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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十二節 盗賊グァルダード組合長
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2-12-3.「組合員と護衛者は違うものなのかな」







 散々わいわいと騒ぎ立て、ハルトスが胸を張って哄笑し、ふぅと皆で息をついた一瞬。随分げんなりした様子で、膝に頬杖をついたゼノンが口を開いた。


「そろそろ、旧交とやらはあったまったか?」


 睨まれたハルトスは、だけど全く怯まず。


「いやいや、このあと一緒にご飯食べて酒飲んで、その後炎を囲んで寝るまで盛り上がんなきゃいけないから!」


「ふざけんな待てるか! おい、さっさと行って宿探すぞ!」


 後半は俺たち三人に向けて。苛立った様子でソファを立ち上がるゼノンに、まぁ待ちなよと両手の平を上げるハルトス。


「ちょいと冗談が過ぎたかな。ま、そんな感じで僕としてもシーラのことは少なからず心配してるわけさ。ね? だからま、依怙贔屓って言われない程度に助けてあげられたらって思うもんでね」


「そんでひと揉みで千エニ援助してくれるわけ?」


「揉ませないって言ってんでしょ!」


 ミディアの茶化しにシーラが怒る。今度はハルトスも、苦笑いだけで話には乗らない。


「ミルレンダインの頭領って肩書きでもセラムに通してあげることはできるけど、他のみんなはただのシーラの付き添いって形になっちゃうし、不便なこともあると思うんだ。だから、もしよければ、四人全員に組合員(グァルディオン)証を発行してあげようかなって思うんだけど、どぉ?」


 ぴくりと、ゼノンの肩が震えた。


 そういや、組合員(グァルディオン)てものについては俺はちゃんと理解してないな。まぁさっき受付で初めて聞いたくらいの言葉だからしょうがないんだけどさ。グァルダードに登録してるってことなら俺もしてるはずだけど、護衛者(ケーパ)とはまた違うものなのかな。


「……員証を発行する――、だけじゃ終わんないよね? あたしたちに、組合員として働けってこと?」


 シーラが、ハルトスを睨んだ。


 ハルトスは両手の平を広げ、肩を竦めて答える。


「別に強制するつもりはないよ。ケーパにせよグァルディオンにせよ、僕に言わせりゃ要は稼ぐための手段だ。いっぱい種類を持ってた方が、依頼人からの信頼度は上がる。その程度の話だよ」


「強制じゃなくても、全く仕事を請け負わなくていいってわけでもないんじゃなかったか?」


「そりゃまぁね。出来る出来ないが信用に直結するわけだよ。だから、一定期間受諾成功の成果がない組合員からは、当然員証の剥奪もある。

 けどま、せいぜい剥奪だ。ただでもらった君たちが、ただで無くしたって損でもないんでない?」


 それはそうだ。少なくとも、横で聞いてた俺は納得した。


 面と向かって言われたゼノンも異論が浮かばなかったんだろう。ぬぅ、と変な声を漏らして、それ以上何も言い返しはしなかった。


「ま、君らの場合はヴォルハッドの情報を収集してくるだけでも戦果になるはずだから、あんまり考えなくていいと思うけどね」


 口の端をねっとりと伸ばして、ハルトスが嫌らしい笑いを浮かべた。


 シーラが、ぞわりと髪を逆立てる。


「何であんたがそのことを知ってるのさ」


「ミルレンダインが潰された理由なんて、もう砂漠中の人間が知ってる。で、君たちがそのミルレンダインの残党となりゃ、敵を追わない方が『なんで?』ってなる」


 一瞬沸騰しかけたシーラは、浮かした腰をすぐにまたソファに落とした。浮いた髪がふわりと背中に降って下りる。聞けば確かに、当然の結論だった。


「ってわけで、明日には全員分用意できるはずだけど、どうだい? 手続き進めちゃっていいかな?」


 ねっとりした笑顔から一転、背中に両手を揃え部屋の中を少し歩いて距離を取り。今度は人のよさそうな静かな笑顔を四人全員に向けてよこす。


「全員分って、それ、私の分も入ってるってこと?」


 脇でミディアがすごく嫌そうな顔をした。そりゃそうだろと俺が言う、ゼノンも言う。ミディアは眉間に皺を寄せ、下唇を尖らせながら。


「なんかそれって、私も盗賊になっちゃうみたいでなんか微妙」


 何が微妙なのか、シーラとゼノンは一切理解できないようだった。


 俺は少しだけ気持ちがわかる。俺自身、自ら望んでここに来たから、抵抗はあっても自分の意思でそれを乗り越えた。ミディアは、本来なら仕事を依頼するだけの人間でいられたはずだった。それが流れで今の状況になってしまった。いよいよ形の上だけとはいえ盗賊にならなければならなくなった今、一線を越える踏ん切りがつかないのは仕方ないだろう。


 でも、気持ちがわかったところで、俺がどうしてやることもできない。


「しょうがないさ。お前も奴らから『奪い返したい』んだろ?」


 せめて背中を押してやるくらいしか、できない。


 ミディアはもう一度、深く深く溜息を吐いて、しょうがないわねぇと嫌そうに首を振った。


「決まりみたいだね。じゃあ、明日また四人揃ってグァルダードに来てね。受付に用意しておくから」


 ハルトスが笑った。その笑顔は、確かに少しだけ、ジェブルに似ている気がした。


 じゃあ話は終わりだな、とゼノンが立ち上がる。


 そうだね、とハルトスも笑う。


「ずいぶん時間も経っちゃったし、この辺にしとこうかね。とりあえずシーラ、次の会合はもう来月だから、予定空けといてね」


 さらっと言い出すハルトスに、シーラが一瞬動きを止めた。五秒ほど置いて、「は?」と口を開く。


「だから会合だよ。レアン盗賊統一会議。ミルレンダインを継いだなら、次は君が出なくちゃいけない」


「ちょ、ちょっと待って。何の話だか全然わかんないんだけど!」


「……まさか、本気で知らないの?」


 狼狽えるシーラに、目を丸くするハルトス。


 知らないとそんなにまずいのか、ハルトスは左手を腰に当て、右手で額を覆って仰々しく天を仰ぐ。




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