エピソード15 変装してまでやる大好きなこと
佐々木先輩の回です。
「ふぅ、来る時間を間違えたな」
今日は土曜日、普段している自炊が急激に面倒になった。
今日は何一つ用事がないとはいえ、何も食べないのは体に悪い。しかし今日は本当に何も作る気分にならなかった。
と、言うわけで、わざわざデパートに来た。
レストランが多くあるし何でも食べれそうだから問題ないと思ったのだが、時間がお昼どきだったため、ものすごく混雑していた。
俺は並んでご飯を食べるのが大嫌いだ。待たされてまで食事をしようとは思えない。
「ん? あれは?」
ノースリーブにカーディガン、少し長めのズボンを着こなしているのは先輩である。
制服姿以外を見るのは初めてだが、私服でもかなりオーラがあり、道行く男性がちらちら振り返る。
決して露出度の高い服装でもないのだが、さすがのカリスマ。
俺としては中身を知っているからかりそめのカリスマって感じか?
あれで中身も伴っていれば……、いや、仕事面では普通に有能だから伴ってないというわけでもないのだが、素の態度を見せているときとのギャップに違和感がある。
「何してるんだ?」
俺のイメージする先輩は休みの日はろくに外にでないで、漫画やゲームをやっているイメージがあったためである。
「先輩の休日、気になるから見てみようかな?」
先輩についていくと、デパートの4階にある本、ゲームコーナーに来ていた。ああ、なるほど、用事はここか?
しかし先輩は大丈夫なのだろうか? ここのデパートはそこそこ明星高校の生徒も来るし、この辺りの近所の人も来る。先輩はカリスマ状態ではいい意味で目立つから、誰かの目につく可能性があると思うし、ほしいものがあれば今は通販もある。
わざわざ外に出てくる必要性は低いと思うが。
「ん?」
ちょっと目を放した隙に先輩が見当たらなくなった。
あんな目立つ人が見当たらないというのはおかしいな?
目的の場所ここじゃなかったのかな? それとも俺がついてきたから巻かれたかな。先輩とにかくスペック高いし、気づいてない振りをしていなくなるくらいできかねん。
「くふふふ、この展開は読めなかったわ」
せっかくデパートまで来ているので、本屋を俺も覗いてみようと本屋の近くにいくと、雑誌を立ち読みしてにやついている女子がいた。
眼鏡をつけて地味な色の服装をしていて、前につばのある黒の帽子をかぶっていた。
「先輩だ……」
先ほどとは異なり、先輩を見る男子はいない。
いつも前で軽く止めているゆるふわの長い髪は、どうやってやっているのか帽子に完全に隠れきっているが、わずかに見える栗色の髪と、特徴的なふわふわの髪は先輩のものに見えた。
それに、眼鏡は先輩の印象を大きく変えているが、カフェの2階か生徒会準備室のどちらかでしか確認されなかった残念な先輩のにやけた顔や声は、見慣れていない人なら本人とは分からないだろうが、俺には分かる。
「くふふ……、ふ? たっく…………」
先輩が隣にいる俺に気づき、俺を呼ぼうとするのだが、途中で言うのをやめる。
せっかく変装しているのに、俺を呼んでしまったら正体を明かすことになる。
まさか俺が後をつけてきたとは思わないのであろう。
「たっく、たっく……。まったくこの内容で読者が満足すると思ってるのかしら?」
ごまかした。
「先輩、もう遅いです。というか俺相手にごまかしてどうするんですか? 動揺しすぎです」
「ふふふ、よくも私ってわかったわね。1度もばれたことなかったのに」
「よくぞ、ですよね。というか変装上手ですけど、にやけ顔はなんとかしてください」
「ええ……、それで分かったの?」
「まぁ、後は見れば分かりますし」
「うう~ん、やっぱり美味ね」
その後先輩を誘って1階のレストランエリアに来た。
レストランエリアの内容は由美に全て聞いていて、由美に付き合って全て食べたことがある。
先輩がお寿司がいいということで、周る寿司屋に入った。1皿100円なり。
「というか、先輩変装するくらいなら、ここに来ないで、通販を使って本を買えばいいじゃないですか」
俺は先輩に疑問を投げかけた。
「違うのよ。確かにほしい本を買うなら通販でもいいし、ある程度私にお勧めの本も選んでくれるから本は買えるわ。でも、本は手にとって買うのがいいし、ちょっと気になって手に取ってみてなんとなく買ってみたりするのが本屋の醍醐味よ。それにこうやって雑誌を読んで、新規の作者を開拓したりする必要もあるし、それにここの本屋さんは本に自分達のお勧めも書いてくれるから、とても新しい作品を開拓しやすいの。最近は本屋も厳しくなってきて立ち読みできなくなってる中でこの本屋さんのお勧めは嬉しくて……」
