エピソード19 勉強を教わる人とその他の人
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今日いつもの部屋に来ると、5人が勢ぞろいしていた。
だがいつもみたいに好き勝手やっているわけではなく、勉強をしていた。
「おお、水城に京、勉強にせいが出ていいな」
教科書やノートを開いて主に勉強をしているのはその2人で、杏里と由美が教えているようだ。
「あ、太一君」
「先輩どうも」
2人が気づき、俺に挨拶してくる。
「勉強を教えているのは杏里と由美か。自分の勉強は大丈夫なのか?」
「ふっふっふ。私はこう見えてもなかなか優秀なんだ。授業をきちんと真面目に聞いて、家に帰ってからは予習と復習をしている。これをきちんとやっていれば点は取れる」
杏里が大きな胸を張って自慢げにする。
「わ、私は勉強は苦手だ。だからテスト前に思い切り暗記する。必要なところを全て暗記すれば一応テストとしての点は取れるから……」
由美は反対に自信なさげな態度だ。
「それで2人で教えているんだけど、どうにもうまくいかなくて」
「杏里ちゃんと由美ちゃんで指導方法が違いすぎるんだよ~」
「お2人とも熱心に教えてくれるので断りづらいです」
「そりゃそうなるよ」
杏里の勉強の仕方はきちんと知識を頭に入れる勉強の仕方で、今後にも生かされるもの。
由美の勉強の仕方はとりあえずテストの点を取るだけのもの。根本的に勉強の意味合いがこの2人では違うのである。
「俺が教えれるほどできるかはわからないが、成績教えてくれるか? ついでに杏里と由美も」
「私は学年5位以内から落ちたことはないよ」
「私も大体それくらいだ」
レベルたけぇ!
「そう思うと、由美の名前はいつも私の近くにあったような気がする」
「そうだったな。暗記系の科目が平均点が低いときは私のほうが上で、それ以外なら杏里が上だな」
「で、ちなみに2人は?」
「………、170位くらいかな~」
「まだ分かりませんが、ここの入学は補欠入学です」
「水城低いな……。なんで授業もちゃんと聞いているのにそうなるんだ……、ミスが多いとは言え」
ちなみにこの学校には約600人生徒がいるので、1学年には大体平均して200人いることになる。つまり170位はかなり低い。
「ってここに補欠入学なんかあったのか?」
全国から優秀な受験生が受けに来るこの明星高校に、補欠入学は考えいくいのだが。
「ええ、実は私が受けたときに、不正が発覚して何人か合格を取り消されたらしいんです」
「ええ!? 何それ知らない」
水城がかなり驚く。声を出していないが他の2人もはじめて聞いたようで顔はびっくりしている。
「はい、これを知ってるのは補欠入学を認められた私を含めてもほとんどいないです。私は先輩たちを信じてますから他言無用でお願いしますね」
「ああ、もちろんだ」
「でもここに決まってよかったです。ここは学費も安いですし、家からも簡単に来れますし、何よりも……」
なぜそこで俺を見る。また余計なこと言ったら揉めるだろう。
「ここにいる皆さんと知り合えたことが嬉しいです」
良かった、純粋な意見がきた。
「そうだな。でも運も実力のうちだろう。よかったじゃないか」
そして頭を撫でると、京が微笑む。
「ん? なんで杏里はうな垂れてるんだ?」
「い、いや。ちょっと自分の小ささにくじけそうになっただけだよ。小さいのは背だけだと思っていたのに」
あ、杏里は京が『俺と会えてよかった』って言うと思ったな。俺もちょっと思ったけど。後ちょっとうまいことを言うな。突っ込まないけど。
「と、なると、杏里と由美は学年トップクラスで、水城と京は学年最低クラスか。バランス悪いな」
「うん、ちょっと困っちゃったね~」
「私も自分なりの勉強方法があればいいんですが」
杏里の勉強方法は、普段からきちんとやっている人のためのもので、今からでは中途半端にしかならない」
とはいっても由美のやり方は厳しい。
由美のやり方はほぼ全部を丸暗記するというもの。こっちはこっちで時間が足りない。
要は杏里と水城のやり方は、今後水城と京が取り入れるのはいいとしても、すぐに行われる中間テストには間に合わせられないということになる。
「水城、京、とりあえずこの中間はそこそこの点数があればいいか? だったら俺が教えてやるよ」
「え~、太一君頭いいの~?」
「俺は一応転校生なんだぞ。ここへの編入するためにかなり勉強したから中の上くらいはできると思う」
「その申し出はありがたいんですけど、でも今日はもう時間がそんなにありませんし、明日から5連休ですよね。その間は学校が開放されませんから、どこか場所が必要ですよ」
明星高校は広いため、大きな休みがあるときは清掃業者が入って、大掃除をする。
その連絡は既に受けていて、当然俺も知っている。
ちなみにこの件で、水城がこのプリントを貰って忘れていた事件があったが、それはまた別の話。
この連休明けに、テストがあるのだ。連休後にテストを行うのはなかなか学校の処置は厳しいな。
「はぁ~、そうだ太一君、太一君って1人暮らしでしょ~。家で勉強教えてよ~」
「「「!?」」」「♪~」
水城の発言に、杏里、由美、京が反応し、先輩は鼻歌交じりにずっと机に向かっている。来てからずっとああだけど何してるんだ?
