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おい、合戦しろよ

お待たせして申し訳ありません。

色々悩んだり唸ったりして更新が遅れてしまいました。

三か月も遅れたことに心からお詫び申し上げます。

終盤までの大まかな流れはとりあえず思いついたので、更新速度を上げられると思います。

「それで、どうなさるおつもりで?」

「敵は数千、此方は八百。下手をすれば壊滅ですぞ」


 夜空を照らす程の篝火と、それに負けじと煌く星空の下、木製のテーブルを囲む数人の武将。

 徳川&鵜殿家が率いる、ゾンビ討伐軍の本陣である。

 鵜殿家からは大将である俺と、鵜殿家部隊の現場指揮官である新平、護衛役の政信、それと居候(寄騎)である輝勝殿。

 援軍として残って貰った徳川家臣からは、忠勝・康政の四天王コンビと、今回も力を貸してくれるらしい伊忠殿。そして、忠勝の後見人である本多忠真殿の四人が参加している。


「はじめまして、肥後守殿。平八郎から御高名を伺っております」

「こちらこそ、はじめまして」


 忠勝からちょくちょくと話は聞いていたが、忠真殿と直接会うのは今回が初めて。


 本多肥後守忠真。

 平八郎忠勝の叔父にあたり、彼にとっては恩人とも呼べる人である。

 幼いころに父親を亡くした忠勝を自らの居城に保護し、読み書きから武士の心得、槍の扱いにいたるまで丁寧に教え、彼が元服した後は後見人として共に戦場を駆けているという。

 後世における知名度は忠勝や同じく本多一族であるインチキ参謀正信、その息子釣り天井正純に比べれば大したことがないが、彼の教育成果は忠勝の生き様に見事に表れているといってよいだろう。

