エピソード6 完璧な人間ってむしろ付き合い方に困るものだ
「おおう、すげぇな」
いろいろ3人が準備した部屋は女子らしい部屋だったが、3人の好みがもろにでていた。
水城はとても可愛らしいぬいぐるみがたくさん。これはいい。
由美はダイエットグッズと多くのお菓子。内容が矛盾しているがこれも分かる。
杏里はキャンドルやお香と多くの本。これも分かる。
ただ、それらが全く整理されておらず、カオスになっていた。
3人とも整理整頓ができるタイプではなかったようだ。
まぁこっちの部屋は綺麗にしろとは言われてないし、俺も掃除は苦手だから放置するしかあるまい。
「太一、一緒に帰ろう」
「太一よ、私も途中まで」
「太一君、今日はやることないから、一緒に帰ろうねー」
今日も杏里、由美、水城の3人に囲まれる。
あの散らかった部屋でも自分達のプライベート空間を共有できたことでより仲良くなってより親密になった。
そのせいか、周りからの目線は好奇や嫉妬を通り越して、呆れや憎悪に変わりつつあった。
「太一、実にうらやましいな。俺もそうなりたいもんだ」
となりの席である拓也もそのうちの1人だったはずだが、彼には結構余裕があった。
クラスのまとめ役である彼が俺に対して柔和な態度を取ってくれるおかげで、そこまで大事になっていないのだ。
「うう、さわやか過ぎてまぶしい」
「これがリア充というやつか」
「何でもできて性格までいいなんて……、私よりよっぽどリーダー向きだねー」
野球がうまく、顔もいい、スタイルも悪くなく、成績もよくて、人気もある。
彼に彼女がいないということは、この学校では周知になっていて、実際に告白されたこともあるくらいにモテる。
そんな彼は内気な杏里やネガティブな由美にはどうも直視できないようだ。
水城は普通に友人がいるのだが、自分よりスペックの高い彼をうらやましく思うのか、ちょっとだけ不満げな顔であった。
「拓也は人気あるんだから、いつでも彼女はできるだろう。どんな子が好みなんだ?」
「胸のある子だ!」
さわやかイケメンから、最低の告白。
大声で言ったわけではないので、他の人には聞こえていないようだが、俺たち4人には聞こえた。
「むー」
杏里が自分の胸を隠す。杏里はこの3人の中では身長は144cmと低いが胸がある。かなりある。
「…………」
基本的に自分下げ相手上げの由美が、珍しく引きながら冷たい目で見る。もともと顔立ちはクールな大人の女性に見えるので、意外と迫力がある。ちなみに、175センチを超える身長だが、胸は全くない。小さいですらなく無いである。一応気にしているのか?
「拓也君ってそう言うタイプだったんだ~」
水城は苦笑いである。水城は良くも悪くも人並みである。女子高校生として平均的である。
「杏里、拓也ってどう思う?」
杏里が『何言ってんの?』というような表情で、俺のひじ辺りをつまんで抗議する。
「杏里は駄目なのか? 拓也と付き合えれば一気に友人が増えるぞ」
小さな声でひそひそと話す。
「ちょっと彼はないな」
わぉ、ど直球。
「いろいろ出来すぎて釣り合わない……」
しかもリアルな意見。
「振られちゃったな~。藤川さんはかなり大きいからねらい目だったんだが。多分Fはあるだろう。144センチの身長に84と言った所だからな」
そう言って杏里の胸の辺りを見る。
拓也は身長がかなり大きいから、由美は例外としても、普通の女子を見る分には上から見下ろす形になり、少しだけ目線を低くすると胸の辺りを見れるが、それがあまり不自然ではない。
ただ、今の発言を聞くと、明らかに見ているのが分かる。
「というか、正しいのか?」
それを聞いて杏里に振り向くと、赤い顔でうつむいていた。それが正解であることを全て物語っていた。
「全くもう。恥ずかしかった~」
「ちょっとうらやましい。私に徳がないから胸が無いんだな」
「いや、由美ちゃんはスタイルいいでしょ。私は2人と比べると地味だよ」
帰宅中完全に女子トークになり、俺の入る隙間は無かった。
「じゃあ俺は……」
「待って」
女子トークに参加できるスキルがないので逃げようと思ったが、杏里に捕まってしまった。
「た、太一はえーと。胸のある女子はどう思うのかな?」
顔を真っ赤にしながら腕でお腹の辺りを抱きしめて聞いてくる。腕に胸が乗る形になるので、より大きさが際立つ。彼女がそれを意識しているとは思えないが、胸が大きいため重たくて自然と支える姿勢になるのだろう。
それを聞いたら殴られるな。
「そ、そうだよな。太一も男なんだから女性らしいほうがいいよな……」
由美は高い身長とスレンダーな体系にコンプレックスがある。元来のネガティブ差はこれも原因だろう。
「でも太一はそんなこと気にしないって信じてるから……」
しかし俺に対しての妙な信頼感か、そこだけネガティブではない。
右手に低身長巨乳、左手に高身長無乳。そしてどちらも俺に信頼感をおいてくれている。どっちの意見を言っても傷つけそうで困る。
「まぁ、俺はどっちでもいいさ。肝心なのは胸じゃなくて誰かってことだろ」
だから俺は無難な意見を言うしかなかった。
「そ、そんな。私個人を褒めてくれるなんて……」
「信じていたよ。やはり君は尊敬に値する」
そんな日和見な台詞なのに喜んでいたから正解ではあった。
「私のことも同じ?」
中途半……、平均的なスタイルな水城も俺に同じ質問をしてきた。
「同じだよ。がんばってる水城は素敵だと思うぞ」
水城もそれを聞いて喜んでいた。
3人の美少女が道のど真ん中で、クネクネしたり、頬に手を当てていたり、ピョンピョンはねていたりと目立つ行動を取っていた。
「こーら、道をふさいだら近所の方に迷惑でしょ。まっすぐ歩きなさい」
そんな迷惑とも言える行動を取っている俺たち(俺は入ってないが原因は俺だから)に声をかける人がいた。
「あ、どうも佐々木先輩」
その人は生徒会副会長佐々木美香先輩であった。
ピタ!
