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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十四節 会合と情報と水泳肌着
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2-14-4.「これは、女性用の水着、か?」







「ふっふっふ。皆さん知ってるでますか? 東の方の国々では、泳ぐときの肌着がどんどんオッシャレーになってってるんでますよ!」


 にんまりと何やら含んだ得意げな笑み浮かべ、レマは手にしていた布切れの中から青い二つを選び、よく見えるように右手と左手にそれぞれ持って改めて掲げ直した。右手の一つは二つの器状の部分が付いた帯のようなもの。左手の一つは小さな三角形。……決して断じて詳しいわけじゃないけど、遺憾ながらシーラのものは見たことがある。


 これは――「……女性用の肌着、か?」


「お、ウェルさん反応が早いでますね! さっすがオトコノコ。やっぱり興味はあるでますよね! ご安心くださいでます、普段用の肌着なら見られて怒る女性も多いところでますが、これは水泳用の肌着! シーラさんもミディアさんも、怒ったりなどしないのでます!」


「水泳用の肌着って……」


 額を押さえながら言葉を探す。


 シーラの肌着を見せられたときも思ったんだけど、これ面積が狭すぎないか? ティリルが普段着てた肌着はもっと腹の辺りまで隠れてて……、いやその……。


「東の国、ねぇ。アトラクティア辺りじゃ若い連中のファッションがどんどん過激になってるって話は聞いたことあるけど、こんな水着まであるわけ?」


 ミディアがレマの手から胸当てをつまみ取り、まじまじ見る。


「色合いがたくさんあったり、ふりふりが付いてて可愛かったりするのが東の国の特徴らしいでます。肌着の形は、このセラムで発展した文化だって聞いてるでますが――」成程。シーラの普段の肌着も砂漠ならでは、か。「でますがまぁ、ファッションの歴史なんてどうでもいいのでます! とにかくセラムには可愛くてお洒落な水泳用肌着がいっぱいあるんでます! ところが残念なことに、セラムの泉は遊泳禁止! そして、あちしの体型じゃ着られる水着も限られる! となれば、細くて胸の大きいお姉さま方に着て頂ける機会を逃すわけにはいかないじゃないでますか!」


 困ったな、ちょっとこいつが何言ってるのかわからない。


 ツッコみどころは山ほどあってもう小さいことなんかどうでもよくなるんだけど、唯一見過ごせない点があって、ひょっとして、ひょっとするとさ。


「……待ち合わせの時間、三時じゃねーな?」


 ゼノンが聞いた。怒りの形相で聞いた。えっへへー、大正解でます! 命知らずのレマが、満面の笑みを湛えて答える。


「は? 何あんた、どういうつもり?」ミディアが手の水着を力強く地面に投げ捨て、腰に両手を当てた。「時間騙して、こんな際どい水着山ほど用意して、何しようって魂胆よ?」


 四人から強く睨まれても、ヘラヘラした笑みを隠さない。肝の座り具合には感嘆させられる。


「何って、さっきから言ってるじゃないでますか!」そして、口を小さくへの字に曲げて、きょとんと眼を見開く。「皆さんに可愛らしい水着を着せて、目の保養をしつつ一緒に遊ぼうと思った。本当にただそれだけなんでます。ここの泉は水がきれいで、泳いでも安全って評判なんでますよ!」


 うん、やっぱりちょっと何言ってるのかわからない。


 ミディアは指を集めて眉間を押さえ、シーラもぽかんと口を開けて立ち尽くしている。ゼノンに至っては怒鳴るのも面倒らしく物凄い形相でレマに顔を近付けてただじーっと睨み付け続けた。


 俺は、……うんまぁ俺は、何か企んでるような彼女の雰囲気の、その中身がこの程度だったとわかって、結構安心していた。


「で? 実際の待ち合わせは何時なの?」ミディアが確認する。


「五時でます。のんびり遊ぶ時間が取れるでますよ!」


 悪びれるどころかにこにこと満面の笑みで、左手に残った青の水着の方までミディアに押し付けるレマ。強いなぁ。


 はぁ、と一際大きな溜息を地面に落として、最初にシーラが表情を変えた。


「ま、来ちゃったもんはしょうがないか。確かにのんびり待つしかやることないし、たまには泳ぎを楽しむのも悪くないかも」


「前向きね」呆れ顔のミディアも、けどすぐに折れる。「しょうがないわね。けど、こんな派手な水着私は絶対着ないわよ!」


「大丈夫でます! 上下ひとつながりのデザインのものもあるでます」


「腰巻布はないの?」


「フリルのならあるでますよ」


「げ」


 割と楽しんでるなぁ。


「あ、勿論男性陣の分もあるでますから安心してくださいでます。フリルじゃないでますが」


「いらねーよっ」


 チッと舌打ちしながら、その癖何やら乗り気なゼノン。さっきまで苛々してたくせに、なんでそんなにやにやした目でこっちを睨んでくるんだよ。何アピールだよその目は。


「ま、けどそういう話ならしょーがねぇな。せっかくだ、剣の腕じゃお前とはほぼ五分だし、今日は泳ぎで勝負といくか」


 うわぁ、そういうアピールの目かよ。


「いや、遠慮しとくよ」


「ははっ、さてはお前、自信ないんだな!」


「ああ、そういうことでいいよ」


「ンだよ張り合いねーな」


 張り合うなよ、眠かったんじゃないのかよ。めんどくさくなりそうだったので、最後の一言はしまっておくことにした。


「ゼノンさんは早いのがいいでますか? じゃあ、カジキ柄の水着なんかどうでます?」


 そう言ってレマは、楽しそうにするゼノンの眼前に、泳ぐカジキの絵が織り込まれた奇妙なデザインの大きめのパンツを広げてみせた。鼻先の(ふん)がぐるり尻の方まで鋭く伸びている。


 ゼノンが笑うとも怒るとも違う、何とも複雑な表情をして見せた。


「ウェルさんはどうするでます? 他にはエリマキトカゲとかコビトカバとか、スナバシリとかの柄もあるでますよ?」


 えー…………。




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