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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十三節 シーラの憂鬱
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2-13-4.「痴情の縺れには、関わりたくないなぁ」







 俺はびくりと肩を震わせ、何でそれを、と慄いた。いや腕利きなんてお世辞を認めたわけじゃないぞ。あくまで! グァルディオン証を持っていると見抜かれたことへの驚きだ。


「ふふ、見ればわかりますよぉ。だぁってこんなに落ち着いてて、頭もよさそうなんですもの」


 甘ったるい声で見え透いたお世辞をよこす。


 ニヤニヤと笑いながら、断りもせずに隣の席に腰を下ろす彼女に、警戒が解けるはずがなかった。


「そう固くならないでくださいよ。私はただ、腕利きのグァルディオンさんに仕事の依頼をしたいだけなんです」


 グラスの酒を一つ口に含み、俺の顔をまっすぐ見つめてにこりと笑う。


「依頼? 依頼ならグァルダードに出せばいいじゃないか」


「勿論出します。けど、私、受けてくれるなら誰でもいいって思えなくって。やっぱり、自分で選んだ人にお願いできる方がいいと思いません?」


 えへへ、と悪戯っぽく舌の先を出す。


 いちいち気になる所作を挟んでくる。彼女なりの他者への近付き方なんだろう。卓の上で両手を組み、前にのめって大きな胸を強調する姿勢。どうせお前も、男はみんなこういうのが好きなんだろう?と言われているようでもやもやする。


 そりゃ、多少ドギマギしちまう部分もあるけどさ。


「それに、こうやって事前に声をかけておけば、ライトラールの窓口への依頼でもグァルディオンの方に受けてもらえるじゃないですか」


「……なるほど」


 これには納得した。確かに、ライトラールの窓口にはグァルディオンはほとんど来ない。安い依頼費で腕の良い請負人を探したいなら、こういう手段はアリだろう。グァルダード的に認められるのかはわからないけど。


「仕事の内容は?」


「嬉しいです。興味持って頂けました?


 お願いしたいのは、私の護衛です。明日、ハルクシュタードの大岩で待ち合わせしているので、そこまで連れて行って欲しいんですよ」


 知らない場所だ。素直に伝える。


「大丈夫、道なら私がわかりますから。ただ一緒に来て、悪漢に襲われたらやっつけてほしいんです」


「狙われる心当たりがあるのか?」


「あー……」


 女性の態度が初めて濁った。答え辛そうに小首を傾げ、薄墨色の髪を指先でいじって。


「実はその、逆恨みされちゃってまして……」


「逆恨み?」


「昔ちょっと仲よくしてた男なんですけど、しつこくされちゃってて、それで……」


 なんだ。痴情の縺れか。あんまり関わりたくないなぁ。


「全然、そういうんじゃないんですよ!」女性は両手の平をぶんぶんと振り。「一度一緒に仕事しただけだったり、ちょっとご飯食べただけだったり。もう、そんなんで付き合ってるみたいな顔されちゃって、迷惑もいいとこですよ!」


「……一人じゃないのか?」


「あ」


 口を押さえ、ゆっくりと俺の顔を見る彼女。そして、にっこり笑って「えへ」とごまかそうとしてくる。


「何人いるんだ」


 怒る気にもならない。溜息を吐いて、入れ替わりに酒を口に流し込んで。


「三人、かな」


 女性の答えに、そうかい、と嘆息した。


 サバ読みは計算に入れとかないとな。五人くらいはあり得るだろう。


「私ホント、男運ないんですよぉ。変な男にばっかり絡まれちゃって、いいなって思った人には相手

にされないんです。だから、遊んでるように見えるかもしれないけど、全然男性経験ってないんです。ほんっと、損ですよぉ」


 頬杖ついて、投げ槍に果実酒を口に流し込んで。


 深く吐かれた溜息に、少しだけ興味を持っちまった。確かに意外だな。酒の勢い、つい思った言葉を零してしまった。


「そうでしょお? みんなにそう言われるんです! ……でもね、そんなだから私、本当は男の人とキスもしたことなくて。多分、きっとまたあなたにも相手にしてもらえないんだろうな……」


「俺が相手にするかは関係ないだろ」


「じゃ、してくれるんですか?」


 甘ったるい声。俺の左の腕にするりと腕を絡ませ、肩を、髪を近付けてくる。こんな場所で、とてもいい匂いをさせている。花の匂いか何か――。


「仕事、受けてくれます?」


「え。ああ、いいよ。いつ出発だ?」


「ありがとうございます。明日の夜なんです」


 んふふと笑い、俺の腕からすっと手を引いた。


「じゃあ、一杯飲み終わったらグァルダードに行きましょうか。あ、遅れましたが、私の名前はマウラって言います。マウラ・マールーン」


「ウェルだ」


 名乗りを返し、残った酒を一気に飲み干す。もう大して残ってなかったのに、それでまた随分頭がふわっとしてしまう。今更だけどこの酒、実は結構度が強いな。


「ああ、そうだ。明日は仲間を一人連れて行くけど、いいか?」


 立ち上がる前に、一つ話を挟む。


 そう、たまにはシーラと簡単な仕事でもこなしてみるのはどうか、なんて唐突に思ったんだ。ミルレンダインにいたときみたいに、一緒に適度に暴れてみたら、少しは気が晴れるんじゃないかって。


「その方もグァルディオンの方ですか?」


 聞かれ、頷いて答える。


「わぁ。心強い。ぜひ、お願いしたいです」


 そう言って、マウラも果実酒の残りをさらりと喉に流し込んだ。




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