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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年9月
220/506

紅葉狩り

 なんか、色々とあったらしく、兵庫港が開港した。

 しかも、幕府の独断で。

 というのも、イギリス・オランダ・フランス・アメリカの四ヵ国が、兵庫か大坂を開港させようと狙っていたみたいで、突然兵庫沖に艦隊で現れた。

 軍艦が九隻現れたので、当然攻撃されるかもと思うわけで。

 でも、それが四ヵ国の狙いだったらしく、脅すかのように兵庫の開港を迫ったらしい。

 攻撃されたらえらいことだと思った幕府は、本当なら朝廷に話を持って行ってそれで協議なりするのだけど、それを省略し、開港をしてしまったのだ。

「これじゃあ、攘夷をするどころか、異国の言う通りになってしまったじゃないか」

 と、怒っている土方さん。

 ちなみに攘夷とは、異国を追い払って、日本を強くしようという考えを持つ人たちで、この時代の流行語になっているぐらいよく聞く言葉だ。

 誰を中心として攘夷をするかによって、幕府派と朝廷派で別れているけど、どっち派にしても攘夷は誰もが持っている思想になっている。

「大丈夫ですよ。そんな簡単に日本は乗っ取られませんから」

 この時代は、日本を分裂させて弱くなったところをいただこうと考えている諸外国が多い。

 けど、実際は思い通りにならないはずだ。

 歴史がそうなっている。

「お前、よくそんなのんきにしてられるな」

 のんきにと言われても……

「土方さんが怒ったところで、どうにもならないですよ」

「確かにそうだけどな。お前も、のんきに構えてねぇで、攘夷とかそう言うことをもっと考えたほうがいいぞ」

 そうなのか?

「考えても、どうにもならないことはありますよ」

 こういう時こそ、のんびり構えたほうがいいだろう。

 どんなに脅されようと、この先日本が他の国の物になることはない。

「お前はのんびりしすぎだ。朝廷も、今回のことは相当腹が立ったらしいな」

 土方さんの言う通り、朝廷もそうとう怒っているらしい。

 その証拠に、今回兵庫開港にかかわった幕府の人間の官位を剥奪し、謹慎を命じたらしい。

 朝廷が直接幕府の人事に直接口を出すことがなかったので、幕府の方も驚いてバタバタしているというのが、現在の状況だ。

「そりゃそうでしょう。朝廷の許可なく勝手に開港しちゃったのですから、怒るのもわかりますよ」

「お前は、どっちの味方なんだ?」

 ん?どっちの味方なんだろう?

「両方ですかね」

 すまして私がそう言ったら、

「斬るぞ」

 と、一言言われてしまった。

 な、何か悪いことを言ったか?

「俺たちは、幕府に仕えている会津藩のもとで働いているのだから、幕府というべきだろう」

「ああ、そうでした」

「そうでしたって、お前……」

 土方さんが、怒りでわなわなとふるえていた。

「あ、い、いや、も、もちろん、幕府ですよ。当たり前じゃないですか。ひ、土方さんもそんなに怒らないで」

 私は、あわてて土方さんをなだめた。

 土方さんは、最近またストレスがたまっているのか、すぐに怒る。

「怒ってねぇっ!」

 いや、絶対にそれは怒っているから。

「あまり怒ると、血管が切れますよ」

「なんだ、血管が切れるって」

「血圧が上がってプチッて。特に年配の人に多い……」

「俺は年寄りじゃねぇっ!」

 よけいに怒らせたか?

「だから、そんなに怒らないでくださいよ。あ、そうだ。今は九月だけど紅葉が見ごろだと思いますよ」

 九月なんだけど、現代に直すと十一月の上旬ぐらいにあたる。

「九月だけどって、ま、確かにいつもは十月が見ごろだしな」

 今年は、閏月というものが五月にあり、一年が十三カ月ある。

 そのせいで、いつもは旧暦の十月が紅葉の見ごろなんだけど、今年は九月になってしまった。

「見に行ってみるか?」

 土方さんに誘われた。

「行きましょう。俳句を詠む人は特に季節を感じに行ったほうがいいですよ」

「なんだと?」

 なんか、また怒らせるようなことを言ったか?