 後に彼が「家康に過ぎたるもの」と唄われるのも、すべてはこの本多忠真という人物のお蔭なのだ。

 彼がいなければ四天王・本多忠勝はこの世に存在しなかったかもしれない。


「平八郎がいつもお世話になっております」

「ははは。昔からの付き合いですからね」


 一時は徳川家と敵対することも覚悟していた俺にとっては、こうして彼らと肩を並べて戦えることは存外に嬉しかったりする。

 史実なら今頃三河を追い出されて、遠江二俣に居候してた筈だしね……。


「短い間でしょうが、力をお貸しください」

「喜んで。お世話になっている分働かせてもらいますぞ」


 忠真殿は笑って答えた。

 この人も実兄(忠勝の父)が戦死、その後の今川家の三河乗っ取りで相当苦労していた筈だが、こうやって暗い部分を全く見せないのは、三河武士としての芯の強さ故か。


「挨拶はこれくらいにして。本隊の撤退は既に始まっております。後は我々が無事に帰還できればよいのですが……」

「幸い、敵は寄せ集めのゾンビ共。少なくとも、逃げる分には問題ないものかと存じ上げます」

「じゃが、折角の殿軍じゃ。一戦も交えずにただ逃げるのみ、というのは如何なものか」


 口ぐちに、それぞれの意見を言い合う諸将たち。

 忠真殿はこの後の展開における不安を、伊忠殿は撤退に肯定的な意見を、輝勝殿は良く言えば無骨ものらしい合戦至上主義な意見を、それぞれ口にする。

 論戦、舌戦。

 これも「合戦」の一部に入るということだろうか。

 そして、忠勝と康政は手練れの武士たちの雰囲気に飲まれ押し黙ってしまっている。

 それなり戦場を経験し、場数を踏んだとはいえ、彼らはまだまだ青い若造だということだろう。

 そして、それは当然俺にも当てはまる。

 特にこの二人と違い戦線で殴り合った経験が殆どない俺にとっては、正直この気迫を受けただけで逃げ出したい気分だ。

 勿論、名目上とはいえ大将が逃げ腰でいるわけにもいかない為、この場を離れるわけにはいかないのだが。

 これは、精進しろという内心からの警告だろうか。

 今度鳥居忠吉殿辺りにでも三河武士としての薫陶を授けてもらうおうか。


「三郎殿、貴殿はどうお考えですかな?」

「何もせずに退却するのか、それともこの場に留まるのか」

「お考えをお聞かせ願いたい」


 話を振られてしまった。

 おっさん三人が雁首そろえて此方をまじまじと見つめてくると言うのはシュールすぎる。


「そうですね……。敵は烏合の衆であるとはいえ大軍、まともに相手はしない方が良いでしょう。いかに此方が精鋭とはいえ、正面からぶつかれば数の勢いに呑まれかねません」

「そうなると……」

「はい。主殿助とのものすけ(伊忠)殿の申される通り、本隊の退却が完了し次第、さっさと陣を引き払ってしまったほうが良いかと思われます」


 結局のところ、これが最善の案だと思われる。

 敵は指揮系統がはっきりしない一揆集団。本格的な軍隊のように、規律をもって統率されている訳では無いのは今までの戦闘から分りきっている。

 俺たちが突くのはそこだ。逆に言えば、そこしかない。

 敵の行動が鈍い所を衝き、素早く撤収を完了させる。

 武士や一人の男としては、敵前逃亡とも言える行為を行うのは少々悔しいが……。


「筑前殿、申し訳ございませんが今は抑えて下され。いずれ、あのゾンビどもには鉄槌を下してやりましょう」

「むむむ。しかたありませぬな」


 流石にこの戦力だけで、要塞と化しているお寺を攻めるのは無理がある。

 納得のいかぬ顔をしている輝勝殿を何とかして説得し、しっかりと計画を練るために軍議は続く。


「幸い岡崎城は近いので、逃げ込んでしまえば此方の勝ちです」

「ですが、敵もバカではありません。此方が兵を退くと分れば、すぐにでも襲い掛かって来るのでは?いや、既にばれているのやも……」


 ここで、今まで黙っていた康政が疑問を呈する。

 彼の心配は尤もだろう。


「一応、策というか考えていたことがあります。新平、あれをここへ」

「ははっ」


 ドタバタという騒がしい音をたてて、新平が退席。

 そして、すぐさま何やら大きなものを抱えて戻ってきた。


「三郎殿、これは一体……」

「ボロ人形」

「いや、それはそうですが……」


 新平と、それに連れられた橙陣の足軽が持ってきたのは、藁や木の枝、枯草などで組み上げられ、申し訳程度に鎧のようなものを取り付けられた、顔面に仮名文字のようなものが書かれた人型ヒトガタ

 惑うことなき『案山子』である。

 顔面の文字はお馴染みのへのへのもへじだが、この時代に読める人はいない。


「何時の間にこんなものを……」

「急ごしらえです。酷い出来ですが、一時的に誤魔化すには十分かと。それと、ついでに本隊には軍旗を可能な限り置いて行って貰いました。この軍旗の下に人形を上手く配置しておけば、より偽装度は高くなると思います」

「やけに本隊の方が寂しいと思ったら、そういうことですか。てっきり撤収に邪魔な荷物を置いていっただけと思っておりました」


 正式名称は偽兵の計ともいう、軍記ものではお馴染みの「敵の目を欺こう」作戦である。

 三國志演義で諸葛亮が使ったものが有名だろう。

 レーダーどころか広角レンズもない時代、索敵・斥候を行うのに頼りになるのは人間の眼だけだ。

 そして、どんな熟練した物見であっても、それが人間である以上、絶対にミスを犯す。

 大した量の無い碁石を沢山あるかのように錯覚したり、目の前の違和感に全く気が付かなかったり。

 こんなできの悪い案山子でも、遠くから見れば兵に見えるだろうし、何よりも前述の大量の軍旗のお蔭で本隊とその兵は未だ陣に留まっていると誤魔化すことができる。

 敵の目がこれに釘付けになっている間に、俺たちは出来る限りの軽装で陣を引き上げてしまえば良いのだ。

 勿論、敵に見つからないように真夜中に行動しなければならないだろうが。

 ああ、寝不足が捗る……。


「バレたら?」

「その時は全力で応戦して逃げる、ということで」


 我ながら投げやりだな、と思う。

 だが、実際問題最悪の場合には、これ以外に手が無いのも事実なのだ。

 寄せ集めのゾンビ集団でも、その勢いだけは本物だ。一度策を崩されて、部隊を立て直す自信はない。

 本当にきわどい勝負だ。

 ……武田の侵略で勢いに乗った連中が、討って出てこないことを願うだけである。


「ふむ、こんなところでしょうな。あとは……」

「ええ、退却用意が出来次第、引き上げてしまいましょう。長居はしたくない」


 開始から数時間、軍議が終った。

 後は誤魔化し作戦に従って、各部隊ごとに撤収の準備、人形の配置や最悪の場合の迎撃準備を行う手はずだ。

 というよりも、早い所ではもう準備を進めている。

 うちの橙陣の奴らとか、本多家の部隊とか……。


「では、各々方。ご武運を。生きて岡崎に帰りましょう」

「御意」






 ~鵜殿さんちの氏長君・目指せ譜代大名~






「おーい、三郎。夜襲に行こうぜ!」

「……」


 軍議解散後。

 俺が新平や政信を指揮して退却準備を進めていると、完全武装の忠勝とその従卒と思わしき数名の足軽が、突然現れてそんなことをのたまった。

 本当にこいつは。

 そんな遊びに行くような感覚で戦争に行こうなんて言っちゃいけません!


