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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十四節 会合と情報と水泳肌着
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2-14-3.「とにかく、明日の予定が決まった」







「来た来た、来ましたでますよ!」


 それから一週間後。シーラと一緒にグァルダードへ行くと、相談受付の個室の中、レマが両手を振り回して歓迎してくれた。


 シーラと顔を見合わせる。来た、と言われれば何がかはわかる。俺たちの依頼に対する情報提供者だ。けど、来るだけだったらそれなりには来てる。


「なぁに? 今日に限って何そんなに騒いでんの」


「無料で、敵の根城でも教えてもらえたのか?」


「さすがに無料はないでます」


 すん、と静かになるレマ。適当なこと言っただけなんだから、そこまで冷たい顔で対応してくれなくてもいいと思う。


「じゃあ何なの?」


「どんな情報を持ってきたか、先に提示してくれたでます! ガゼルダの経歴と、敵の所在についての簡単な情報。……どれくらい簡単かはわからないでますが、恐らく方角くらいは教えてもらえると思うでますよ!」


 シーラと顔を見合わせた。


 そして次の瞬間、俺とシーラも大声を上げてレマに答える。


「おおっ、すごいじゃんか! それって結構ちゃんとした情報じゃんっ!」


「ガゼルダの経歴って、あの男が何者だかもわかるってことだよねっ?」


「そうでます! そうでますよっ! やっと少し役に立つ情報がもらえるんでますよっ!」


 個室を用意してもらっていて本当に良かったと思えるほど、三人大声を出して騒ぎ立ててしまった。後になって落ち着いて考えたら、役に立つ情報の一片が得られるかもしれないというだけで随分喜び過ぎてしまったと恥ずかしくなった。てか「結構ちゃんとした情報」てなんだよ。ちゃんとしてない情報って何なんだよ。


 今までは、組合員からの接触についてはこの建物の上の会議室、それ以外からの話についてはライトラールの受付職員詰所脇の小部屋を使って話をしていた。レマの話だと、今回は相手側の方から時間と場所の指定があるという。


「タランタのオアシスの南側に、明日六月二十五日の午後三時に行かなきゃならないでます。もし当日会えなければ、今回の話はなしだそうでます」


 かなり強気な条件だな、と感想を抱くも、特に不満はない。少なくとも誰もその時間に手が空いてないなんてことはないだろうし、まず俺自身に予定がないので不都合なことは一切ない。


「一応確認するけど、罠だっていう可能性は?」


 シーラが声を低くした。


 そうか。街の外で会うってことは、そういう可能性も懸念しなきゃいけないのか。


「低いと思うでます。仕事の完遂量は三百件以上に達してますでました」


「なるほど。じゃあ警戒しなくて大丈夫そうだね」


 レマの答えに、シーラは安心したようだった。


 今の話のどの辺りが安心できるポイントだったのか。わからなかった俺は、どちらにともなく聞いてみた。


護衛者(ケーパ)仕事を請け負う振りして依頼人を襲うような襲撃者(レルティア)崩れもいるんだけどさ。今までに三百件もまじめに仕事をこなしてきた奴が、今更そんなつまんない真似しないかな、と思うよ」


「勿論可能性はゼロじゃないでますけど、そんなことやる奴は、ケーパ登録をしてすぐだったり、経歴があってももっと悲惨だったりするのが普通でます」


 はぁ、なるほど。そういうものかと、とりあえず俺は納得した声を出した。


 とにかく、明日の予定が決まった。


 レマも同行するという。「情報の未見既知を保証しないといけないでますから、とうぜん、あちしも行くでますよ!」拳を握りながら力強く言ってくれる、その表情はけれど何かを企んでいるようでもあった。まさか彼女が俺たちを陥れようとしている、とは、思いたくないけれど。


 ゼノンとミディアも同行するという。ゼノンは勿論!と息巻きながら。ミディアも危険が少ないならと、不安交じりではあったけど、好奇心が勝ったらしい様子で。


 この街に来てからもなかなか夜型生活を直せていなかった俺たちにとって、片道一時間半の距離と聞いたオアシスに三時に着くようにするのは、少し過酷だ。根拠もなく大丈夫だと笑うゼノンを除き、他の三人は日付が変わる前に部屋に戻って就寝した。




「…………ねみぃ」


 オアシスに着くまでに二十回は同じセリフを呟いたか。ゼノンの泣き言にはもう誰も反応しなくなっていた。


 まだ日が高い午後二時五十分。俺たちは、駱駝と馬にそれぞれ跨り指定のオアシスにやってきた。ミディアが、金製の懐中時計を何度も確認してくれているから、時間も指定通りのはずだ。


「誰もいないね……」


 最初にシーラが口を開いた。


「あと十分で来るって言うなら、相当時間に厳格な奴ね」


 買い直した革の鞄に時計を仕舞い、ミディアがくしゃりと表情を潰す。オアシスを背に広い砂原を見渡しても、誰の姿も見当たらない。


「恨み言は早いよ。正確にはまだ時間じゃない」


 駱駝を降りながら、努めて冷静に言う。


 肌を焼く強烈な太陽を、これほど激しく浴びるのは結構久しぶり。正直なところ、ここまで来るだけでも結構体力を削られた。相手がまだ来ていないなら、少し休んで体力を温存するのが得策だ。水辺に近い日陰を選び、駱駝を木に繋いで、俺もしばらく座り込むつもりでいた。


「さあさあさあ! 皆さんお好きなの選んでくださいでます! ほらほら、色々ご用意したんでますよ!」


 唐突に、元気に大声を張り上げるレマ。四人びくりと体を震わせ、何事が始まったのかと目を丸くして、黄色いツインテイルを振り返った。


 駱駝から落ちるように降りたレマは、背負っていた彼女の体ほどの大きさのある鞄を地面に置いて、中から布切れをいくつか取り出し両手に持って振り回していた。


「……なに? それ」


 シーラが指を差す。



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