エピソード39 最後の一対一
初日から残念要素丸出しの全員だった。
その日の夜に水城と京と先輩が忍び込んで何かしに来た様子があった。
お風呂場でのことを聞いておいてよかった。
あの後の展開を考えると、絶対に何かしに来ると思って、荷物だけおいて違う部屋に移動しておいた。
次の日に、水城と先輩がなんか照れあっていて、京がそれを苦笑いで見ていたのだが、何があったのだろう。知りたくもないが。
まずそもそも部屋に入ってくる事件が起こる時点で、彼女たちは残念である。
あの後杏里や、まさか由美まで来るとは。恋愛してれば何してもいいのか?
それ以降暴走しやすいメンバーが落ち着いたこともあり、海で遊んだり、近くの山に登ったり、ゲームしたり、とても楽しかった。
そして帰宅前夜になる。明日の15時ころに赤堀さんが迎えにくる。今回の旅行の目的はみんなとほかのだれもいないところで過ごし、関係をはっきりさせること。
しかし今回の旅行でさらに、みんなの魅力、(一部残念要素も分かったが、それはそれで魅力に思えてきた。俺も毒されてるのか?)が増えただけ。しかも誰かだけではなく、皆同じくらいだ。
この彼女たちに順位を決められるものか?
そして俺が考えたことが1つある。
なぜ彼女達は、俺をここまで好いてくれるのだろうか?
確かにみんな俺が秘密を知ったのだから、恋愛におけるきっかけとしてはベストだ。
だが、これくらいのきっかけは起こり得ること。
それにきっかけがなくても、彼女達くらいのスペックなら告白は1度や2度ではないし、俺より優れた人もいただろう。
現に京は入学してすぐに告白を受けていたし、俺の知らないところでもそういうことはあった。
改めて考えると、彼女達が全員俺を好いてくれて、しかもほかに女子がいても、まったくあきらめる様子がないというのはよく考えると不自然なんだ。
俺にそこまでの価値があるのか?
考えても考えても答えが出ない。ぐるぐると回って堂々めぐり。彼女達の心がわからない以上は、わかるはずもない。
ただ理由が分からずもやもやとした状況だけが、俺を悩ませる。
コンコン。
そうこうしているとドアがたたかれる。
「おっとと、何だ?」
「先輩、失礼します!」
京が静かに入ってくる。
「京? どうした?」
「みなさんと相談して、あと1回だけ自分たちのことを話そうと思ったんです。この後、美香先輩、水城先輩、由美先輩、杏里先輩の順番で部屋に失礼しますよ」
「まじか……」
まぁいいか。1人で考えていても答えが出ない。ちょっと話すのは気分転換になるだろう。
「先輩、以前私が言ったこと覚えています? 先輩の判断を尊重するってこと」
「ああ、もちろん、あれですごく気が楽になった」
気が楽になりすぎて、3ヶ月もこの状況を許してしまったのだが。
「私、夢があるんです」
「やっぱりお嫁さんか?」
「ええ、正解です。そしてたくさんの家族が欲しいと思っています。私は5人も兄弟がいてとても幸せでした。私もああいう家族を作りたいです」
「京は弟たちの面倒きちんと見てるもんな。子供も好きなのか?」
「ええ、子供は好きです。でも親戚の子供とか、友人の弟や妹みたいに、大切な人の子供が特に好きです。ですから、自分の子供なんて、本当に可愛いと思います。ですから、たくさん欲しいです。仲がよくて皆で楽しめそうな子供が一杯いたら幸せだと思います」
「楽しそうだな。京の家はいい子ばかりだからな。、やんちゃだけど真面目そうに育ってるし、京はもうお母さんになれるだろう」
高津家の子供は、もちろん両親の言うことも聞くが、京をかなり慕っている。
既にしつけをするという概念があるという恐ろしさ。
「私がんばりますから、先輩もがんばってください。それに、私先輩の子供でしたら、愛せます」
ん? 何で俺の子供であることを強調するんだ? まだ先のこととはいえ、京は俺と結婚できたら言いという話をしているのだから、当然京の子供だよな?
