エピソード21 大人しく寝れないんですか?
最近暑くて寝れないときに考えたエピソードです。
俺はゆったり風呂に入るのが好きということもあって、他のメンバーに遠慮することもなく、のんびり入っていた。
21時から女子が5人も順番に入っていたので、俺が風呂に入った時点で23時を少し過ぎており、風呂から出てきたときには既に0時を回っていた。
だからか、俺が風呂から出てくると他の5人は全て寝ていた。
きちんと布団を敷いたのは京かな? 俺の部屋は1人暮らしだが、父や母が泊まりに来る可能性や、季節の変わり目、時々クリーニングに出すこともあり、結構布団がたくさんある。
京がそれをうまいこと分担して全員分敷いてくれたようだ。
俺のベッドも確か先輩が荒らしていたはずだが、綺麗にされていた。
じゃあ俺も寝るか。電気も消えてるし。
「ううん……」
ふと俺は目が覚めた。時計は午前1時半を指している。
やはりいつもと違う空気を感じているのか、どうも寝苦しい。
それに何か目線を感じるような……。
「あ、太一君起きてるの?」
俺が軽く起き上がると、声をかけられる。
振り向くとお手洗いのドアの前で水城がちょっと寝ぼけた状態で立っていた。
「ああ、水城起きてたのか。寝れないのか?」
「ちょっと目が覚めちゃってね~。こんなことはいつもないけど」
「俺もだよ。ここからずっと 起きててもいけそう だよ」
「起きてても……、イケそう……、ふふふ」
「笑いながら歩いてると転ぶぞ」
「ふふ……、あっ」
寝ぼけながらふらふらと歩いていたため、足元にいた誰かに躓いて転ぶ。
「おっと。危ない」
そのままベッドの足にぶつかりそうだったので、ちょっとだけ体を動かして水城を抱きとめる。
寝巻き姿だったので、いつも以上にふわりと彼女の感触を感じた。
今日の水城は俺と全く同じシャンプーや石鹸を使っているのに、なぜいい香りがするのだろう。
「危ないな。 俺につっこんで 来るなよ」
「突っ込む……、ふふふ」
「寝汗がすごいな。 びしょびしょに濡れてる」
「濡れて……、ふふふ」
さっきから水城がずっとあの謎の笑いを続けている。
「うふふふふ、あははは……、ああ、太一君の無垢な表情にむくむくと来るよ~。いつもいつも皆の言ってることに男の子だから突っ込んで……、私が起きてるのを見て、太一君の太一君もおきてしまって……、このいじらしい気持ちをいじってなんとか」
水城ががいつもと違う感じで流暢に話す。何を言っているのか? 意味が分からないわけではないが、水城はいつもおっとりと話していて、こんな風に流れるようにしゃべることはない。
目線もうつろで、見せてはいけない顔になっている。
「水城、ちょっと落ち着け」
水城の肩を掴んで揺らす。
「…………、聞いてた?」
「今の聞いてなかったら俺は他に何してたことになるんだ?」
「そうだよね……、ああ、ばれちゃった」
「ちょこちょこ駄々漏れだったけどな」
本人としては隠してたつもりのようだ。
「こういうネタが好きなのか?」
「うん、お父さんは真面目な人でお母さんも厳しい人だから、こういうのは家族の人達は大嫌い。でも私ふとお友達に見せてもらったお笑いネタが大好きで、特に直接的じゃない遠まわしなこういうネタがつい面白くて、毎日毎日なんとなく聞こえる日常の会話をそう言う風に考えているうちに、全部がそう聞こえてきて、面白くなってきちゃって……」
「で、いえないままずっとこうなってるわけか」
「うん、一応私は官僚のお父さんの子供でお嬢様ってことになるから、勉強とかは期待されてなくても、清楚でいることは求められてたから、これは絶対に言えなかったの。普段から軽く笑っちゃうことはあったけど、今日は太一君の家に来てたから、ちょっと興奮しちゃって止められなかった。だから……、ん」
何か言おうとしたので、頭を抑えて止める。
「別に大丈夫だ。いうつもりはない。ただ今居るここのメンバーにだけは話しておこう」
「え、でも」
「ここのメンバーは大丈夫だ。これまで過ごしてきて分かっただろう。それにここに集まった皆は自分達が自由にできるようにする場所なんだ。だから、水城も自由にしてきていい。ずっと大変だっただろう。本当の自分を隠すのは」
