エピソード31 隠し事と原因
「太一様、もう出てこられて大丈夫ですよ」
「ふぅ~、どうなるかと「やはり男がいたのか」
俺がベッドから出てくると、思い切りお父さんらしき人がいた。
「ど、どうして」
「水城の部屋から、いつもと違う香りがしたのだ!」
「あ、ああそうですか」
これを友人が言うのであれば、突っ込むところだが、大の大人がまじめな表情で言っていると、何もいえない。
「申し訳ございません太一様。旦那様には逆らえませんので」
赤堀さんが申し訳なさそうにする。確かに雇う側と雇われる側の関係なのだし、今日会ったばかりの俺をかばう通りはないだろう。これは仕方ない。
「お父さん! なかなか来ないから変だと思って戻ってきたら! 太一君に何をするつもりなの?」
水城も戻ってきた。
「水城、お前はこの男を好きなのか?」
「え……、あ、お、お父さん、何を言ってるの……」
水城が顔を赤くして、挙動不審になっている。
「旦那様、これは答えですね。お嬢様にも好きな人ができたようです」
「み、水城に好きな男が……、小さいころ将来何になりたいって聞くと、お父さんがいつも大変そうだから、お父さんを支えられるお嫁さんになりたいって言ってくれて、今でも私に尊敬を持ってくれている水城に、男が……」
ぶつぶつ言ってて怖いな。
「それで、君は水城をどう思っているのだ?」
妙な緊張感がある中、俺にお父さんが質問してくる。
「え、ええとですね。水城さんはとても学校で頑張られていて、魅力的です。好かれて迷惑なことはありません」
「わしは水城の意思を優先したいと思っている。だから、水城が誰かを好きになることは覚悟はしていた。だから、君のことも一応信じさせてもらおう」
「は、はぁありがとうございます」
「とりあえずはだがな。水城の相手としてふさわしいと思えなければ、即座に君を倒す」
「肝に銘じておきます」
倒すって何だ? どうなるかがいまいち分からなくて逆に怖い。
「だが、今日は水城のために、必要なものを持ってきてくれたのだ。その恩は返さねばなるまい。話も聞きたいから、夕食を共にさせてもらおう」
そのまま食卓に案内されて、夕食をごちそうになる。
味は確かにうまい。だが、杏里の家にあったような、絶品ではない。ただ材料がおいしいという感じだ。
シェフのレベルが違うのかな? 味も少し濃い気がするし。
「なるほど、最近の水城の成績や態度の向上は君のおかげかね。やはり学校の勉強は学友から受けるのがよいのだろうか。赤堀さんは優秀なのだがね、普段メイドとしての仕事もしているから、毎日は見れなかったからな」
「うん、太一君は勉強すごく上手に教えてくれるし、クラス長をやってる私のフォローもやってくれてるの」
「ほう、明星高校に、転校で入れるとは。優秀なのだね」
「いえいえ」
「謙遜しなくてもいい。最近の水城はとても生き生きしている。それは君の功績だ。今後も支えてくれるのであれば、君のことを認めてもいい。水城の笑顔がたくさん見れるのは嬉しいからな」
「はい、ありがとうございます」
意外ともめそうかと思ったが、なんだかんだで娘思いなんだと安心した。水城のことを本当に心配しているだけなのだ。俺への厳しい態度はその表れだったか。
「この子はちょっとドジなところ以外は全く欠点がないからな。料理くらいは勉強でなんとかなるだろうしな」
「え、水城は「お父さん! この料理ちょっと辛いよね」
下ネタを聞くと暴走するっていう欠点があると言おうとすると、水城が横から言葉をかぶせてくる。
「ん? ああ、そうだな。太一君、この料理をどう思う? 正直に言ってくれ」
「あ、はい。素材は間違いなく一流だと思いますが、味付けがくどいと思います」
「うむ、そうだろう。あとでシェフには注意をしておく」
そういうと、何かメモを取って、近くの使用人に渡す。
「あのー失礼ですけど、シェフの人はこの豪邸には合わないのでは?」
杏里の家に及ばないだけで水城の家も十分すぎるほどお金持ちの家。いわゆるこういうところで出てくる料理は、俺のような庶民が食べれば、どういいかはわからないにしても、普通はおいしいものである。
そんな俺でも味の違いが分かるというのは、シェフのレベルが低いということではないのか。
