エピソード37 海は広いな大きいな
「海が広い~。何でも出来る気がしてきたわ~。いつかは私もこういうところを持つわ!」
「プライベートビーチでプレイベッドビッチ? 何をしても誰にも見られない。でも見られるのもそれはそれで!」
「広い。私の狭く暗い心には、ここは広い。海、受け止めてくれ~」
由美すら(由美にしては)テンションが高めになっている。
ほかに人がいない静かな海。広々として、ごみ1つ落ちていない砂浜。
平民にはまず一生お目にかかれないその風景に、みんな興奮していた。
「みんなめちゃくちゃはしゃいでるじゃないか」
「水城はある意味いつも通りだけどな」
「私も行ってくるぞ。私の華麗なる泳ぎを見ておいてくれ」
杏里も走っていく。杏里があまり走ると、一部分が揺れるので目の毒になる。いや、ある意味目の保養にはなるが」
「先輩、日焼け止めいります? あとこれ帽子です。みなさんが熱中症にならないように飲み物も準備して、ベンチもさっき別荘にあったので持ってきました」
「京、今日くらいは自分のことだけを気にしてろよ……」
京もテンションは上がっていた。ただし他のメンバーと方向性が違う。いつもの世話焼きモードである。
「あ、すいません。つい、じゃあ私ものんびりします……」
そのまま自分で広げたベンチに座って眠る。ベンチの上にはパラソルがあって、完全に日陰の位置になる。
「京は泳ぎには行かないのか?」
「ええ。この涼しい場所で少し休んでからにします。これだけしっかり休めるのは久しぶりなので」
京だけ遊びに来たというよりも、休息にきたみたいになってる。1番年下なのに。
「おーい、たっくん。たっくんも一緒に泳ごうよ~」
「先輩、私に構わないでいいですよ」
先輩に呼ばれて京を見ると、そういうので構わず行くことにする。
「あ、たっくんが来た。見て見て~、ナマコが取れたわ~」
「変なもの見せないでください」
「そうだよ~。変なものを見せるのはむしろ太一君のほうだもんね」
「水城はしゃべること全部下ネタになってるじゃないか」
「わ~、ここ深い! 太一、助けろ~」
「杏里泳げないのにそんな奥まで行くなよ」
「ブクブクブクブク……。こうして完全に沈んでいれば、私のスタイルは目立たないな」
「髪がそのあたりを覆って、軽くホラーになってるな」
「ZZZ……、先輩の頭と右腕と左腕、右足と左足……、だれがどこを持って帰ります?」
「なんの夢を見てんだ!」
非常に華やかなメンバーがプライベートビーチで元気にする姿は、これから撮影会でも行うのかと見間違うほどであったが、内容は全員そろって残念であるという悲しい結果になった。
「た、太一~」
突っ込みをしつつも、一応杏里は沈みそうだったので助けにいくと、思い切り正面から抱き着かれる。
「杏里さーん。それはちょっとまずいです。いろいろと」
いつもの良い香りは潮の香りでだいぶ隠れているが、それだけに触感がいつも以上に強い。主に俺の胸部のあたりに、杏里の胸部の辺りが強く押し付けられている。
「あ、杏里ちゃんずるい~」
「私も行くよ~」
それを見て、右手に先輩、左手に水城が抱き着いてくる。
「お2人とも、冷静になってください。あなたたちいつもよりも肌が近いんですよ」
あと海で両腕と正面を完全にロックされたら沈む。まだ足がついているからいいが。
「わ、私も太一に……」
後ろからくぐもった声が聞こえる。
何とか振り返ると、由美が手探りでこっちに来ていた。髪が重みを持って前に前傾状態になっているのか、まったく前が見えていない。
「由美、ちょっと危ないから、そのまままっすぐ来るなよ」
「まっすぐ行けばいいんだな」
「違う!」
耳にも髪がかかっていて、よく聞こえていないようだ。
「た、太一、受け止めて」
由美が俺に後ろからしなだれかかってくる。
「や……、やめろ、重たい」
由美はずっと半分くらい沈んでいたので、髪が完全に水分を含んで半端ではないほどの重量と課していた。
「え、重たい……。この短時間で太ったのか……」
「違う違う、体重をかけるな!」
落ち込んで余計に俺に体重を乗せてくる。
