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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十二節 盗賊グァルダード組合長
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2-12-6.「受付に用意って、組合長様御自らかよ」







「お待たせしました。本日は、どういったご用件でしょうか」


 項の辺りで赤茶の髪を一つに束ねた、青い目の女性が、対応してくれた。


 組合員証の発行を頼んでたミルレンディア、他三人だけど。シーラが立って話をする。「少々お待ちください」そう微笑まれた俺たちは、待合所のベンチに座って待機することにした。


「いよーぉ。待たせたなぁ。昨日はよく眠れたかい?」


 頭に響く甲高い声が、やがて俺らを急襲した。


 受付に用意しておくって、組合長様御自ら用意しておくってことだったのかよ。


「……あんた、暇なの?」


 辛辣なシーラの質問。


「つれないなぁ。書類の山を片付けなきゃいけない忙しさの中、君らが来たってんで無理矢理時間作って下りてきたってのに!」


「嫌な仕事をほっぽり出して遊びに来たってのはわかった」


「……君なかなか鋭いね。僕の秘書やらない?」


 ぽつり呟いたミディアに、サボりを認めた上での勧誘ゼリフ。ハルトスも大概面の皮が厚い。


「とりあえずこれ、四人分の組合員証だ。基本的には失くしたら再発行はできないばかりか、他の奴に拾われて悪用されたときの管理責任を追及されるような貴重品だから、絶対失くさないように」


 脅されながら渡された、『組合員(グァルディオン)証』なる銀色のメダル。大きさや質感は、ケーパの登録証に似てる。ただ、こっちの方が紋様が細かく刻まれていることと、向こうは薄い金で覆われていたのに対しこちらは白銀でできていることが、大きな違いだった。


「あぁ、ホントに私も持つのかぁ。……なんかこれ、ちょっと安っぽくない?」


 右の親指と人差し指、指の先の方で小さく持って顔を歪めるミディア。


 仕方ないよと軽く言ってやる。生きる術、目的を果たすための術だ。四の五の言うなら、諦めて国へ帰る方がいい。


「こんなメダル一枚で、何ができるようになるんだ?」


 ゼノンがメダルを親指で弾きながら、馬鹿にしたように聞く。本心じゃないのは知ってる。昨日、ハルトスが員証を作るかと聞いてくれた提案に、真っ先に反応してたのはゼノンだった。隠してたつもりだろうけど、俺は騙されない。


「一番大きなのは、ここに入れるってことだね。これを受け取る前は、君の立場はシーラ頭領の付き添い。けど、これを受け取った今からは、君自身がセラムの街に、セラム側のグァルダード受付に来る権利が与えられた」


 にやりと笑うハルトスに、ゼノンはくしゃりと表情を潰した。


「受けられる仕事も増えるんでしょ?」シーラ。


「こっちの受付にしか回ってこない仕事がいっぱいある。そういうことだよ」


「組合員だけが聞ける情報、とかはないの?」


 シーラの質問に、俺はピンときた。ハルトスはわからなかったらしく、どういうことだい?と首を傾げる。


「外で訊いたら、ヴォルハッドの情報は何にもないって言われた。本当に何にもない?」


「あー」


 それでハルトスも理解したらしい。ここで場所を変えたりしてもらえたら、希望もあったんだろうけど。


「残念ながら、ホントに無いんだ。団員二百人規模の盗賊団なんて、素性を隠し通せるものでもないと思うんだけど。どうやってるのか、結成時期もわからなきゃ、今現在の根城もわからない。首魁のゴルディアックってのはライトラールの出身で、家族だか養い親だかがグァルダードの依頼でグァルディオンに殺されたらしいってのは、辛うじて記録にあるんだけど」


組合員(グァルディオン)に殺された?」


 シーラが喰い付いて聞いた。けど、ハルトスの反応は薄い。


「もう四十年以上前の話らしい。記録はあったけど、理由やら詳細は何もなかった。当時の組合長の機嫌を損ねた、とかそんなんじゃないかな」


「また適当な理由だな」俺も聞く。


「正直全然わかんないさ、二代も前の組合長の方針なんて。なんにせよ、ゴルディアックって男がグァルダードに恨みを抱いてるとしたら、何にも不思議はないってことだ」


 幼い頃に家族を奪われた腹癒せに、力をつけてグァルダードを攻撃する。確かに話としては納得がいく。けど、それで砂漠統一を唱えたり、他の盗賊団全部に喧嘩売ったりするのは、飛躍があるようにも思う。


「ま、もちろんグァルダードでも情報は集めてるが、なかなか表立って動けないのが現状なんだわ。昨日も言ったように、お前らが集めてきてくれりゃこっちとしても助かるわけ」


 諦観交じりの捻くれた笑顔をよこすハルトス。そう言われてもなぁ、と俺は右手で頭を押さえた。


「俺たちも、ここなら何か情報が得られるだろうと思ってきたんだしなぁ。ここで何も情報がないってなると、ちょっと手詰まりなんだよなぁ」


「情報を集めたいって依頼を、こっちの窓口に出せばいいさ」


 更にハルトスは、事も無げに笑いそんな提案をしてきた。正直、目に光が届いた感覚だった。グァルダードは俺にとっては仕事を請けて金を稼ぐ場所で、自分が依頼を出す立場になることはまるで考えたことがなかった。


「ハルトスの名前じゃ出さないの? グァルダード名義とか」


 シーラの質問に、またハルトスは両手を広げ。


「特定の盗賊団について、グァルダードが積極的に情報収集するのは難しいんよ。こっちが相手を警戒してること、相手についてあんまり情報を持ってないことが不特定多数にバレちまう。特に今回みたいに中途半端に相手の名前が売れてると、『ああ、グァルダードも奴らのあの声明を気にしてんだな』って噂になっちゃうじゃん?」


 へぇ、そういうもんか。全体に対して中立の立場っていうのも、いろいろ窮屈なものなのかな。ぼんやりと俺は、そんな間抜けた感想を抱いていた。


「ってわけでさ! 一つ君たちに提案なんだけど!」


 途端、何の前触れもなくハルトスが怪しげな笑みを浮かべて俺たちを見つめてきた。ぎくりと背骨を鳴らすのは、俺だけじゃなかったろう。特にシーラは、何を言われるのかと全身で警戒を表している。


「情報を集めたいって依頼を出すに当たって、うちの職員を一人抱えないか?」


「は?」



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