「ふーむ。それは難しい問題なのだが、これは私の仕事柄仕方のないことなのだ」
「どういうことですか?」
「私は人事を担当する仕事についていて、実は昨年雇用を促進するためのルールを通したのだ。つまり、いろんなところで問題のあった人間でも、広く雇ってもらえるようにしたのだ。だから、私だけが優秀な人材を採用するわけにはいかん。責任者として、そういう人間を多く雇わねばならん。彼らも一生懸命やっている。君も運転手の彼にあっただろう。彼は見た目が野蛮そうなのと、ヘビースモーカーが問題視されて、よく首になっていたのだ。今はたばこも吸わんし、努力している」
吸ってなかったか? 告げ口したから、後でばらしてやろうかな。
「他にも、丁寧だが作業は早くないもの、その逆なもの、不器用な者に、知識の乏しいもの。ここにはたくさんおる。息子3人にもあえて試練として、癖のある使用人を当てあがった。若いうちから、優秀とは言えない者の扱いに慣れておくことは、大事なことだからな」
「じゃあ赤堀さんもですか?」
「いや、水城には普通に優秀なメイドをつけた。おかげで水城は、ちょっと抜けてはいるが、欠点はない。どこにでも嫁に出せるぞ」
「え、水城は「お父さん、もうご飯終わったから、太一君と部屋に行ってるね」
また言おうとしたことを水城に止められる。
「あ、ああ。あまり長居はさせないようにな」
「どうしたんだ水城? そんなに慌てて」
水城がダッシュで部屋に俺を連れて戻ってきた。赤堀さんも一緒だ。
「えーとね。お父さんは私の例のあれ知らないの」
「例のあれって。あれか?」
「うん、あれ」
「赤堀さんは知ってるのか?」
「むしろ原因……」
「は?」
おれはおそるおそる後ろを見ると、真顔の赤堀さんがいた。
「はい、私はそういうものが大好きです。私がここに来るまであまり仕事が続かなかったのは、そういうものの言いすぎです。今までは私が暴走するのを恐れられて、退職させられていたのですが、お嬢様は私を受け入れてくださいました」
「それから水城はああなったんですか」
「はい、お嬢様と2人きりのときはそんな話ばかりですよ」
なんという残念な人だ。一見見た目が有能そうなのが、なおさら残念だ。
「でも太一君は私を受け入れてくれてるから、赤堀さんも大丈夫だと思うよ~」
「お嬢様を選ぶと、もれなく私もついて参ります。お得ですよ」
「ポテトじゃないんですから」
そんなサイドメニューは濃すぎる。
「お嬢様はやればできますから」
「それは知ってますよ」
「いえいえ、ヤレばできる ですよ」
「アウトです。あとそれ水城に限ったことじゃないじゃないですか?」
「とにかく、このことは私も知られたくないのでお願いします」
「ええ、別に話しても得ありませんし」
今聞くまで、赤堀さんにそのような要素は全くなかった。多分話しても信じてもらえない。
「ご一緒に下ネタやりませんか?」
「俺は無理です。役に立てないと思います」
「EDなんですか?」
「力になれないということです」
「DTなんですか?」
「何を言ってるんですか?」
「違うんですか?」
「違いません」
「EDでDTなんですか?」
「違います」
「EDでなくてDTでもないんですか?」
「EDではないですが、DTです、何を言わせてるんですか」
水城と比べるとつい普通に言ってしまう。
水城は笑顔で、ハイテンポでいうのだが、赤堀さんは完全に真顔。恥ずかしがったり反応したりすると、逆にこっちが何か変なことを言ったみたいになる。
「ふふふ、A、B、C、E、D、T~♪ C、H、E、R、R、Y♪」
「水城は乗っかるな!」
「騎乗位はお嫌いですか?」
「そういう意味じゃないです。水城がABCソングに乗せてえらい事言ってるじゃないですか」
「どちらかというとえらいことというより、エロいことを言ってますね」
「うるさいわ!」
水城1人でも対応できないのに、もう1人いては片付くものも片付かない。
2人とも本当に暴走すると、簡単に静止はできないのである。
面倒くさくなって、「お父さん来ますよー」と、大きい声で言うと、一応止まった。
今後学校でもこの作戦使ってやる。
水城の回にしては、下ネタは控えめに出来たと思います。