「あのなぁ。軍議でも行ったけど、そんな余裕は殆ど無いんだよ。少しでも隙を見せると拙いんだ……」

「そうは言うけどさぁ……」


 ……果たしてこいつは本当に軍議を聞いていたのだろうか。

 そういえば、こいつ軍議中には全く発言しなかったよな。

 まさか寝ていたんじゃなかろうか……。


「~♪」


 俺がそんな疑問を漏らすと、突然口笛を吹き始めて目を逸らす忠勝。

 駄目だこりゃ。


「肥後殿……」

「申し訳ない。いつものことです」


 いつの間にかその場にいた忠真殿に助けを求めるも、肩をすくめるだけで取り合って貰えない。

 この人もフル武装なだけに、こうなった忠勝の説得は不可能だと諦めているのかもしれない。


「気分や戦況はともかく、此方の手を見透かされないためにも夜襲を行って誤魔化す、というのは良いかもしれませぬな」


 輝勝殿が言った。

 確かにそれには一理あるが、何せ戦況が戦況だ。


「ですが、流石にあの要塞と化した寺に突撃するのは無謀です。死にますよ?」

「外縁部に守りが薄い陣がございます。其方を狙おうかと」


 うーむ……。


「責任が全てわしがとります。どうか、出撃の御沙汰を」

「頼む、三郎。このまま逃げるだけじゃ武士の恥だ」 


 ぺこぺこと頭を下げて出撃許可を取る二人組。

 仕方がない。

 忠真殿ではないが、こうなったこいつらは梃子でも動かないだろう。


「わかりました。ただし俺も出ます」


 手綱は握らせてもらう!

 大高城の時のようになったら、悲惨じゃすまないからな!






 同時刻。

 朝比奈輝勝や本多一族を始めとした狂戦士軍団に狙われているとも露知らず、勝蔓寺の外縁部に陣を張るゾンビ集団は、誠に暢気なものであった。

 勿体無いという理由で篝火すらまともに焚かず、雑兵どもは見張りすら投げ出して酒盛りや猥談に力を入れる始末。それを監督しなければならない筈の坊主共も、めんどくさいやらどうでもいいと言う理由で投げやり、自らも酒盛りを始める有様。

 一応、武士出身の門徒が独自に付け焼き刃の警戒網を敷いているのだが、如何せん数が足りな過ぎる。

 彼らが上司である坊主に守りの薄さを進言してみても、武士の功績が増えるのを嫌った彼らは全く耳をかさず、農民兵を唆して防衛線を敷こうにも、坊主が動かないのを良い事に前述の醜態をさらす。

 彼らにとってみれば、もはや手詰まりの状態であった。

 流石にここまでの醜態を晒せば、いい加減坊主の偽善に気づく者も出始める。

 だが、いまさら徳川家に戻るのは彼らの誇りが許さない。氏長からの調略を黙殺した武士たちも、そんな矛盾した感情を抱えていたのだろう。

 そして、そんな哀れとも自業自得とも取れる状況に陥っている者の中には、米津政信の親友である岸教明の姿もあった。


「心配は御最も。ですが、御仏の加護がある我々に負けは無いのです。分ったらさっさと持ち場に戻りなされ」

「……」


 これで何度目か。

 岸教明は盛大なため息を吐いた。

 上司である坊主に進言を繰り返し、散々この惰性の危機感を訴えても帰ってくるのは定型文のような言葉ばかり。最早決起時にあった信仰心など欠片もなく、彼の心にあるのは坊主への失望と、なぜ一揆側についたという深い後悔だけである。

 夜空に浮かぶ星々を見ながら、教明は思う。

 徳川家に残ってさえいれば、このような悲惨な目にあう事も無かった。今頃は殿の御側で槍をふるい、一揆を薙ぎ払っていたことだろう。

 そんな栄光を逃し、武功なしどころか謀反人にまで身を落としたのは、全ては自分の不徳、完全な自業自得だ。故郷の者や親類縁者親友の反対を押し切り、一揆についてこの様。このままでは生まれたばかりの息子と嫁、そして最期まで引き留めようとしてくれた親友に申し訳が立たない。

