インテリマフィアのオルゾさん、カチコミの準備をする。
オルゾは情報を収集しつつイライラと指先で椅子の肘掛けを叩く。
オルゾがムカついている理由は二つ。
一つはヴィテッロ組がオロトゥーリア組に真実を伝えていなかったことだ。初めから子飼いの暗殺者がウチの縄張りで逃亡し、迷惑をかけたという話の謝罪をすべきだった。
「……ああ、なるほど」
ヴィテッロ組がアキッレーオを中途半端に高い金で雇おうとした理由が分かった。
そもそも逃亡している彼女の身体能力や潜伏能力が高く、捕まえるのが困難であろうと踏んだからだ。ただのチンピラでは捕まえられないと考えたのだろう。
そしてムカついている理由のもう一つ。
ラファエラがオルゾたちに助けを求めなかったことである。まあ、偽ラファエラにもそうしなかった理由はあるのだろう。そもそも会って一日の男女に、それもヴィテッロ組と同じマフィアの者たちに助けを求められるかといえば否であろう。気持ちはわかる。
「……だが腹は立つ」
オルゾは深く息を吐いた。
ここで怒りを感じているのは、オルゾが彼女に頼られたかったということを意味している。情がうつっていることを否定できない。
ヴィテッロ組が仮に正直に、あれが子飼いの暗殺者で返還を要求した場合、手放せたであろうかと思わなくもないのだ。
オルゾは調査を、思索を続ける。
だがインターホンの音がオルゾの思考を引き戻した。部下の誰かが到着したのだろう。
廊下を近寄る足音、エキーノのものだ。
「オルゾさん、失礼します。サルディーナさんとスクアーロさんが到着しました」
「おう」
オルゾは立ち上がり、部屋を出る。
エキーノが軽く頭を下げた。
「それとトンノさんは海上なんですぐには来られず、後で合流すると」
「そりゃ仕方ねえ」
トンノは漁師であり、密輸屋だ。今は午後であり、漁師の仕事の時間ではない。だが合法か非合法か、何か運びの仕事をしている最中なのであろう。
リビングへと向かえば二人の男が部屋に増えていた。
「おう、集まって貰って悪いな」
「いえ、大丈夫です」
スクアーロが返事を返し、サルディーナも頷いた。
サルディーナもスクアーロもオルゾより歳上である。だが二人とも姿勢を正し、オルゾへの敬意は見てとれた。
「状況は?」
「エキーノから説明を受けました」
オルゾは彼らに頭を下げた。
「すまない」
「……な、なんですかい、頭あげてくださいよ」
サルディーナが慌てたように言う。オルゾは頭を上げて彼らの目を見る。碧の瞳には強い感情の光が覗いていた。
「ヴィテッロ組の計画に気づけなかったのは俺の失態だし、この件にお前たちを巻き込むのも、あるいは他の組員に任せないのも俺の我儘だ」
二人はニヤリと笑みを浮かべる。
「幹部、それは光栄ってもんです」
オルゾという男は有能で、基本的には自分でなんとかしてしまうのである。それに頼られるのは部下としての喜びであった。
「その言葉に感謝し、お前たちに頼もう。ヴィテッロ組を襲撃し、本物のラファエラを救い出してくれ。サルディーナ、お前が前に出てスクアーロはその補助だ」
サルディーナは頷くが、ソファに座っていたアキッレーオが茶化すように声を掛ける。
「ずいぶん無茶を言うんだな。俺もそれに参加した方が良くない?」
オルゾは首を横に振った。
「ポモドーロって奴がいただろう。あいつローマに戻ってないぞ」
「ん?」
アキッレーオは首を傾げる。
「偽ラファエラの暗殺をバックアップするのか監視なのか分からんが、ヴィテッロの実働部隊の半分はまだナポリ付近に潜伏しているはずだ。兄貴にはそれを対処して貰いたい」
アキッレーオは頷いた。エキーノが尋ねる。
「俺は……?」
「お前は俺の護衛だ」
「あたしは……?」
「お前は留守番だぞ」
ステラマリナが問い、オルゾはにべもなく答えた。マフィアの出入りである。本来は女子供の出番ではない。
ステラマリナはぷうと頬を膨らせた。
「ともあれ……」
オルゾはサルディーナらに向き直る。
「本部が手薄なんだ。お前らならやれるはずだ」
スクアーロは自嘲気味に笑った。
「仰せのままに、ですがあたしゃ荒事は苦手ですけどね」
サルディーナは殺し屋だ。だがスクアーロは高利貸しである。もちろんマフィアの嗜みとして銃もナイフも並以上に扱えるが、特に得手という訳でもない。
「分かっている」
オルゾはポケットからカードを一枚取り出してスクアーロに渡した。
「お前の弾はこれだろ」
金である。借金で首の回らない奴、チンピラ、金で雇えるフリーランス、それを武器にしろと言っているのだ。
「いかほどで?」
「昨日の深夜に利確させておいた1000万ユーロだ。使い切っていいぞ」
ひゅう、と口笛の音が部屋に響いた。