「分かりました! 急にしゃべりすぎです。見られてます!」
先輩が本とゲームを確認し終わるまで待ってたおかげで、時刻は14時になり店自体は混んでいない。
だが、先輩は本屋から離れたときに変装を解いて、いつものカリスマの姿になっていたため、非常に目立つ。寿司屋で美人が急に叫び出せばより目立つ。
とは言っても先輩のいいたいことはわかる。これだけ通販が便利になっても本屋が生き残り続けるのは、やはり手に取って買いたいという気持ちがあるからだろう。
「あら、ごめんなさい。でも趣味を堂々と出来ないのはつらいわね。この眼鏡も伊達だし、私の髪はふわふわ過ぎるから結構気を使わないとすぐに癖がついちゃうの。本当はこんな風に帽子に隠すと痛んじゃうわ」
先輩の髪はいつもの前で軽く止めたものではなく、全て下ろしていた。
いつもは止めているからわかりにくいが、自然にウェーブがかかった感じになって、ところどころ不規則にはねていた。
それでも似合ってしまうのが先輩の美人の特権かな。
「そんなに大変ならそのままいけばいいんですよ」
「それができるならやってるわよ。あ~あ、せめて誰かの付き添いとかなら私がいても不自然じゃないんだけど……、たっくん、いいこと思いついたわ」
「俺は嫌な予感がします」
「私が買い物に来るときに、あなたが一緒に来ればいいのよ。最悪誰か知り合いにあっても私があなたについてきたって言えばいいわ」
「やっぱり……」
「いいわよねたっくん。あなたがそのままくればいいって言ったのよ」
「俺と一緒にいるのをどう説明するんですか?」
「別につきあってるでいいんじゃないかしら? 間違われても私に損はないし~?」
「俺は何かしらの損害を被りそうです。すでに結構目線が痛いですし」
現状いろんな人から妬みの目線を受けています。
こんな美人に好かれているのに、なにか得した気分になれないのが悲しい。
「ダメ? たっくんにしかこんなこと言えないの。代わりになんでもしてあげるから」
「先輩、お願いですから言葉を選んでください。周りからの視線が本当に大変なことになってます」
「たっくんのいうことなら、ちょっとハードでもOKしちゃうから」
「話を聞いてください! 何もしなくていいですから黙ってください!俺協力しますから」
「あらそう? だったらお願いね」
あ、しまった。なぜか何の見返りもないのに手伝うことになってしまった。
普段見せない無邪気な笑顔を見て、今から断ることは出来なかった。
土曜日の午後に俺は先輩とここに付き合うのが習慣になった。
ただ先輩が変装をしないで本屋やゲーム屋をうろついているとものすごく見られるのがつらい。
勝手なイメージで物事を語るのはよくないが、この辺りではこの本屋とゲーム屋さんが一番規模が大きいため、ここに用事がある人は、そういうものが好きな人も結構目立っていた気がする。
先輩はその点堂々としていた。やはり見られ慣れているんだと感心した。
「はい、あーん」
そしてなぜかスイーツ店にいた。
「先輩、これ本屋もゲームも関係ないですよね。普通に食べましょうよ」
「いいじゃない。せっかくだから楽しみましょうよ」
「誰か知ってる人に見られたら疑われますよ。用事がすんだら帰ったほうがいいんじゃないですか?」
「デートって言えばいいのよ。それに年頃の男女が休みの日にデパートまで来て、本屋だけにきて帰ったら、むしろ疑われるわ」
微妙に正論を言われて返せない。
「それに、私はたっくんと一緒に好きなものを見れて、こうやってデート気分を味わえてすごく楽しいわ。無理やり誘っちゃったけど、せっかくだからお礼もしたいし、たっくんにも楽しんでほしいの」
少し申し訳なさそうな顔でそういうことを言うのはずるいと思います。
「……、楽しいですよ」
先輩の好きな漫画やゲームの話を聞いているのは面白いし、先輩はデートっぽくしようとしてくれているのか、腕組んでくれたりしてくれるし、見られるのが気になるというのは本当だけど、悪い気なんてするはずがない。
「そう、よかった~」
安心して超笑顔の先輩を俺は直視できなかった。
感想、評価ありがとうございます。
感想でタイトルへの矛盾のご指摘を何点か頂きましたので、タイトルを変更させていただきました。