 ……そういえば、彼は元気でやっているだろうか。以前鵜殿家に出張に行って以来殆ど会っていないが、もしかするとあの鵜殿家の陣中にいるのかもしれない。戦いたくはないが、これも因果応報。先日の投降を進める書簡に何も返事を出さなかった以上、あちらが手加減をしてくれるとは思えない。


 ――今会えば、雌雄を決さざるを得ないだろう


 無論こちらも手加減をするつもりは毛頭なく、

 と、これから来るであろう親友との対決を考えた、その時のことだった。


 ぶるり、と空気が揺れた。


 何か、得体の痴れない敵意のようなものが教明の全身を撫で、否応にも彼の意識を現実へと引き戻す。


(何かが来る……!)


 危機感、そして陣を守らなければならぬという使命感に駆られた教明は槍を掴むと、辺りも顧みずに駆け出した。





「ふははははっ!粉砕玉砕大喝采!」

「どーけーよーどけーよーどーけーどーけー」

「なんで俺まで……」


 高らかにミュージックホーン(違)を鳴らしながら、敵の真っただ中に飛び込む忠勝と、それに追従をよぎなくされる康政。一応の大将である筈の輝勝殿は、真っ先に槍やら弓やらを器用に構えて敵陣に突撃している。

 対する一揆勢は、なんというか本当にグダグダ、やる気が微塵に感じられない。

 辺り一面真っ暗だと言うのに照明となる物が月明かり以外に何もない所為か、此方が手を下すまでもなく、同士討ちを引き起こしてバタバタと倒れていく。何とかその魔の手を逃れ、必死で抵抗を試みる兵(恐らく元徳川家の武士だろう)もいるのだが、焼け石に水。混乱と動揺で身動きが取れず、勢いのある徳川軍に呑まれ、あっという間に地面に躯を晒す。

 ちなみに、当然此方の視界もとんでもなく悪いが、頭に橙色の鉢巻を撒いているおかげで同士討ちなんて起っていなかったりする。


「拍子抜け。一揆ってこんなに弱かったっけ?」

「恐らく、攻め込まれるとは微塵も思っておらなかったのでしょうな」


 突撃する自軍と、それに蹂躙される一揆勢を見ながら、政信と喋る。

 奇襲があまりにも上手く行ったのに拍子抜けしたのか、顔にいつもの張り――合戦を前にして高ぶる三河武士特有の表情――が見られない。


「うぉぉぉっ!貴様が大将かっ!」

『!?』


 その直後の事だった。

 響く怒声、振り返る俺と政信。

 そこに見えたものは、身の丈よりも少し短い槍を持ち、黒光りするイカのような鎧を纏った武者だった。怒り狂ったイノシシのような払い鼻息を吹き出し、頬当ての隙間から僅かに見える顔が茹蛸のように赤く腫れ上がっている。目が血走っているのは想像に難くない。

 まさか単騎突入してくる奴がいるとは。どうも油断したようだ。いや、ゾンビとはいえ、敵も勇猛めんどくさいな三河武士である以上、全く予想していなかったわけではないのだが。その証拠に、政信は攻撃に参加させずに手元に残しておいたわけだし。


「三郎様!お下がりください!」

「ああ……」


 驚いて一瞬硬直してしまった俺を尻目に、政信は自らの得物を構えてイカ武者向けて相対した。

 両者の距離はもう殆どない。お互いに有り余らんばかりの闘志をむき出しにして、目の前の『敵』と対峙する。


「やはり、孫次郎だったか。久しいな」

「……小太夫か。敵として対峙した以上、言葉は無用だ」


 対峙したイカ武者と、小太夫は知り合いらしい。

 それも、ただの知り合いと言う訳では無く、気の知れた仲間、竹馬の友といった雰囲気がある。


「小太夫、知り合いか?」

「以前お話したことのある岸孫次郎教明でございます。まさかここで会いまみえることになろうとは……」

「ああ、あの最近結婚して云々と言っていた人か」


 イカっぽい鎧に、物の槍。以前政信に聞いたことのある「岸教明」その人の特徴と一致する。解遁時と同様に目の血走りは収まらず、未だに鼻息を荒らげてはいるが、その姿は政信同様に立派な無骨者そのものだ。もっとも、暗くてよく見えないのだが。


「勝負だっ、孫次郎!三郎様には触れさせん!」

「望むところだっ!お前を討って、そっちの大将殿も討つとしよう!」


 俺の観察を余所に、一騎打ちを始める両者。仕掛けたのは予想外に政信の方であった。

 いや、それはいいのだが、勝手に人の命を賭けるのは止めて貰えませんかね?

