エピソード30 大丈夫ではない
「今日は永川さんがお休みだったんだけど、どうしてもこれは明日提出だから、届けてもらえないかな?」
水城が体調不良を理由に3日ほど休んでいたときであった。担任の教師からお願いをされた。
「俺が行くんですか?」
「岩瀬君は、最近永川さんと仲良くしているし、勉強も見てあげてるみたいだしね。せっかく成績が上がってるから、授業に遅れないように、ノートも見せてあげてほしいから、君が適任なんだ。他の子は、部活があったり、成績が芳しくなかったりするからお願いできない?」
「わかりました。でも俺水城の家知らないんですけど」
「ここに行けば分かるよ。ちょっと大変だけどがんばってね」
先生になぜか激励された。水城の勉強を最近見ているし、いろいろフォローしているのだから、これくらいは対した手間ではない。
「ここか。学校から遠くないけど、坂が急だった……」
水城の家に到着したが、歩くと意外と距離があった。
そういえば水城は自転車で登校してたな。その点は先生配慮して欲しかった。俺徒歩登校だし、運動でもないし。
「さすがに大きい家だな。でも確かに杏里の家を見た後だとちょっとだけ小さいか?」
水城の家は十分豪邸と言えるほど大きい。これをはじめてみれば驚いただろう。
「誰だあんたは?」
俺が水城の家の前を歩いていると、ちょっと柄の悪そうな男がタバコを吸っていた。
「あ、俺はここの家に用事がありまして。クラスメイトがいるんですよ」
「なんだ、水城お嬢の友人ですかい? でしたらあっちから入れますぜ」
「失礼ですが、あなたはどなたですか?」
水城をお嬢を呼ぶということは、知り合いということになる。あまりそうは見えなかったので、つい聞いてしまった。
「俺はここで運転手として雇われてる使用人ですぜ。なんですか、ここの人間には見えませんでしたかい?」
「い、いえすいません」
「気にしなくていい。案内してやるから、そんなに申し訳なさそうにすんな。ただ、タバコをすってたことだけ黙っててもらえるとありがたいですぜ」
そう言うと、俺を門まで案内してくれる。杏里の家と比べると、ずいぶん癖のある人が雇われてるな。
この人が特殊なのか?
「しかしお嬢に男の友人ですか。旦那様は大丈夫ですかね」
「なんの……」
「太一君! こっちに来て」
俺が詳しく聞こうとすると、腕をとられて引っ張られる。
「み、水城? 病気だったんじゃ?」
「その話は後で! お父さんに見つかる前に! ごめんね、盛田さん」
おっとりした水城とは思えないほど迅速に大声で俺は水城のなすがままに引っ張られた。
「ふ~。ここなら大丈夫かな~」
俺は引っ張られ続けて、階段を上ったり、道を曲がったりして自分でもどこにいるか分からなくなった。
しかしここはおそらく水城の部屋。それは分かる。
水城が気に入ってカフェにおいてあるような人形があったり、水城の髪から香る香りが部屋からしたからである。
「一体なんなんだ。俺は水城に資料を渡しにきただけなんだが」
「あ~ありがとう。この進路調査票書かないといけなかったんだよね~」
「後これは授業のノートだ。見やすくまとめてコピーしてきた。軽く見て分からなかったら聞いてくれ」
「うん、本当にありがとね~」
「体調は大丈夫なのか?」
見た感じ元気そうだが。
「う、うん。最近太一君のおかげもあってやれることが増えちゃって、そのせいで知恵熱が出ちゃったみたいで」
「そっか、がんばってたもんな」
水城は相変わらずミスをするが、数が大分少なくなってきた。
それもあって、彼女が同じ時間でこなせる量が増え始めていた。
それは結構なのだが、新たにできることが増えるとまたそれについてはミスをするので、慣れるまでは俺が苦労することになるが、俺が協力して水城が成長できるというのはわるい気分ではない。
ただ1つ言うとするならば、下ネタ発言をもう少し控えてくれれば、俺の突っ込みも減るし、水城自身の負担も減りそうなものだが。
「失礼します、お嬢様……」
部屋に人が入ってきた。
落ち着いて大人っぽいクールな印象を受ける女性だった。
「そちらの方は?」
「学校のお友達で、太一くんだよ」
「ああ、あなたがお嬢様のよく言われている太一さんでしたか。私は水城お嬢様のお世話をさせていただいております、メイドの赤堀と申します。いつもお嬢様がお世話になっております」
メイドの裾を持ち上げて軽く会釈をされる。俺はそこまでメイドに詳しくはないが、一般的なメイドの意識から外れていないしぐさである。
「あ、はい。どうも」
「ですがお嬢様。男子の友人を部屋に呼ぶとは、旦那様はご存じなのですか?」
