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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十二節 盗賊グァルダード組合長
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2-12-7.「ホントにこの子が担当なのか?」







「例えばだ。単純に『連中についての情報を求む』って依頼を出したとしよう。まず集まってくるのは、大した話も持ってないのに楽して金をもらおうって魂胆の連中だ。グァルダードで配ってる話だけ堂々と持ってくるバカもいるに違いない。もうちょっとマシな連中は、そこに『二百人を超える大規模な団』だとか、どっかで聞いた噂を付け足してくるかもしれない。どっちにしたって、価値の無い話をわざわざ持ってくる連中がそれなりにいるだろうことは簡単に想像できる」


 確かにそれはそうだ。他の連中は、俺たちがどんな情報を知りたがっているか、なんてわからない。こっちとしても何でもいいからと言って集めるわけだ。価値がないものを持ってくるなと一蹴するのは、いくら舞台がこの国だって言っったって乱暴に過ぎる。


「問題は依頼の出し方だ。さっき言ったような依頼を出せば、そんなつまらない情報にも金を払わなきゃいけなくなる。あるいは、もう既に知ってる情報にも」


「は? なんでだよ? そんなの金払う価値ねーだろ」


「そうは言っても、情報を持ってくる奴にそんなことはわからない。君たちからしても、聞いてみなきゃ『つまらない情報』か、『既に知っている情報』かはわからないわけだよ。けど、金をもらうつもりで話を持ってきた連中にしてみりゃ、商品(情報)を支払ってから価値がないって言われても納得なんてできないだろ? こいつらどんな話持ってきたって、『あーもう知ってた』って切り捨てて、金払う気なんて欠片もねーんだな。そんな評判が立ったら、もう質のいい情報なんて一切入ってこなくなる」


「う……」


 一度は噛み付いたゼノンも、言い包められて反論は無くなった。


 俺も含めた他の三人は、開く口もない。さすがグァルダードの元締めなんてやってるだけあって、ハルトスの仮定する状況は十分すぎる説得力があった。


「ゴミみたいな情報にいちいち金払ってたら大損だ。

 ってわけで、僕からの提案なわけよ。君たちが集めた情報を、うちの職員がまとめて管理する。そんで、君たちが客の相手をするときには、その職員も同席するわけさ。そうやって第三者が判定すりゃ、客どもにも『持ってきた情報がゴミだった』って納得させられるだろぉ? な? いい案だと思うんだけど、どう?」


 さて、ようやく話がきな臭くなってきた。


 この辺りからは、ちゃんと警戒しながら聞かないといけないぞ。何せそうハルトスの顔に書いてあるのだから。


「……ひょっとして、その職員への情報管理依頼料とか、ごっそり取ってこうって腹?」


 ミディアが警戒心を剥き出しにした。


 まさかまさか! 両手の平をぶんぶんと横に振るハルトス。不審なまでに大袈裟な態度は、全く収まる気配がない。


「確かに本来なら依頼料は発生するとこだよ。相場だとひと月にこのくらいかな」そう言って指で示すハルトス。確かにごっそりって程じゃないけど、毎月支払うって考えるとなかなか痛い額でもある。「けど、君たちが求めてる情報は、何度も言ってるようにグァルダードでも集めてる、集めたいものなわけさ。だからうちの職員に管理させてもらうってことで、依頼料はタダにする。――どうだい? 君たちに損はない話だと思うけど」


「あー、なるほどね。最初から、私たちを使って連中の情報を集めるのが目的だったわけか。だから組合員証なるものをあんなにさくさく発行してくれたんだ」


 ミディアがぽん、と手を叩く。俺もああと声を漏らして納得した。


 ああ、いや、その……、とハルトスが答えを濁す。


「べ、別にそのために発行したってワケじゃないよ? 君たちの助けになればって思ったのはホントでさ。ただ、まぁ、そこで利害が一致したらお互いにとって取引がより良い形になるわけじゃん?」


 しどろもどろのハルトスだけど、俺はむしろ安心した部分もあった。何か裏があるんじゃないかって勘繰っているより、裏はこれだってはっきりした方がすっきりする。まぁもちろん、他にもう裏がないっていう保証はないんだけど。


「私はいいと思うわ。この程度の企みなら、かわいいもんだと思う」


「俺も賛成だな。少なくともこっちに損はないし、協力しないことに利点も感じない」


 まずミディアと俺が、手を挙げた。


 シーラとゼノンは、すぐには頷かない。何か更なる裏を懸念してるのか、しばし黙って考え込んでいる。


 けど、多分二人とも結論は同じ。ことこのグァルダードの受付を舞台にして、ハルトスの申し出以上の妙案は、なかなかすぐには思い浮かばないと思われる。


「……まぁ、わかったよ。とりあえずはそれでやってみよっか」


 先に、シーラが折れた。


 それでどうやら、ゼノンもめんどくさくなったようだ。


「思い通りに話進められんのはなんかヤな感じだけど、ま、しょうがねーな」


 決まりだね。ハルトスが笑う、


 確かにこいつを笑わせるのは癪だなぁ、なんて、なぜか思ってしまう。思ってしまうのはきっとコイツが悪い。ともすりゃ「自分たちが損してでもこいつに損させてやりたい」って気にさせられてしまう、コイツの雰囲気が全部悪い。


