 ああ、また伊東さんはそんなことを言っているよ。

 それなら、最初から新選組に入らなければよかったじゃないか。

「今日は、沖田君と蒼良君もいるから、この二人もきっと鞍替えをするだろう」

 えっ、そうなのか?鞍替えなんて初めて聞いたぞって、そんなこと一言も言って無いからねっ!

 その時に沖田さんに手を引っ張られ、気がついたら、沖田さんと二人で立ち上がっていた。

「僕たちは、勤王派とかそう言うものに興味ないから、多分鞍替えもしないかな」

 沖田さんが伊東さんにそう言うと、

「行こう」

 と、私に言ってから手をひいて出口に向かって歩き出した。

「沖田君と蒼良君。君たちは、どっちなんだ? 勤王派か?佐幕派か?」

 伊東さんは去って行こうとする私たちに向かってそう言った。

 佐幕派と言うのは、幕府派と言う事。

 それを聞いた沖田さんは、

「僕たちは、どちらでもないよ。ただ、近藤さんの所にいるだけだから」

「それだと、自分の意思がないじゃないか。私は沖田君の意思を聞いているんだ」

「僕の意思ですか? 近藤さんと土方さんと一緒ですよ。ね、蒼良」

 最後の方で私と目があったので、相づちを求めてきたのだと思う。

 だから、私は大きくうなずいた。

「僕たちは、退席させていただきます。お話、ありがとうございました」

 沖田さんは伊東さんに頭を下げてから、部屋を出た。

 私も手を引かれて一緒に出たのだった。


「そうか、総司がそう言ったか。ま、あいつは伊東派に走るようなことはねぇと思っているがな」

 土方さんのおっしゃる通り、ないです。

「それにしても、伊東さんも帰って来てそうそう勉強会とは、長州に行って、何か仕入れてきたのか?」

「たぶん、長州で自分は新選組に入っているが勤王派だって、自分を売っていたと思いますよ」

「そんなことまで、歴史に残るのか?」

 残っているのですよ。

「悪いこと何も出来ねぇな」

 えっ、何か悪いことをするつもりだったのか?

 思わず土方さんを見ると、

「冗談だ」

 と言われてしまった。

 なんだ、冗談か。

「でも、そう言う事も歴史に残ると、歴史の勉強が楽しくなるので、ぜひ、お願いします」

「なにをだ_」

「なんか悪いことでも、楽しいことでも。あ、出来れば楽しいほうがいいですかね」

「お前、俺はお前の歴史の勉強を楽しくするためにいるわけじゃねぇぞ」

 あ、そうでした。

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