「あ、もう駄目だ」
いくら浮力があっても、女子4人を支えられるほどの体力は俺にはない。
そのまま前に思い切り倒れてしまった。
「みなさん。後輩の私がいうのはどうかと思いますけど、海は危険がいっぱいなんですよ。はしゃぐなら安全なところにしてください。万が一があったらどうするんですか? ここには私たちしかいないんですよ。救急車もすぐに来れるかもわからないですし」
倒れた後、水城と先輩はすぐに離れたが、自分の髪の重みと、視界不良により由美が起き上がれず、それにより、俺と俺の正面にいた杏里が倒れて、杏里がそれにパニックを起こして、3人が危険なことになった。
水城、先輩と倒れる音を聞いた京が急いで俺たちを引き上げてくれたので、大事には至らなかった。
そして現在、京以外の全員が砂浜に正座させられて、ベンチに座る京に説教されているところであった。
「京ちゃんって説教慣れしてるわね」
「兄弟がたくさんいますから。しつけもしてますよ」
「ああやって怒れるのは尊敬しちゃうね~」
「私はおぼれそうになっただけなのに」
「私太った……、自分でもわかるほど体が重い」
「みなさん! 今は私が話してるんです! なにぼそぼそ話してるんですか!」
京説教タイムは20分に及んだ。
「以上です。では節度を守ってください」
「ちょっと私休憩。京ちゃん、このビーチチェア使うわね。少し日なたぼっこでもするわ」
「私も付き合います~」
「私はもう少し泳ぐ。カロリー消費しないとこの後たくさん食べられない」
「由美、私泳げないんだ。少し練習するから手伝ってくれ」
京に説教されてか、全員少しテンションが戻っていた。
さすがの先輩もちょっと落ち着いていて、水城も下ネタに持っていく余裕がない。
由美がある程度いつも通りなのは、低いラインでテンションが安定しているからか。
杏里は怒られる筋がないのに怒られていたが普通である。杏里は本当に慌てて俺にしがみついただけだから、京もあまり厳しくしなかったからであろう。
「先輩♪」
そして、京は俺に腕を絡めてくる。
京はまだ海に入っていないので、いつもの生活感のある香りと、潮の香りが混ざったような感じの香り。
やわらかい感触は、濡れてもいないので他の4人と違った。
「私も海に行きます♪ 今度は私が見てますから、危険はありませんよ。後私だけ直接先輩と接することできてないですし、問題はありませんよね?」
その後は京と遊び、杏里に俺も泳ぎを教えたり、由美と激しく泳いだりと普通に楽しく過ごせた。
「先輩、水城、そろそろ……。」
少し日がオレンジ色になり始めたので、先輩と水城を起こす。
「ん~ たっくん、おはよう」
「結構寝ちゃった~。はっ、寝てる隙に何かしてない? 最近太一君が寝てる相手に仕込むシュツエーション気に入ってるんでしょ」
いつも思うが、水城はどこから俺の趣味を仕入れてくるんだ? 家にだれも来ていないのは(京が時々忍び込んでいるが、何もなっていないのは確認している。水城が京ほど気配を隠せるとは思えない)間違いないのだが。
赤堀さんが少し怪しいんだよな。水城がこういうことを言い出す前日に、なぜか絶対会うのだ。
でも、赤堀さんと会う場所はランダムだし、そのあと車に乗って帰るのは確認している。
「水城真っ黒じゃないか。あとで風呂入るときやばいぞ」
水城の白い肌は、小麦色になっていた。
「私のお風呂を想像して「先輩はあまり焼けないんですね」
水城が余計なことを言い始めたので、先輩に振る。先輩も水城とまったく同じ時間日に当たっていたはずなのに先輩はまったく焼けていない。
「先輩うらやましい~。簡単には染まらないんですね~」
「あら、水城のほうがいいわ。日に焼けにくいのは細胞のダメージが大きいからね」
「そうですか~? でも確かに日焼け後くっきりは、裸よりもそそりますもんね」
「私はそんなことは言ってないんだけど……。とにかくきちんとケアしなきゃ駄目よ」
先輩が呆れながらも水城の髪を触りながら心配する。
そしてその日は外で遊ぶのはお開きとなり、別荘に皆戻っていった。