挨拶を終えると、赤堀さんが水城に質問をした。
「そういえばさっき水城もお父さんのこと言ってたし、あの盛田さんも何か言ってたな? お父さんが怖い人なのか?」
「お父さんは私にはすごく優しいけど……、私が男の子の友人を連れてくるのはとても怒るの」
「ああ、そういえば水城には甘いんだったな」
甘やかすということは、大事にしているということだからな。
「ええ、お嬢様が男の子のお友達を家に連れてくると、暴走されますので簡単にはお嬢様は家に男子のお友達を連れてくることは、中学生になってからはなかったですね」
「もし見つかるとどうなる?」
「そうですね……、もう5年前ほどですが、確かそのお学友は泣いて帰宅をされてましたね。何をしたのかは全く分かりません。しかも当時のお友達は12歳でしたから、まだ旦那様もほどほどだったと思いますが、17歳ともなれば、もっと大変な目に会うかもしれません」
「ごめんね~。学校からの用事で来ただけなのに……」
「俺はどうすればいいんだ?」
「お父さんがどこにいるかをきちんと把握して、それで帰る道を決めなきゃ……」
「お嬢様、お考えのところ申し訳ありませんが、すでにお父様の耳にお嬢様の友人が来られているという話が入っております」
「え、何で?」
「理由はわかりませんが、ここに来られるのは時間の問題かと」
「ど、どうしよ~」
「とりあえずもうご帰宅されたことにいたしましょう。太一様の靴は私が既に持っておりますので、玄関にはございません。ベッドの下にでも隠れればわからないでしょう」
「赤堀さん、いいアイディアだよ。じゃあ太一君、 ベッドの下に隠れて~」
「あ、ああ、だけどな」
「話はあとにしよ、早く隠れて」
俺は水城のベッドの下に隠れさせられる。
広いな。
ベッドがかなり大きいので、ベッドの下も大きく意外と圧迫感がない。
ガターン!
「水城! 男を連れ込んだというのは本当か?」
大きな低い声が聞こえてきた。おそらくお父さんの声なのだろう。
「え~、何のことかな? 女の子の友達がプリントとか持ってきてくれたけど、もう帰っちゃったよ」
「むむ? だが、ドライバーの盛田から、水城に用事があるという男子を案内したと聞いたが?」
あの人なに話してんだ。
「うん、だから玄関で赤堀さんが書類をもらって、すぐに帰ったってこと」
「なんだ。心配して損をした。水城、夕食だからすぐに向かいなさい。もう体調は大丈夫なのだろう?」
「うん、大丈夫だよ、赤堀さん、あとはお願いね~」
「かしこまりました」
そういって水城は部屋を出て行った。
「何を任されているのだ?」
「先ほどお嬢様の学友からいただいた書類に、いくつか課題がございましたのですが、それの確認でございます」
おそらく水城が言ったのは俺のことだろうが、うまく赤堀さんが対応している。
うまいこと言葉が出るものだな。
「なるほど、しかし水城は学校では人気があるのではないかと心配だ。男子のいる気配はないのか?」
「今のところは聞き及びませんが」
「最近水城はどんどん可愛くなっている。それこそ目に入れても痛くないくらいだ。妻や息子も忙しくて家にいないことが多い中、私を出迎えてくれる水城には癒される。思春期の娘なのに、わしを嫌うこともなく慕ってくれるのがうれしくて仕方ない。ただその純粋さは不安でもある。だから、変な男に騙されないか不安で仕方がないのだ」
う~ん、ちょっと親ばかっぽいけど、一般的なお父さんの思考だな。
「ご心配には及びません。奥様がお忙しくなられてからは私が責任をもって、お嬢様のお世話をさせていただいております。私の眼鏡にかなわぬ男はすべて排除しておりますので」
「うむ、指示したとおりだな」
排除? 排除って言ったよな?
「君を雇えてよかったよ、では私も食事に行かせてもらおう」
そして、お父さんも出て行ったことを音で確認してから、俺は外に出た。
感想、アクセス、ブックマークありがとうございます。
本日ジャンプの某作品の展開を見て、非常に気落ちしております。
作品は作者の人がある程度好きにやっていいと思っているのですが、それを抜きにしてもかなり厳しく、執筆も仕事もいまいち進みませんでした。
そして、この作品の終わらせ方に不安を感じるようになりました。
かなり予想外のエンドになりますので、期待を裏切るかもしれませんが、もし引き続き見ていただけるのでしたらお願いします。
現在の個人回が終わりましたら、全員回を1度行って、そのままエンディング予定です、
後書きが長くなりました。ただちょっと書きたかったのと、諸連絡として一応失礼しました。