「ふ、ふぇえ……」
水城は俺に抱きつくような姿勢のままでずっと話していたが、そのまま俺の胸元に顔をうずめて静かに泣いていた。
そのまま寝てしまったので、優しく布団に戻しておいた。
時計は午前1時45分。うん、まだ寝れるな。
「くそ、寝れん」
時刻は午前2時。水城に抱きつかれて目がさえてしまった。とりあえずお手洗いに行こう。
「ふぅ」
お手洗いを終えてなんか寝れそうな気がしてきた。
「ん?」
お手洗いから出て、戻ろうとすると横の部屋、つまり風呂場の電気がついていた。
「誰か入ってるのか?」
「おおう、太一か?」
「あ、悪い。ノックしてない」
そこにいたのは由美であったが、寝ぼけていたとはいえ、女子が着替えている可能性がある場所にいきなり入るのは失礼だった。
由美は幸いジャージ姿であったので問題はなかったが。
「い、いいんだ。別に私が着替えているところを見ても太一に得が何もない。ほら、私の体は女子らしくないし、むしろ私が粗末なものを見せたことに謝罪が必要だ」
本当に卑屈すぎる。
「そんなことないぞ。とても綺麗だし」
ジャージ姿は、いつものゆったりした制服姿とは異なり、彼女の細くて長い体のラインがよくわかるようになっていた。彼女は身長がかなり大きいのに体が細すぎるので体に合わせるとややぴっちりとした服になる。
ジャージは主に運動に使うため、制服とは異なり少しきつめにしてあるのだろう。
そのせいか、妙に色っぽかった。
「き、綺麗だと……、ああ、恥ずかしい……、でもなぜか心がポカポカする。顔がにやけてしまう……」
普通に褒めただけなのだが、その場にしゃがみこんで顔を覆ってしまった。
「それで、何してんだ?」
「あ、ああ、お風呂に入りなおしていたんだ。実は私は長く入りたいのだが、私が長く入ると、他の人の迷惑になるし、悪いと思ってしっかり入れなかったんだ。髪もきちんと洗えなかったし」
彼女の髪は本当に長いが、毛先までしっかりと量もあるため、洗うだけで時間がかかりそうだ。
そういえば水城がさっき立ってたときに、なんか寝てる人数が足りないと思ってたが、あの時点でもう由美は風呂にいたのか。
「もう風呂は入れたのか?」
「ああ、だが勝手に入るつもりはなかったんだ。きちんと後で入ったことを話して、何らかの形でお詫びしようと思ってた」
「それはいいからさ。頭を乾かしたのか?」
「後少しだ。軽く梳かなければならないが」
由美の髪は杏里と同じ濃い黒色だが、彼女と比べるとしっとりと滑らかすぎて、かなり細部がよく見るとはねたり毛が曲がったりしていた。
「大変だな。これいつもやってるのか?」
「姉さんが暇なときにやってくれることもあるが、基本的には自分でやる。私は自分に自信はないが、この髪はだけはお母さんがお姉さんと同じように褒めてくれることが多くて、自慢なんだ」
彼女の髪は丁寧に手入れされているのがよくわかる。それは正直触るのにお金が必要なくらいだ。
「そうか、ちょっと待ってな。手伝ってやる。全部は大変だろう」
俺はたどたどしくも髪を梳いてあげる。
もちろん俺が正しく出来るわけではないので、間違った動きをしたらそれをその都度由美に指示してもらう。
30分ほどかかって由美の髪は綺麗に整った。
「ありがとう。人にやってもらうのって気持ちがいい」
「いや、俺こそ……、気持ちよかった」
CMでシャンプーを宣伝するモデルさん並みに綺麗な髪を触り続けていた手は上等な温泉に入ったかのようにすべすべになっていた。
「ふふ、自慢の髪だ。好きな人にしか触らせるつもりはない。これだけは唯一両親がきちんと褒めてくれた部分だ」
珍しく自信ありげに話す由美。本当に髪には誇りを持っているようだ。
だが、発言も自信満々だと恥ずかしい。しかも地味に大胆な子と言ってるし。そのまま由美を連れて布団に戻った。
時刻は午前3時。当たり前だが寝れるはずもない。
すると、キッチンの辺りから何か音がする。
いつの間に泥棒でも入ったか? 女子もたくさんいるのだから、守らなくては。
そのまま音の方に抜き足差し足忍び足で向かうと、流しの下のに人影があった。
「おらっ!」
そのまま後ろから押し倒す。
