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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十二節 盗賊グァルダード組合長
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2-12-4.「その会合に、シーラに出ろって?」







「あのね。組合員でもないのに、なんで五大団の頭領はセラムに入れるのかって話。レアンの国政は確かに盗賊グァルダード組合長の僕がまとめてるけど、僕一人の独裁体制じゃないわけだよ。一応、この国は民主主義を唱えてるわけ。ミンシュシュギ。知ってる?」


 知らない、とシーラが首を横に振る。ゼノンも振る。


 ウソだぁ、とミディアが顔を歪める。俺も歪める。


「ウソじゃないの。定期的に五大団の頭領と会議を開いて、それぞれにどんな意見があるか、どんな要望があるかをまとめて、それを元に国の方針を決めてるの。僕だってちゃんと仕事してんだよ?」


「へぇ。同業者組合のトップが国政をまとめてるって時点でろくな政治体系じゃないなって思ってたんだけど、一応それなりの形はあるってわけね。月一とかで会議するわけ?」


「いや、二年に一度」


「…………」


 一瞬表情を緩ませたミディアが、また瞬時に無表情になった。


「二年に一度? ……父さん、そんなことしてたかな」


「うちのオヤジはそんなことしてなかったぞ。セラムに直接来たのなんて、俺が一緒に来た十年前が最後だったはず」


「んー。ここんとこ出席率悪くてねぇ。僕も含めて六人、全員出席した会合なんて二十年近くないんじゃないかな」


「ミルレンダインもラナマーヴェもろくに出席してないってことか。他の連中はちゃんと出席してるのか?」


「僕が組合長になってからの平均出席率は大体一割七分ってところかな」


「毎回あんただけってことじゃない」


 ミディアのツッコミが光った。


「そんなの、あたしも出席する必要なくない?」


「んー、まぁ、必要はないんだけどねぇ」


 歯切れの悪いハルトスの返事。どうせ他の連中も出ない会合に、シーラだけ出ろって言うことなのか。シーラに代わって、俺が質問をした。


「とりあえず、次の会合で決めなきゃならない議題がひとつあってねぇ。潰されたミルレンダインをレアン代表の一つから外す決議を取らなきゃいけない」


「な――っ」


「ミルレンダインは事実上一度壊滅した。存続してるとしても、著しく規模は縮小されたわけだ。で、僕の立場から除会の提案をして、五大団の代表による決を採って、実際に決定っていう話になるんだけどね。多分他の四団代表はいつも通り、『出席者に決を委ねる』スタンスを取るはずなんだ」


 反応がなくなって久しいんだろうな。少しだけ淋し気なハルトスの表情に、聞いてるこっちまで哀愁を感じてしまった、


「誰も出席者がいないと、グァルダードの意向ってことでそのまま話が進んじゃう。けど、シーラが出席すれば反対に一票入れられるってワケさ」


「一票で決まるわけ?」


「他の団は『出席者に委ねてる』わけだからね。単独出席者が反対に一票入れれば、実質五票入ったことになる」


 どこが民主主義よ。聞いたミディアが苦い顔をした。


「てわけで、僕としてはシーラには出席をお勧めするわけなんだけど、どうかな」


「……来月ね。予定に入れとく」


「うん、近付いたらまた、細かい時程伝えるから」


 軽い調子でハルトスが答えた。


 これで今度こそ、組合長との顔合わせが終わった。


 ふかふかなソファに名残を感じつつ、立派な木製の扉を開いて部屋の外に出る。ハルトスはまめに一階まで案内してくれた。それどころか、グァルダードの建物の外、セラムの街の入り口まで俺たちを先導してくれる。


「いい宿を取ってあげるよ。街の様子も気になるだろうけど、なかなかいい時間だし、観光は明日にしなね」


 そろそろ明らんできた空の下、そんなことを言う。どうやらセラムの生活習慣もミルレンダインと同じ、ということだろうか。それとも俺たちのサイクルを察してくれたのか。確かに俺も、半日歩いて半日ライトラールを彷徨って、かなりの眠気を感じていた。


「取ってあげるってことは、宿代もあんた持ちってことよね?」


 厚かましいことを言うミディアに、苦蔓草の葉を舌に貼り付けたような顔をするハルトス。けど実際は太っ腹なもので。


「ま、一週間分くらいは払ってあげるよ。そっからはちゃんと自活しなよね」


 十分な厚遇だと思う。ミディアも嬉しそうに飛び跳ねた。


 宿はグァルダードのすぐ隣の建物だったので、観光どころか街の景色もほとんど伺うことができなかった。ただ、中央に大きな泉があったのはちらり目に入った。泉と、その周辺に申し訳程度の草地と木々。前に見たバーフッドのオアシスの三倍はあったように思う。


 壁で囲ってまでこの場所を守る理由の一つかな、となんとなく思った。


 宿は、広くてきれいだった。


 受付の女性にハルトスが話を通してくれ、手続きを終えると階段の下で手を振ってくれた。彼に代わって案内役の女性が、最上階五階の部屋まで俺たちを案内してくれた。


 部屋は二室。しかも中で扉二枚でつながっていて、両方から鍵を開ければさらに広い一室としても使えた。


 シーラやゼノンは最早ぽかんと口を開けただただ内装に見惚れるばかり。かくいう俺もここまで豪華な宿には泊まったことがなく、サリアでも一等級の高級宿泊宿――と想像できる部屋――に完全に緊張してしまっていた。


 ミディア一人、このクラスなら大満足ねとふかふかのベッドに飛び込みながら笑っていた。


 皆、疲れは溜まってた。


 真っ先にミディアが。次にその隣のベッドにシーラが。隣室に渡ってきて、今度はゼノンが。それぞれに思うこと、感じることはあったはずだけど、ひとたびその寝具に寝そべったら、後はもう引きずり込まれるように眠りに落ちるだけだった。


 かくいう俺も、ゼノンの寝息を聞いたと思った瞬間には、どうやら意識を寝具の上に放り出してたみたいだった。




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