深く考えてはいけない。ちょっと京の目が笑っていなくても気にしてはいけない。
「やっほ、たっくん、なんか疲れてない?」
「いえ、大丈夫です」
「そんなに悩んでるの? 私が話しても大丈夫かしら?」
「はい、聞きますので」
「私は将来外国に行きたいと思ってるの」
「唐突ですね」
「海外に日本の文化を広めたいの、ゲームとか漫画とか」
「それも唐突ですね。ではそう言う仕事に就くんですか?」
「ううん、海外で働ける仕事に就いて、娯楽として広めたいわ。ゲームや漫画は仕事として優秀だと思うわ。でも私にとっては、大変な日々を過ごせる娯楽よ。趣味は仕事にしちゃ駄目よ。好きなことは好きなときにできてこそ好きなことなのよ」
「先輩らしい意見ですね」
「で、もし夢がかなったら、いろんな世界を見て周りたい。だから私には結婚はあまり考えられなかったわ。結婚すれば、旦那になる人と過ごす時間も必要になるし、子供でもできればもっと難しくなる。だから、世界を見て周ってから、そのことを考えたい。結果的に私はカリスマになってたから、あまり男子に告白されることもなかったの。でも、たっくん。あなたとは一緒にいたいと思うわ。でも、夢もあきらめたくない。だから、もしたっくんが私だけを見てくれるなら、一緒に海外に来てくれるか、ずっと待ってくれるか、結婚しても一緒にいれる時間が少ないのどれかになるわ。だから、私を選ぶならそれだけの覚悟を決めて欲しいの」
「先輩は誰かに譲るつもりですか?」
なんかまるで私自分を選んで欲しくないとでも言う発言だ。
「ううん。私は夢を両親にも話したことはないわ。たっくんが初めてよ。だからこそ、全て話しておきたかったの。たっくんを裏切るようなことだけはしたくないから。このことを知った上でも私を選んでくれるなら、本当に嬉しいと思うわ。どう思うかしら?」
「いえ、素敵だと思いますし、先輩くらい能力のある人なら社会に出るべきだと思います。晩婚化も進んでますし、結婚は遅くてもいいんじゃないですか? 先輩多分美人なままでしょうし、問題ないでしょう」
「うん、あなたはやっぱり優しいわね。生徒会準備室で会ったときと何も変わらない。世界の人が皆、そうなるなら幸せなのに」
「先輩がかなえるんですよね」
「そうね。何かつらいことがあったら慰めてね。もし私が選ばれなくても、きっと関係を続けていけると思うわ」
そう言って先輩が部屋を出て行く。
将来を考えた1年上の意見を聞いて、やはり先輩はきちんとした人だと改めて思うのであった。
先輩とは友人関係でも続けていけそうだと思うし、関係が切れることはないと思う。
「はぁ、はぁ。太一君、やっと二人きりになれたね」
そんないい感じだったのに、次に来た水城がぶち壊す。
「なんで息を荒げてるんだ? 後そのネグリジェは男女2人きりの部屋には刺激が強くないか?」
「大丈夫だよ~、露出はあまりないでしょ」
「露出は少ないが、ちょっと透けすぎなんだよ。ちゃんとした話をするのに、直視できんのは困る」
「太一君って、メイドとか、巫女とか、基本的には露出があまり強くない方が好みだよね~」
「何の話だ?」
「だからいつもの半そで半ズボンよりも、露出は少ない寝巻きにしたんだよ。スケスケのスケベボディでスケベな太一君を……」
「何でそういつも通りなんだよ……」
「いつも通りな方がいいでしょ」
そして水城は上を羽織って、少し服装を整える。なんだ持ってきたのか。
「私は太一君にいろいろしてもらって、その上これだけいい子ばかりの中で選ばれるなんて、厳しいと思っているの。その不安から、太一君に構ってもらいたくて、色々変なことを言ってたんだよ~」
「水城……」
そう言う風に考えると、水城の言動が急に愛おしく……、ならんな。他にもやりようがあるのに、言いたい放題言ってたしな。
「はぁはぁ、そんなさげすんだ目で見ないで……。ああ、太一君が私を気にしてくれてる……」
「なんかもうムードも何もないな」
結局水城とはいつも通りだった。
でも、水城の破天荒な下ネタトークと話していると、疲れるが自然と何も気にならなくなる。