決して厳しい言い方ではない。だが4期連続で生徒会役員を務める彼女の声には妙な迫力があった。
杏里、由美、水城が3人とも並んで道の脇に退いた。
「水城! あなたはクラス長でしょ! 注意する側じゃないの?」
「すいません~」
水城が反省の色を見せて頭を下げる。
「あなたたちも。明星高校の制服を着ている以上は帰るまできちんとしなきゃ駄目よ」
「う……、すいません」
「申し訳ない。私のようなものが周りに迷惑をかけるなんとは何と不覚……」
杏里と由美も反省していた。
基本的にうつむきがちな由美にいたっては土下座までしそうである。
「あなたもよ。岩瀬君」
「俺は何もしてませんよ」
「見てたし、最近噂になってるわよ。学園でも人気の3人を独占してるって。一応学校では不純異性交遊は禁止してるわよ」
「ベつに3人とも友人です。変なことはしてませんよ」
「別にあなたを疑うわけじゃないわ。ただ、世間からそう見えるってことだけ気をつけておいてってこと」
なるほど、俺は転校生ということで目立っているし、彼女たちも目立つ存在だ。簡単な接触でもある節度が必要ということか。
「そうですね。気をつけます」
「ふふ、よろしい。でもうれしいわ。藤川さんと山口さんのことは心配してたけど、きちんと友人が出来たみたいで。私も一緒していいかしら?」
そう言ってゆったりと歩いていく。歩く姿も気品溢れた上品さである。
「うう~、あの身長うらやましい~」
「私では身長以外相手にならない」
「何も勝てないよ~」
学園でも屈指の美少女3人ですら羨ましがるそのハイスペック。
由美レベルの身長に、杏里レベルのスタイル。それでいて勉強もできて、信頼もあつく、仕事においてのミスは何もない。
女子が憧れるレベルのいいところだけをとったらこうなるという人だ。
「あの~、普段は何をされているんですか?」
3人が完全に萎縮していて、知り合いのはずの水城すら話そうとしないので俺が会話を持ちかける。
「私? 家に帰ったらお母さんの変わりに夕食の準備と掃除をするわね」
カコーン!
「生徒会の仕事も大変なのに、そんなことやってたら趣味の時間とれないんじゃないですか?」
「いいえ、時間管理も仕事のうちよ。時間は作れるわ。 初めてのときはこんなの無理って 思ったけどね」
カコーン!!
「成績は……?」
「学年1位よ。推薦ももらえそうだし、がんばってきたかいがあったわ」
カコーン!!!
話を聞けば聞くほど彼女のハイスペックさが伺え、なぜか後ろの3人からショックを受けたような音が聞こえてくる。
「くっ、なんだなんだ。あれでは文句のつけようが無いじゃないか」
「欠点がまるでない。私は一生勝てない」
「いつかは私も美香先輩みたいに……、うふふふふ、初めて……」
日本で活躍する官僚の父を持ち、父親のようになりたいとがんばっている水城は彼女を尊敬するまなざしを見せていたが、杏里は嫉妬、由美は絶望の視線を向けていた。
だが、真面目な話なのに水城が少しいつもの謎の笑いをしていた。
それはそれとして拓也もそうだが、いろいろやることがあって大変な人に限って成績がよかったりするのは、時間の管理がうまいということか。
下手になまじ時間が無い方がやることをきちんと決められるし、俺も時間を管理して予定を組むようにしなきゃいけないな。
「じゃあみんな。気をつけてね」
学校を少しだけ歩いただけで佐々木先輩とは帰宅のルートが変わったため、すぐに別れた。
「なぁ、太一?」
「何だ?」
「佐々木先輩は素敵な人だな。ああいう人ならやっぱり好きか?」
杏里は何か不安そうな表情で俺を見ていた。
杏里はなんだかんだで自分の容姿に自信はあったようで、由美みたいな猫背になっていた。
「だからな。あそこまでのレベルは俺には釣り合わないって。というか、杏里に由美に水城レベルでも俺にはすごすぎる幸運だな」
その言葉に杏里達は喜んでいた。
3人とも不安そうにしていたが、3人がまったく劣るとは思えないんだがな。
杏里自分で言ってたよな。完璧すぎる相手はかえって苦手になるって。
内気さやおかしいまでのネガティブさや高レベルの天然とか、ちょっとしたというか圧倒的な欠点があったほうが付き合ってて面白いと思うんだけどな。
あの人とまかり間違ってつきあえたとしても、大変そうだと思うし。
「じゃあ今日は私達の部屋に置くものを買いに行くぞ~」
「「おー」」
今日はカフェの2階には行かない。
部屋が大分綺麗になったので、インテリアを決めにいくのであった。
場所は俺と由美が会ったデパートの家具売り場や小物売り場。
3人が三者三様でものを決めていった。
ちょっと変わった女子3人だが、趣味は女子っぽく可愛らしいものをずっと選んでいた。
俺はインテリアに興味はないので、完全に3人に任せておいた。
大きなものはカフェ宛にこっそり郵送してもらい、小物は家の近い俺があずかった。
俺は座って待っていただけで、何もしていないし、こういったものはよくわからないので、まかせっきりだったから、特に語ることはない。
ただ、あのカオスな部屋が少しでも整理されることを祈るしかなかった。