 なんかこう、自分が宝くじの景品にされているようなむず痒い感覚がする……。


「腕は相変わらずか!」

「主家に背いたとて、武士を止めたわけではない!鍛錬は欠かさぬものよ!」


 打っては躱し、打っては防ぎ。

 まさしく一騎打ち。両者精錬された流れるような槍捌きと、それを受け流す技量。俺には何年たっても辿りつけそうにない境地であろう。

 この場に居合わせた鵜殿兵が助太刀に入ろうとするが、白熱している両者は何者も寄せ付けないような熱気を放ち、他者の介入を頑なに拒む。


「そこだっ……!」

「しまった!」


 一瞬のことだった。政信が教明殿の攻撃を躱した、本当に僅かな隙。そこにできた小さな綻びを、教明殿は見逃さなかった。

 バランスを崩した政信に、一際強烈な勢いを持って打ちかかる。政信は何とかそれを防ぎきるが、先ほどとは違い圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまう。


「小太夫!助太刀を!」


 俺や周りの兵たちが何とかして救援に入ろうとするが、やはり介入する場所が見つからない……!

 こうしておどおどしている刹那にも、政信は次々と不利な状況に追い詰められていく!

 そして、ついに政信が大きく崩れた。


「貰った!」 

「……!」


 教明殿の叫びと、声にならない悲鳴。誰のものかは分らない。

 ただ一つ言えることは、政信が負けたと言う事だけだった。






「それはどうかなっ!」

「なにっ!?」


 その瞬間。狙ったかのようなタイミングで現れた康政が、いっぱいに引き絞られた弦を弾き、矢を放った。

 ひゅんという乾いた風切音を立てて放たれたそれは、まるで何かに誘導されるような軌跡を描き、教明殿の肩口に深々と突き刺さる。その結果、政信に攻撃することだけに全力を傾けていた彼は、見事にバランスを崩して落馬、政信の代わりに、大地に攻撃を繰り出す羽目になってしまった。おまけにその時の衝撃が大きかったのか、教明殿は地面で蹲ってしまう。かなり衝撃が大きかったようで、もう立ち上がることは不可能だろう。彼にとっては不本意な結果に終わってしまっただろうが、勝負ありだ。逆転勝訴。


「む、無念!」

「小平太、いつの間に?」

「色々とあってな……。戻ってきたらあのやり合いだ。流石に不味いと思って助太刀させてもらった。小太夫殿、差し出がましい真似をして申し訳ございません」

「いやいや、危ない所を助けていただいて礼を言うぞ、榊原殿」


 色々ねぇ。何があった。

 そんな表情を向けると、無言で暗闇の向こうを指差す康政。その先から聞こえるのは、一揆兵ゾンビの悲鳴と思しき阿鼻叫喚と、その原因となっているであろう味方の高笑い&怒声。その殆どが良く聞き覚えのあるものである。


本多一族あいつらにはつき合いきれん……」

「……御愁傷様です。っと、それはともかく。小太夫、岸殿をとっ捕まえてくれ。流石に一番の家臣の親友を討つのは忍びない」

「御意。敵になったとは言え、もとは同じ徳川の武士でございますからなぁ」

「むむむ。縄目の恥を受けるとは……」

「死に早まってはいけません。とりあえず、岡崎で小太夫や蔵人殿とお話なされ」


 地面に突っ伏してのびている教明殿をとりあえずとっ捕まえると、真っ暗な中、暴れ回る味方を一睨。

 そろそろ引き上げても良いころだろう。夜襲を始めて暫く立つ。そろそろ敵の本隊に気づかれて、増援がやって来てもおかしくはない。


「よしっ、もう十分だろう。何時敵の増援が来るか分らん。小太夫、撤退の合図を」

「ははっ」



 こうして無事に夜襲を成功させ、悠々と味方の陣に帰還した俺たちは、最悪の場合に備えて待機していた深溝家の軍勢と合流、数刻も立たないうちにすべての陣を放棄して岡崎に撤収した。そしてその翌日。岡崎城北東に迫った奥平家と武田らしき軍勢を松平本隊が撃破し、ひとまずの危機を脱したのであった。


 ちなみに一揆勢ゾンビどもが陣が空だということに気が付いたのは、俺たちが撤収した翌日のことだったらしい。がらんどうの陣に並べられた大量の案山子とへのへのもへじを見て、あちらさんの大将坊主はとんでもない金切声をあげて発狂したそうな。めでたしめでたし。



三か月もお待たせしてこのクオリティ……。

申し訳ありません……。

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