もう俺が何をしてもある意味肯定してくれそうではあるという妙な安心感はあった。
「4番目が私……、4など不吉「いいから入って来い」
水城との絡みで、京、先輩とのいい空気がパーになっているため、ちょっと雑な対応になってしまう。
「そ、そんなに怒らないでくれ。私の話など30秒もあれば終わる」
「いや、もう30秒経ってるから」
「分かった。じゃあ戻る」
「制限時間ないから! むしろこの時間が無駄だ!」
由美は本当に変わらない。めんどくさい。
「た、太一。私はずっと自信がなくて、これだけたくさんの友人に恵まれたのは初めてだ」
「それは何よりだな」
「だから、怖くなった。美香先輩が今回のことを言い出したときに、目を背けていたことが現実となった。この関係が壊れてしまうと」
「別に仲良くはできるだろ。卒業しても家もそんなに遠くはないし」
「大学だけならそうかもしれない。だが、未来のことは分からない。ずっといられる確固たるものがなければ不安で仕方ない」
「確固たるものってなんだ? 俺の言葉だけじゃ駄目なのか? 杏里とも仲がいいんだし……、それ以上のことはないだろ」
「違う。一緒にいることが当然の存在になりたい。だから、私は太一にとって家族と同じような存在でありたいと思っている」
「家族同然の存在って……」
「私は太一のことが本当に好きだ。ずっと一緒にいたいという気持ちが隠せないくらいに。他の4人の方がいい子が多いから、きっと迷惑だろう。でも、これだけは言いたかった」
まさか……、他の3人はどちらかというと控えめの(水城が控えめかは怪しいが)コメントをしてきた中、ネガティブな由美がこれだけ強い気持ちをぶつけてくるなんて。
「あ、ありがとな。由美がそこまで思ってくれてるなんてな」
「う、うれしいか?」
「も、もちろんだ」
正直言葉にならない。由美から前向きな言葉がきちんと聞けただけでも嬉しくて仕方ないのに、それを俺に向けてくれるなんて。
その後『ああ~、勢いでなんてことを~』といいつつ由美が出て行くまで、俺もほうけているしかなかった。
「太一」
「杏里、お前が最後か」
「ああ、順番はくじ引きだが、なんか意味ありげな順番になった」
「そういえば、あった順番とは逆の順番か」
杏里はそういいつつ俺の横に座る。
「そういえば杏里と出会ってからなんだよな。この状況がはじまったのは」
「そうだな」
「俺に勇気を出して声をかけてくれたことに感謝してる。こっちに引っ越してきてから毎日が新鮮ですごく楽しかった」
「私も同じ……。ずっと灰色だった私の日々は変わった。あっという間だった……」
杏里の話し方が始めて出会った頃みたいになる。
「なんかその話し方、久しぶりだな。不自然って言って悪かったな」
「ううん、あの時の私はただ単に人の真似をしてただけ。不自然で当然」
「杏里の後にどんどん人が増えて、いつの間にか集まる場所ができて、なぜか家に招待して、逆に家に言ったりして、皆のことをどんどん知れて、もっと好きになった。それって、きっと杏里がカフェで俺に声をかけてくれたからじゃないかな」
杏里が声をかけてくれなければ、どうなっていただろう。
俺はその後すぐにあった由美と付き合っていたのだろうか。
クラス長にならなくても、水城のことが気になって、水城と付き合っていただろうか?
先輩の秘密を知って、先輩と付き合っていただろうか?
京と買い物帰りで出会って、そのまま付き合っただろうか?
杏里だけは、何のきっかけもなく、しかも向こうから話してくれた。
杏里が明らかな好意を俺に示してくれていたからこそ、今のような皆が仲良く出来る状況ができた。
「別に私は何もしていない。ただ、はじめは私を特別扱いしない太一が気になっただけ……」
「それでも、俺が楽しく出来るよういつも近くにいてくれたんだ。それに、正義さんにも頼まれてるし、俺は……」
杏里が俺の言葉1つ1つに何か緊張するのが伝わってくる。
俺の答えはもう決まっていたんだ。
次回最終話です。
可能ならすぐに投稿します。




