エピソード16 家庭的だけどちょっと強引
京回です。
「おお~、めちゃくちゃ綺麗になってる」
カフェのオーナーから預かった2階の部屋は皆が使ったことで(主に先輩が悪い)、散らかった状態が長く続いた。
京の参加で部屋のものが整理整頓されて、かなり見栄えが良くなったのだが、京の実績はそれだけではなかった。
まず、床にあった埃は1つもなく床は鏡のように磨かれて、壁もところどころ壊れていたが、そこを覆うかのようにシールのようなものが貼ってあった。
窓にも綺麗な白いカーテンがあり、少し埃っぽく変な香りがしていた部屋はラベンダーの香りが漂っていた。
綺麗にしておいてほしいといわれていた部屋は俺が一応整理しておいたのだが、京の掃除スキルは俺とはレベルが違う。
あたかも新築かと間違うほどの綺麗な部屋にされていた。
「いや~この綺麗さ……、京は天才か?」
今日もカフェの2階にみんなが集まっている。
他のメンバーは好き勝手にやりたいことをやり、俺は京と広い方の部屋に来ていた。
「いえいえ、私はたいしたことはしてないです。先輩きちんと綺麗にしてくれてましたよね」
「でもなんか綺麗だぞ」
俺はせっかく貸してくれたオーナーに悪いと思い、結構真面目に掃除した。
だが、それ以上に綺麗になっているのだ。どうやったか気になる。
「本当に何もしてませんって。ただ1ついえるのは白色を基本にしているくらいですね」
「白?」
「人って好きな色があるんですけど、色によってはどれだけ綺麗にしても汚く見えたりすることがあるんです。でも白色を目指すと、絶対に汚くはなりません。カーテンやソファーも皆白色にしてみました」
よく見れば、棚とかテーブルとか下にあったじゅうたんとか全部白になっている。俺達の過ごす部屋も確かに白色になっている。
「そういえば京の私物は白ばかりだな。会ったときも白色の私服だったし」
「私は綺麗な色は白色って思ってますから。もし先輩も興味ありましたら白を目指してみると面白いですよ」
「京ちゃん~、おやつあるかしら~?」
「は~い、ショコラがありますよ。今日弟たちのためにつくったものの残りですけど~」
先輩が京を呼ぶ。京はお菓子をつくるのが好きで、家で朝作ったものの余りをここに持ってきてくれることがある。
市販のお菓子よりよほど美味しく、皆舌鼓を打っていた。
2階でなぜか違うミニカフェが出来てしまったいた。
「よっす、今日は京だけか?」
「はい、2人きりは初めてですね」
そんなとある日、俺がカフェに来ると京が先についていた。
コンコン。
「おっ、誰か早速来たのか?」
するとすぐに入り口が叩かれる。
「ちょっと失礼するよ」
ドアを開けたのは他のメンバーではなく来客であった。
「オーナー? どうされました?」
その人は俺にここを貸してくれたオーナー。ちょっとあせった様子であった。
「今日突然2人も従業員が休んじゃって。人手が足りないんだけど、もしよかったら力を貸してもらえないかな?」
「ちなみに何をするんですか?」
オーナーにはいつもお世話になっているし、できるなら協力したい。だから内容を聞いてみる。
「ホールでも調理でもいいけど」
「じゃあ私が協力しますね」
腕をまくって京が自ら申し出る。
「お願いできるのかい?」
「ええ、調理なら任せてください! レシピを見ればすぐに出来ます!」
「俺も手伝いますよ!」
京と俺はオーナーについていった。
ガヤガヤ。
「これが今日カフェを空けた理由ですか?」」
オーナーのカフェは人数が少なかったら営業時間を変えたり、閉めたりもする。
本来2人もいなければ休みにするのが普通である。
「そうなんだよ。今日はサッカー部の打ち上げがあって45名貸切なんだ。予約を貰ってたし断りづらいよね」
確かに急に45名が入れる店は当日探すのは難しい。こちらの都合で休みにするのは申し訳ない。
「じゃあ高津ちゃんはキッチンに入って! 岩瀬君はいろいろ運んで!」
今日のメンバーは俺と京を含めて5人。ドリンクを作る人が1人。俺とオーナーがホール、京ともう1人がキッチンをしていた。
オムライス24人前とパスタ21人前とサンドウィッチ12人前のオーダーが入ったのだが、あっという間に裁かれた。
京が2つのフライパンと2つの鍋を処理しながら、サンドウィッチを作るという離れ業を行い、しかもクォリティがいつも以上に高いというもの。
サッカー部のなかには普段ここを使う生徒もいて、その味のすごさに驚嘆していた。l
オムライス、パスタ、サンドウィッチに使うソースや具材を、京風にアレンジして、より美味しくしていた。