「俺の家か? 別にいいけど、京は……「せ、せ、先輩のうちにお誘いですかー?」
かなり食い気味で京が話に参加してくる。
そういえば、俺のうちを京は知ってたな。先日のストーカーもどきの行為を思い出して、呼んでも大丈夫かと不安になったが、水城にOKと言っておいて、京を断ったら、余計に面倒くさいことになるに決まっている。水城からこの提案をされた時点で、この考えに至らなかった俺がいけなかった。
「お、男の子の家に行くなんて……、初めてだよ~。どきどきしちゃうな~」
水城は頬に両手をあてて顔と腰を振っていた。
ふんわりとさせている髪と短めのスカートがなびいていた。
「せ、先輩の家にお休みのの間毎日行って、勉強教えてもらって、そのお礼に晩御飯を作って、そのまま夜お泊りして……」
京はうつむいて何かぶつぶつ言ってて怖い。休みは5日あるんだが毎日来ることが前提になっているうえに泊まる予定まで入ってるし、そこまで許したか? 家事をしっかりやってて主婦っぽいからって、考えまで大人にならなくても。
「そ、それなら私も行くよ!」
「も、もし迷惑じゃないなら私も行きたい……」
「そうね。私もたっくんの家に行きたいわ。単純に行きたいし」
先ほどまで同じ席にいながら(珍しく)無言の先輩が急に会話に参加してきた。
「先輩? 何してたんですか?」
「何って勉強よ。私が勉強しないでもなんでもできる人とでも思ってたの?」
「いえ、先輩は努力されているって知ってますから、そんなことは思っていません」
先輩は明らかに努力型である。それであらゆる天才を抑えてトップに立ってきたのである。
「そ、分かってるならいいの。私は勝手に勉強するけど、仲間はずれは寂しいし、一緒に行ってもいいわよね」
「水城と京に提案したときにやな予感はしました。ですが、これだけ人数が集まるのでしたら、俺の家じゃないほうがいいですよ。さすがに6人は狭いです」
「駄目だよ~。この私のどきどきはどうするの~?」
「私がきちんとお世話しますから!」
「私は行きたい!」
「……私も行ってみたい」
「こらたっくん。わがままは駄目よ」
「何でいつの間にか俺が悪いみたいになってるんですか? まぁいいですけど、狭くても文句言わないでくださいね」
最初に水城にOKしてしまったので、あまり断りきることもできず、結局ここのメンバーを全員家に呼ぶことになってしまった。
~そして翌日~
「おじゃましまーす」
杏里、由美、水城、先輩、京は全員同じタイミングで来た。
「皆示し合わせてきたのか?」
「そうだよたっくん。誰か抜け駆けされちゃいけないからね」
「美香先輩、そんな人いるわけないじゃないですか」
「京ちゃん、あなたが1番怪しいのよ。家も1番近いし、家事上手だしね」
「いえいえ、私は朝7時に来て先輩を起こそうと思ってただけですよ」
「やっぱり! 休みの日に7時に人の家にいくのは失礼よ。まだ寝てたら入れないでしょ」
おお、珍しく先輩が突っ込みに周っている。
「休みの日はね、朝7時は寝る時間なのよ。ゲームとか漫画を眠くなるまでやり続けるのよ!」
それはそれでどうなのか? 休みの日の過ごし方は自由だろうけど。
「広いな。1人暮らしとしては豪華じゃないか?」
「1人暮らしはうらやましいが、1人で住んだら食事制限できなくなりそうだ」
「ここが男の子の部屋……、お父さんとお兄ちゃん以外ではじめて見た~」
「へ~、綺麗にしてるわね」
「お掃除はできなさそうですね」
「でも1人暮らしだとたっくんのご両親にご挨拶はできないわね」
先輩は残念そうにしていた。こういうところはやっぱり生徒会の人だからしっかりしてるな。
「私の大事な秘密をたっくんに知られたので責任とってもらえますか? って言おうと思ってたのに」
「先輩、それは挨拶じゃなくて脅迫です。しかも目的語をはぶいていかにも俺を悪者にするのやめてください」
前言撤回。まぁ冗談だとは思うが、そんなことを考えている時点で残念だ。
「太一は1人暮らしだからしっかりしてるんだな。本当に綺麗にしてる」
杏里が俺を褒めてくる。
「そりゃ1日で汚れないだろう……、何でベッドの上に勝手にいるんだ?」
「気にしなくてもいい」
「気にするわ」
杏里がベッドの上にいる。しかも座っているのではなく、枕をしっかり頭の下にひいている。上にいるというよりも寝ているの方が正しい。枕に杏里の髪の香りがついちゃうじゃないか。