 この前、藤堂さんと醍醐寺に行った時も紅葉が綺麗だったけど、今回来た嵐山も綺麗だ。

 しかも、散っていく紅葉という感じで、色が変わった葉がひらひらと散っている。

 嵐山に着いた時はすでに夕方になっていた。

 夕方の赤と、紅葉の紅がまじりあってとっても綺麗に見えた。

「なんか、素敵な景色ですね」

 思わず無言で見とれていた。

「ああ、この景色が見たかったんだ。綺麗だって聞いたから」

 そうなんだ。

「ところで、誰から聞いたのですか?」

 うちの隊には、こんな風流を好む人はいないと思うし。

「誰だっていいだろう」

 そう言われると、余計に気になる。

 じいっと土方さんを見ると、

「何見てんだ」

 と、言われてしまった。

 女の人に言われたのかなぁ。

 でも、なんでそんなことを気にするんだろう?

 別に、土方さんが誰から聞いてもいいだろう。

 そんなことを思いながら歩いていると、何かを踏んだような感じがして、下を見た。

「あ、どんぐりだ」

 私はそう言いながらかがんでどんぐりを拾った。

「そんなもの拾ってどうすんだ?」

 どうしよう?でも、つい拾っちゃうんだよね。

「こまでも作って遊びますか?」

「子供じゃあるめぇし」

 そんなことを言いながら、土方さんもどんぐりを拾い始めた。

「土方さんこそ、なんで拾っているのですか?」

「そりゃ、お前がほしそうにしているからだろう」

 そ、そうなのか?

 私、ほしそうにしていたか?

