表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十一節 盗賊の国レアン、その首都
81/177

2-11-5.「そして、慄然とした」







 静かにシーラのメダルを受け取り、徐に立ち上がる。椅子から離れ、隣にいたもう一人、女性の受付係員と二三会話をしたが、女性も小さく首を横に振るだけだった。


「確認に、少し時間をくれ。俺達では決められない」


「ええ、いいよ」


 賺した態度で軽くいなすシーラ。


 男は悔しがる表情なんて見せず、黙ってのしのし背後の廊下に消えていった。


 俺とミディアは、カウンター前に立つシーラとゼノンに歩み寄り、シーラを労ってやる。


「やるじゃん、破廉恥娘!」


「誰が破廉恥娘だっ」


 ミディアの第一声は、シーラには喜んでもらえなかった。


「いやでも、よくあそこで、あの男の話聞き逃さないで機転利かせたよ。ゼノンがダメだった時点で、俺もう帰るしかないって思ったもん」


「ホントよね。偉そうなこと言って、ゼノンなんて七光りが通用しないともう無策なんだもん。びっくりしたわよ」


「……悪かったな」


 一人、壁に寄りかかってむくれているのはゼノン。まぁ、多少馬鹿にされるのは本人も承知してるだろう。


「いい年して親の名前出すしか手段がないなんて。さすがに恥ずかしいわよねー」


「……うっせーな。一番なんもしてないお前に言われたくねーぞ」


 うん。一番馬鹿にするのがミディアだろうっていうのも、まぁ想定内かなぁ。


「ま、言うだけのことは言ったけど」と、シーラが軽く深呼吸。それから静かに、前置きをしながら、ひとつ提案をする。「通してもらえるかはまだわかんないんだし、ぬか喜びはしないでおこう。

 それよりさ。あの男がいつまでかかるかわかんないし、先に、もう一つの用件すませちゃおうよ」


 ああ、そうだな。幸い、暇そうな係員はもう一人いる。


 今度は俺も、口を開こうか。四人で立っていた扉に近い方のカウンターから離れ、俺は隣の、釣り目の女性係員の前に立った。当然、彼女も今隣で起こったやり取りは把握しているはずだ。警戒気味にじろりとこっちを睨み上げ、「何? まだ確認には時間がかかるわよ」と牽制してきた。


「別件だ。情報が欲しい」


「……何の?」


「ヴォルハッドっていう盗賊団についての情報を。なんでもいい、活動拠点でも、構成人数でも。とりあえず十五万エニで買えるだけ、教えてくれ」


 十五万。四人で相談して区切ったひとまずの糸目だ。セーラさんから受け取った例の腕輪は、ベイクードで換金し、七十六万になった。懐には相当余裕ができたけど、これからしばらくこの街に滞在するって考えたら、極端な使い方はできない。


 本当は、奴らを丸裸にできるなら、持ち金全部だって払っても惜しくないとこだけど。


「……ミルレンダインの残党か。ヴォルハッドの情報を求めるってことは、そういう訳ね?」


 初めて女性が、こちらに興味をもって顔を上げた。


 ああ、身分を明らかにしたもんな。ひとつ動けば、こちらの情報も相手に推される。そこは隠しても仕方ないので、「そういう訳だ」と苦笑いで返しておいた。


 女性は笑みを返してまた俯き、手許の紙束から一枚を選んで渡してきた。


「悪いけど、ヴォルハッドに関する情報はそれしかないわ。それならタダよ。読んだら返して」


「ンだとおいっ?」


 元々軽く苛立っていたゼノンが、女性の言葉にいち早く反応し乱暴に怒鳴り付けた。いくらなんでも短気過ぎだ。落ち着けよと、俺の前に割り込んできた彼の肩を押さえて引く。


「一昨日だか、見たことない女が来て、その紙置いてったの。グァルダードに来る盗賊全員に見せて広めろって言って」


「だからどーしたっ。それだけってなぁどういう了見だおい! お偉いグァルダードの会長サマどもが、その女の言いなりなのかっ。金で丸め込まれてんじゃねーよ、知ってること全部出せっ」


「別に奴らの便宜を図ってるわけじゃないの。グァルダードでも、連中のことは驚くほど把握してないのよ。ミルレンダインが一夜で潰されたって話も随分と寝入り端に火事の報せだったけど、やった連中の名前が聞いたこともないって言うんで、それもまたここらの連中をずいぶんざわつかせたわ」


「あ? まだ言うかこのクソアマ」


 ゼノンは声を荒げるが、どうやら女性の話は嘘じゃないようだ。それ以上は本当に何も出ないわと、最早ゼノンの罵言も蛙の合唱のごと、涼しい顔で聞き流している。とりあえず俺は、怒鳴るゼノンの脇、女性に差し出された紙切れを手に取って目を向けた。


 そして、慄然とする。


 腹の裡が瞬時に熱く沸騰して、それから、急激に氷のように冷えた。


「ウェル? どうしたの?」


 よっぽど変な顔をしていたか。シーラが俺の心配をしながら、手に持った紙を覗き込んできた。


 そしてシーラも、目を大きく見開くことになる。


 記された文面の語り口は、直接対峙した、ガゼルダ。どうやらあの男のものであるようだった。




『親愛なる、砂漠に生きとし生ける全てのバカどもに告ぐ。

 我々ヴォルハッド団は、他の全ての盗賊団と、レアンを統べる盗賊グァルダードのお偉いクズどもに向けて、宣戦布告する。そして、長らく誰も成し遂げることのなかった砂漠統一を成し、千年続くヴォルハッドの栄光を築き上げることをここに約束する。

 既に我々は、東の雄と持ち上げられたミルレンダインを潰し、首魁マウファド・ミルレンディアの首を取った。我々に逆らう者は皆、同じ末路を辿ることになる。砂に斃れて悔恨と怨嗟の声と共に干からびるか、無様にこうべを垂れて我々に下るか。どちらか選ぶ権利を約束はしないが、せめて自らの今後の生き方を早めに考えておくことをお勧めする。

 なお我々は、こんな宣言を目に憤慨し、黙らせてやると剣を抜くような命知らずが大好きだ。お前らからの襲撃はいつでも大歓迎する。せいぜい楽しませてくれることを期待している。

 ヴォルハッド団首領 ガゼルダ・ギルティス=ゴルディアック ――ユイス・ノル=ゼーランドの意志と共に』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