「じゃ、ま、みんなの担当になる職員を紹介しよう。僕もそうしょっちゅうは降りてこらんないし、今後基本的には相談事は彼女にするようにしてね」


 言いながら、ハルトスは俺たちを先導し、受付の脇にある鉄製の扉に手をかけた。職員詰所とある。窓口に立たない職員が、事務仕事をする部屋らしい。


 扉を潜ってすぐは短い廊下だった。その先に、事務所の扉があるらしい。さすがに中までは覗かせてもらえなかったが、ハルトスが開いた扉の奥に多くの人の気配は感じられた。


 間を置いて、扉からは女性が一人姿を現した。


 女性――、と言うべきか。表現的には少女と呼んだ方がしっくりくる、俺の身長の半分ほどの小柄な女の子だった。黄色いツインテイルの髪が、幼い印象を一層のものにしている。服装が制服なのか、、表の職員と似た、白の襟シャツと灰色の細いスカートというフォーマルなものなのがむしろ違和感だ。


「お呼びでますか? 組合長サマ!」


 蜂蜜の瓶をひっくり返したような甘ったれた声で、女性はびしっと右手のひらを額に添え、ハルトスに敬礼した。


「うん、君に、彼らの担当になってほしいんだ」


「は、はい! かしこまらました!」


 再度同じポーズ。びしっと音が聞こえてきそうな固い腕の動きで敬礼。


 何だか声だけじゃなく、口調も随分特徴的だ。……正直不安の方が大きいんだけど、え、ホントにこの子が担当なのか? てかホントに職員なのか?


「……チェンジ」


 ミディアが冷たく言い放つ。


「な……っ、あ、あちしじゃダメだって言うんでますかっ? どうしてでますっ? 理由を教えてくださいでしっ!」


「不安過ぎるから」


「ひどいでますっ!」


 両手をグーにし、揃えて下に伸ばし、ぷんすかと怒る擬音をなぜか口から直接出して、女の子は不満を顕わにした。


「ま、まぁまぁ」


 ようやくハルトスが間に入る。


「まぁとりあえず、紹介だけはさせてくれよ。彼女はレマ。見た目は頼りないかもしれないけど、これでも実績あるグァルダード職員だ」


「はじめまでして! レマ・サバータって言うでます。皆さまのよろしくお願いいたすます!」


 ハルトスに紹介され、自分でもぺこりと頭を下げるレマ。


 その挙動は、どれだけ見守っても七、八歳の子供のものにしか見えないんだけど、本当に実績ある職員なのかなぁ。……そもそもハルトスの紹介ってだけでも信頼薄いのに。


「まーいいだろ。別に戦場で背中預けるわけじゃねーんだ」意外にも、最初に認めたのはゼノンだった。「一緒に戦えって言われたら相当不安だけど、書類仕事ならガキでもできんだろ」


「そうだね……」


 不安を残しながらも、シーラも頷いた。


「ガキじゃないでます! レマ、これでももう二十超えてますです!」


 嘘っ! 四人、声が揃った。


「ホントでます! 来月二十二になるでます! グァルダードに勤め始めてもう六年以上でます!」


 ふんす、と両手を腰に当て、ふんぞり返って胸を張るレマ。ちなみに、「ふんす」も彼女の口から直接聞こえた。


「そういう訳さ。なんでまぁ、ぜひ頼ってやってくれ。絶対役には立つからよ」


 うーん。ゼノンの言うように、書類仕事ならまぁ任せてもって思わなくもないけど、正直この推薦人に紹介されると逆に信用できなくなるんだよなぁ。困ったもんだ。


「とりあえず、任せてみましょっか」


 もう一度、シーラが頷いた。レマがにんまり笑って胸を張り、一つ、二つ、頷く。


「うんうん、ぜひ任せて! よろしくお願いしまます!」


「そうね、よろしく。じゃ、こっちも自己紹介をしないといけないわね」


「あっ、そうだね。忘れてた。それじゃあたしから――……」


 そこから、四人名前を伝え、シーラはミルレンダインの代表であることを伝えて、しばらく仕事の話をした。レマはまず、俺たちがグァルダードに依頼したい仕事の受理手続きをしてくれて、その後俺たちの担当として何をするか何をしないかを確認してくれた。確かに仕事ぶりはとてもきっちりしていて、話を進めるうち、少しずつ彼女への信頼は高まってきた。あとはまぁ、何だかどうにも舌っ足らずな喋り方とか、擬音を口で言ってしまう不可思議な癖とか、その辺の不信感が残っている程度だった。


 話の途中で、ハルトスはいつの間にか消えていた。ミディアの言では、他の女性職員に耳引っ張られて連れ出されたってことだった。


 話を終えた後、グァルダードを出て、めいめいに街を観光することにした。その頃には、依頼も出し終えた安心感、後は順調に情報が集まってくるのを待つばかりだと、俺の中にも楽観的な気持ちが生まれ始めていた。



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