 そんなことを思っているうちにどんぐりは増えていった。

「沖田さんへのお土産にしようかなぁ」

「ああ、そりゃいいかもな。あいつ、屯所の中にいるのが暇でたまらねぇみたいで、たまに俺にちょっかい出してきやがる」

 そうなんだ。

「土方さんに出してくるのですか?」

 ちょっかいを出してくる沖田さんを叱りたいけど、沖田さんの安静にしている理由を知っているから叱れない土方さんを想像して、ちょっと笑ってしまった。

「お前、笑いごとじゃねぇぞ」

 そんなことを言った土方さんが余計におかしく見えて再び笑ってしまった。


 宿に着いた。

 嵐山に着いたのが夕方で、これから屯所に帰るとしても夜遅くなり、しかも、夜道も現代のように明るくはない。

 だから、今回も宿を取ってくれた。

「男二人でって、宿の人間は思うだろうなぁ」

 そんなことを言いながら、土方さんは部屋に入った。

「別にいいじゃないですか。他人は他人ですよ。男色でも何でも思わせておけばいいのです」

「俺は、男色じゃねぇぞ。だからそう思われるのは心外だ」

「わ、私だって、男色じゃないですよ」

「あたりめぇだろう。お前は男色にならんだろう」

 確かに。

 部屋に入ると、部屋から紅葉が見えた。

 そして宿の庭の木も赤や黄色に染まっていて、それが散り始めていた。

「いいお部屋ですね」

 部屋に入ってすぐ庭の方へ行って座った。

「ああ、いい部屋だなぁ」

 土方さんもそう言って、荷物をおろした。


 夕食を食べ終え、部屋に戻って近場だけどすっかり旅行気分を味わっていると、

「外に出てみるか?」

 と、土方さんに誘われた。

「暗くて何も見えないですよ」

 現代なら、きっとこんな時期はライトアップをしているだろう。

「そうでもねぇぞ」

 土方さんにそう言われ、それなら外に出てみようかなぁと思って、外に出てみた。

 この日はちょうど満月で、月明かりが紅葉している木に降り注ぎ、また夕方とは違った幻想的な風景が広がっていた。

 夕方が赤の世界なら、夜は白い月明かりと赤い紅葉の世界だろう。

「すごい綺麗です」

 感動して興奮気味に言ってしまった。

「だろう」

「初めて見ました。こんな綺麗な月明かりと紅葉」

「月明かりは、満月になると見えるだろう」

 確かにそうなんだけど、現代だと電灯と言うものがあるから、月明かりが明るいと感じたことがあまりない。

 この時代に来てから、初めて月明かりが綺麗だと思ったり、星がきれいだと思ったりしたのだ。

「お前は本当に変わっているなぁ。普通ならなんでもないものをつかまえて、綺麗だと感動したりする」

 土方さんが月を見ながらそう言った。

「だって、本当に綺麗じゃないですか。月も星も」

「月も星も、ほぼ毎日出ているだろう。しかも当たり前に」

 そうなんだけど、この時代にしか味わえない綺麗さなんだから、いいじゃないか。

「だめですか?」

 思わず聞いてしまった。

「いや、そう言うお前がいいなぁと思う」

 そう言われて、驚いて土方さんの顔を見上げてしまった。

 月を見ているはずの土方さんの目は、私の目とあってしまった。

 ドキッとしたけど、目をそらすことも出来ず、そのまま見つめてしまった。

「そんなお前を見てると、救われる時もある。お前がいなければ、俺はどうなっていただろうなぁ」

 そう言うと、土方さんは再び夜空を見上げた。

 どうなっていたのだろう?

 歴史では、普通に新選組の副長をしていたと思うけど。

 違うのか?

「お前がいなければ、俺はもっと鬼になっていただろうなぁ。人間に戻れなくなっていたかもしれねぇなぁ」

 なんか、意味が分からないけど、そうなのか?

 今でも豆を投げたくなるぐらい鬼だなぁと感じる時があるけど。

 そんなことを思って土方さんを見上げていると、また目があった。

 もしかして、豆投げようと思ったことがばれたのか?

「ありがとな」

 優しい目と優しい声で、そう言われた。 

 いきなりそんなこと言われても……。

 ドキドキが止まらないんだけど、どうしよう?

「それと、これからも俺の近くにいろ。わかったな?」

 思わずコクンとうなずいてしまった。

 今日はなんで優しいんだろう?

 きっと月と紅葉のせいか?

 急に優しくなったから、ドキドキが止まらないんだ。

 きっとそうだ。

「よし、宿に戻るか。夜風も冷たくなってきたしな」

 そう言うと、土方さんは私の頭をポンポンと軽くなでてきたのだった。


蒼良そらこんなにどんぐりを持って帰って来て、僕にどうしろと?」

 嵐山から帰ってきた後、沖田さんにどんぐりを持って行ったら、そう言われてしまった。

 確かに、巾着いっぱいのどんぐりはいらないよね。

 しかも、沖田さんの部屋にどんぐりを広げたら、白い小さな虫が出てきた。

「む、虫っ!」

 驚いてそう叫ぶと、

「どんぐりだもん、虫もいるでしょう」

 と、沖田さんに言われてしまった。

「どんぐりに虫がいるのですか?」

「えっ、蒼良、知らなかったの?」

 知らなかった……。

「知っていたら、持って帰ってこなかったですよ」

「蒼良は虫が嫌いらしいとは聞いていたけど、本当だったんだ」

「そんなことに感心しないで、早く虫を追い払ってくださいよ」

「言っとくけど、蒼良が持ってきたんだからね」

 た、確かに。

 沖田さんは、器用に虫を取ってくれた。

「中に入っているから、また出てくるかもしれないけど」

 ひぃっ!そうなのか?

「捨てましょうか?」

 虫付きのどんぐりなんていらないだろう。

「いや、せっかくだから、これで何か作って遊ぶよ。ありがとう」

 逆にお礼を言われてしまった。

「今日は熱があるとかじゃないですよね」

 沖田さんの口から出たとは思えない言葉だったので、思わず沖田さんのおでこに手をのせてしまったのだった。

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