「太一よ」
俺が杏里と止めようとすると、由美に袖を引かれる。
「どうしたんだ?」
「わ、わ……」
「わ?」
「私も太一のベッドに座りたい」
「許可を取ればいいという問題じゃないぞ」
そう言う意味で勝手にって言ったわけじゃないんだが。
「そうか……」
そこでなぜ残念そうになる。
「そうだよな。私より杏里に寝てもらった方が、ベッドも幸せだろうしな……」
ベッドに気を使う人はじめて見たぞ。
それに多分俺よりも由美に寝てもらった方がベッドは幸せだろう。ベッドに性別はないだろうが。
「もう分かったから、好きにしてくれ」
由美ネガティブモードは面倒だし、今後勉強する上でこの空気では耐えられないので、許可する。
「由美ちゃん、おいで~」
「杏里~」
俺のベッドで女子2人が嬉しそうに楽しんでいる。別に抱き合ったりしてないけど、俺のベッドで変なことはしないでほしいな。
「たっくん! ここにある本って読んでいいの? いいえ見るわよ、こんなの見せられたらがまんできないじゃない」
「勝手に見たのに俺のせいにしないでください。別にいいですけど」
先輩は俺が多く集めている漫画を読み漁り始めた。勉強はどうした。まったくこの3人は何しにきたんだか。
まぁいいや、今日のメインは他の2人だし……。
「あれ? どこいった?」
水城と京の姿が見当たらない。
「これは太一君のカッターだよね」
「そうですね~、あ、これは先輩の使ってるシャツ? そ、そしてこれが先輩のパ……」
「ベランダに出て人の洗濯物漁るな!」
2人を注意して勉強させる方向に何とか持っていた。他の3人はほっとこう。
「よし、これなら2人ともいい感じだな」
勉強を開始したのが午後1時くらい。
そこからなんとか集中して勉強させることに成功した。
水城は授業をある程度きちんと聞いている、それはクラスメイトである俺がよくわかっているのだが、要点をつかむのがあまり上手ではない。つまり勉強の仕方があまりうまくない上に、ケアレスミスも目立ったのだが、覚えなければいけない部分をきちんとまとめさせれば、そんなにできないわけではない。
京は単純に復習不足だった。丁寧な文字でまとめてあるノートや要点にラインを引いたものがあり、それを使えば、他の人でもいい点が取れそうなほどで、教科書が必要ないほど綺麗にしてあった。
そのノートを元に、教科書を使って反復演習をさせることで対策した。
水城は文型科目に代表される暗記系、京は理系科目に代表される感覚系がやや苦手でそれに苦戦したが、なんとか平均点をとるには問題ないレベルまで持っていけた。
「2人とも元々真面目だし、コツさえできれば大丈夫だな。勉強嫌いってわけでもないし。これなら残りはそこそこやれば大丈夫だろう。お疲れさん」
「あ、ありがと~。こんなにがんばったの受験以来だよ~」
水城は目を回して机に突っ伏した。
「先輩ありがとうございます! 先輩の勉強は大丈夫なんですか?」
京も疲れていたが、俺を気遣ってくれるくらいのゆとりはあったようだ。
「大丈夫だ。人に教えるってかなりいい勉強になるんだ。水城はテスト範囲一緒だからデメリットないし、京は理系科目中心にやったから十分役に立つしな」
水城の勉強を教えることは、そのまま自分の勉強につながるし、京が苦手な数学や理科は改めて基礎を見直す内容になるから、今の勉強にも生かしやすい。
加えて、俺は転校してきたから、ここでの1年生の勉強はしていないから単純に内容を学ぶことも楽しめた。
ポン。ポン。
水城と京の頭を軽く叩いて、お疲れの意を行動でも示す。
時間はいつの間にか18時を回ろうとしていた。
これでお開きになるかなと思い、他のメンバーの顔を見る。
「「くー、くー」」
杏里と由美は仲良く寝ていた。
「……………」
先輩は1人でずっと漫画を読み漁っていた。
3人ともえらい静かだと思ったが、2人熟睡で1人漫画に集中してるならそりゃそうか。勉強の邪魔にならなくて何よりだったが。
「あ、あの先輩!」
俺が呆れていると京が話しかけてくる。
「今日お食事作りますよ、皆で材料買ってきたんです」
「はっ、そうだった! 私も作る!」
「わ、私も微力ながら力を貸したい」
京の声に反応して杏里と由美が目覚めて声を発した。
3人もそんな風に言われたら断るのは不可能なのでお言葉に甘えることにした。
感想ありがとうございます。