「あ、先輩……そんな風に求めないでください。確かにお父さんにもお母さんにも許可もらいましたけど」
京だった。
いや、俺だって本当に泥棒が来たとは思わないし、女子の誰かの可能性を考えなかったわけじゃないよ。
あくまでも万が一のためだ。
「京? 何してんだ。泥棒かと思った」
「まさか、ここは一応マンションですよ。そんな簡単に入れませんよ」
「そうか」
「じゃあ、できれば優しいやり方でお願いします」
目を閉じて力をふっと京が抜く。
「覚悟を決めるんじゃない! 他にたくさん女子いるだろう」
「私は大丈夫ですよ」
「俺は大丈夫じゃない。とにかく落ち着け」
そして彼女の上から退く。
「ええ~。まぁいいですけど」
「で、何してた?」
「何もしてませんよ。先輩の私物なんて取ってませんよ」
俺の箸や皿や飲みかけのペットボトルなどが彼女のかばんから発見されたので押収した。洗い物はしてたはずだが、こっそりそこに隠してたみたいだ。
なんか最近京も暴走気味だな。これじゃ泥棒と変わらん。
時刻は午前4時。そろそろ寝れる気がしない。
またお手洗いにいくと、また風呂の電気がついている。
「今度は誰だ?」
さきほどの反省を生かさず、またノックせずにドアを開ける。
「すはー、すはー、ああ、太一の香りだ~」
本来どう考えても寝る場所でないところで杏里が寝ていた。
もちろん睡眠的な意味ではなく、横になっているという意味だ。
そして、彼女は毛布に包まっているかとおもったら、俺が使ったバスタオルに包まっていた。
俺は体を拭くのに、小さいタオルで拭くのが嫌いなので、かなり大き目のバスタオルを使う。
体の小さな杏里だと首から下まですっぽり隠れてしまう。
一部分だけ突き出ていて妙に目立つが。
「おーい、杏里さん。何してんですか?」
「すはーす……、すは? は?」
俺に気づき目が点になる。
「えーとな。これはだな。見てたらほわーんってなって。ついうっかりとな。ほら、何かに丸まってると気持ちいいじゃないかな?」
「前後の脈絡が全くないんだが?」
「ほら、寝ぼけてるから」
もうこれでいいことにしてやろうかな。俺もかなり眠いし、この件を追及するのが面倒くさくなってきた。
理由をきちんと尋ねるとややこしいことにしかならないに決まっている。
タオルから開放して、軽く抱いてやる。
「ったく。まだ朝は寒いぞ。濡れたタオルなんかに包まったら風邪引くだろ。布団に戻れ」
「ほわ~。はい~」
杏里は素直に戻った。
時刻は午前5時だ。もう外は明るい。
なんかもう面倒くさくなってきた。
もうとにかく目をつぶるようにしよう。
ふにゅん。
ん?
なんか柔らかい感触がある。
目を開けると目の前には先輩の顔がどアップで映っていた。
最近俺の前では残念な挙動が多かったが、こうして大人しくしていると本当に美人である。
じゃなくて、何で俺のベッドに先輩が? 寝ぼけてるのか?
「んん……」
!?
なんと先輩は寝ぼけたまま俺の頭を自信の豊満な胸部に抱きしめてきた。しかもなぜか半端なく強い力で。
「ふわぁ……、ムググ……」
はじめはとんでもなく気持ちのよい感触だったが、徐々に息苦しくなり始めてきた。
(まずいまずいまずい、死ぬ。先輩離して下さい!)
力強く抱きしめられて、声が出ないし、肩の辺りをつかまれている為腕で押し返すことができない。
そのまま意識が徐々に遠のいていく。ああ、やっと寝れるかも……。
「お……おい……」
「まさか」
「やっぱりソロじゃ足りなくて、ツインでタワーを立てちゃうんだー」
「ちょっと太一先輩の一部を切ったほうがいいかもですね」
朝8時。俺は結局3時間寝ることになったが、起きたとたんに騒がしいことになってしまった。
水城と京が明らかに俺に昨晩見せたキャラを隠せていないが、杏里と由美はこの状況に動転してそれどこっろではない。
「ううん、何よ……、って、キャー! たっくんが襲ってきた!」
そして俺は殴られた。
その後全員に説明をするのが大変だった。
どうやら先輩は普段ベッドで寝ているのと、抱き枕を使っているということで、寝ぼけて俺のベッドに来て、俺を抱きしめたようだった。
先輩から皆に説明してもらって何とか誤解が解けたが、そもそも全員を俺の家に誘ったのが間違いだったか。




