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出会い

 相手が余命一年と知って、なにをしてあげられるのか? 時間は有限で決して無限ではない。仮に自分が問題に直面したとして彼女たちへ残せるモノは、いったいなんだろう?

 かつて命を救われたからこそ、幾度となく思う。


 ヴェリム、人に変わり戦争の代行者となった人工生命兵器。人間には忌み嫌われ、軍には都合よく扱われている。姿は人間と変わらないが、扱いは酷いものだった。そんなヴェリムたちを笑うように、戦争は今も続いている。

 揺れる車の窓に映る、崩れた家屋、荒廃した野原。戦場から少し離れた生活圏にも戦争は影を落としている。職や家族を失い、戦争のない国へと逃れる難民たちの列が遠くに見えた。


「ここだ」


 放り出されるように降りたのは伸びた草木が囲む廃墟にも似た収容施設。数日分の着替えのみが入った鞄しか所持しておらず、湧き上がってくるのは不安という感情だけ。誰かを頼ろうにも乗ってきた車は既に土煙を立てて走り去っていた。


「上手く、やれるだろうか?」


 辺境の田舎から十六で都会へ出てきたが、想定した以上に同僚も人々も優しくない。なにかを聞いても無視か冷たくあしらわれるだけ。戦争という狂気が身近にある都会では、誰もが他人のことを思う暇などないのかもしれない。故郷で土いじりをしていた方が安らかに過ごせたであろうが、僕には夢があった。ヴェリムに恩返しするという、他人に語れば笑われそうな夢を。


 かつて、僕は戦争に巻き込まれ母親以外の家族を亡くした。熱く、息苦しく、どこまでも広がる焦げた匂いと炎海。当時幼かった僕は泣きわめくだけで、なにもできなかったのを覚えている。煙を吸って衰弱し、死を待つだけ。そんな僕の前に救世主のように現れたのが、ヴェリムだった。僕を片手に抱き戦場を駆け抜け、戦火がない場所へと連れて行ってくれた。


 命を救われた存在であるヴェリムに興味を持ったのは言うまでもない。

 そして、知った。ヴェリムを補助する整備士という仕事があることを。

 軍服を整え、錆びて軋む鉄格子の門を開けて踏み出す。施設内は全く整備されておらず建物にはヒビや穴が目立つ。無機質な壁に区切られた長い廊下には革靴の音だけが響いていた。


「前任者の引継ぎもなし、か」


 支給されたタブレットの電源を入れ、改めて仕事内容を確認する。

 仕事は人工生命兵器の整備及び調整と書いてあるが、ここは前線基地でも軍本部でもない。通常、整備士はヴェリムを整備するためどちらかに配属されると聞いていたが、僕は違うらしい。思い出したのは入隊の際に聞いた一年以内に死亡してしまうヴェリム、別名エンドを収容している施設があるという話。


 収容施設ガラクチック・パラダイス、軍の内部では所謂窓際部署として有名であり整備士としては出世コースから大いに外れてしまう。しかも、エンドとなったヴェリムは扱いや調整が難しいとされる。出世はもとより望んでいないが、新人には荷が重い仕事ともいえた。よぎる不安を振り払うように首を振って、タブレットをしまうと長く暗い廊下を抜けた。


「おお……」


 視界に飛び込んできたのは円状に吹き抜けた庭園。小鳥や蝶の舞踏会が催されているのか外見からは想像もできない色鮮やかな、技術の発展と共に失われつつある買いたての色とりどりのクレヨンで描かれた景色があった。

 近寄ろうと足を踏み入れが演者を驚かせてしまったのか舞踏会はお開きに。代わりに誰かが来たことに気づいたのか、中央の噴水の影から一人の少女が顔を出した。


「誰?」


 すらりと伸びた手足に程よい肉付きの肢体。背中まである黒髪を揺らし歩み寄り不思議そうな赤褐色の瞳で僕をとらえる美しい少女だった。

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