「すいません、ちょっとやりやすいようにいつも私がやってるつくり方で作っちゃいました」
京は謝ったが、そのあとオーナーが喜んでレシピが多くなったことは言うまでもない。
食べてみたが本当に美味しかった。
「掃除も上手でに料理もうまい、京の旦那さんになる人はうらやましいな」
ふとそんなことを言うと、京に笑顔でこっちを見られた。
「何言ってるんですか? 私の気持ち知ってますよね? もしかしてもう私には望みがないんですか?」
笑顔で丁寧な発言だが、目がずっとこっちを見ていてものすごく怖い。
「いや……そんなことはないぞ」
「そうですよね。何か悪いことしたかと思っちゃいました~。すみません」
そう言ってこっちに来ようとする。
「ちょっと待て。こっちに来るな」
「え……、何でですか? やっぱり私が何か悪いことを……」
「頼むから包丁をこっちに向けないでくれ。怖い」
京は俺が不用意な発言をしたタイミングで、なぜか京は包丁をつかんでいた。
「あ、すいません。無意識でした。いつもお料理のこと考えているからですかね?」
「いや関係ないと思うぞ。指切ったりしたら危ないから持ち歩くなよ」
「ふふ、そんなことはしないですよ。心配してくれてありがとうございます。先輩に1回きちんとお料理を振舞ってみたいです。カフェに持ってきているのはお菓子だけですしね。ですけど先輩は自炊されてますからお昼は必要ありませんよね……」
「俺が自炊するのは夜だけだ。昼は適当に買うし、朝は寝あまり食べないか食べないことも……「それはいけないですよ!」
俺が話している途中に京が今まで出したこともないような大きな声で俺に注意してきた。
「今日まで迷惑かと思ってお弁当を作ったり、家まで行ったりするのはやめていたんですけど、朝もお昼もきちんと食べないなんて体を壊しますよ!」
「あ、ああごめん。ん? 俺の家って京に教えたっけ?」
京の家は他のメンバーよりも近いため、一緒に帰ることもあるが俺が京を送ったことはあっても、京がうちに来た事はないはずだ。
「あ………………………………………………………………………………………………、違うんですよ」
「何が違うんだ?」
「今のは言葉の綾ですよ。私お料理自信がありますし、太一先輩のこと好きですからぜひ振舞いたいんですけど、家まで行ったらご迷惑かなって。5階まで毎回上がるのは疲れるかもしれませんが、それくらいなら私は全然大丈夫ですし」
「おい、何でうちが5階って知ってる?」
「あ……、てへっ♪」
「かわいくごまかしてもダメだぞ。俺の家知ってるな」
「そ、そんなかわいいだなんて」
「そこじゃない!」
京が頭をかしげて舌を出すしぐさは恐ろしくかわいらしいが、今はそこを新鮮に感じている場合ではない。
「じ、実は………、偶然知る出来事がありまして………」
「初めからそういえばいいんだ。どうやって知ったんだ?」
「先輩に送ってもらった後に、先輩の後をつけていって、家を確認しました」
「確信犯じゃないか!」
「てへっ♡」
「さっきよりかわいく言うな……」
行為は完全にストーカーだが、別に俺に害があったわけではないからとがめないことにする。
実害が出てからでは遅いが、実害が出るまでは訴えずらい。これがストーカーの問題点か。
「それはそれとしてですね」
「それを京がいうのか?」
急激に話を変えられる。
「朝はきちんと食べてください。そうしないと家までお邪魔しますよ」
「怖いわ! わかった、朝はちゃんとするから」
「お昼は時々でもよければ、私がお弁当を作る日は先輩の分もお作りしますよ」
「…………」
「嫌なんですか?」
「嫌ではないけど」
「迷惑ですか?」
「迷惑ではないけど」
「じゃあ大丈夫ですね。週に2、3回くらいですけど、お昼ごはんご用意しますね」
提案はしてくれたが、俺に断る権利はどうも与えられていないようだった。
「と、いうわけで、先輩と京も俺のことを好いてくれてるみたいでな」
クラスメイトには、杏理、由美、水城が俺を好いていることはばれていたが、学年の違う2人はすぐにはばれなかった。
だが、先輩と俺がデパートにいた時の目撃証言と、俺が食べているお昼の変化から、拓哉に疑われて理由を問われていた。
「とりあえず太一は死んだほうがいいんじゃないのか?」
「ははは、冗談がきついな」
「ははは、はっはっは」
目が全く笑っていない笑顔だった。近くで聞いていた男子も同じように笑い、教室に乾いた笑いが広まり一瞬ホラーみたいになった。
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