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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十一節 盗賊の国レアン、その首都
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2-11-1.「この国にいる以上、非常識なのは俺たちの方だ」







「らぁっ、逃げんじゃねーよっ」


 大きく構え、剣を振る。


 敵は及び腰。くうぅと泣きそうな表情を見せながら、必死にゼノンの猛攻を捌いている。ガャンッ、と一際大きな音を立てた刃と刃のぶつかり合いに、もう勘弁してくれ、と口から零しそうな勢いだ


「やる気あんのか、ぁあ?」


「わ、悪かったよ! もう手ぇ出さねーから!」


 剣戟の合間、息も切れ切れに弱音を吐く短髪の青年。自分たちの方から襲ってきた割に、情けないことだ。


 敵は三人。この青年と、あと魔法使の年嵩の男性と、大剣を構えた小柄な女性。夜の砂漠を歩いていた俺たちを、どうやらカモと見做して襲撃したらしい。二人はすぐ逃げた。二人とも、大した腕じゃなかった。


 この青年も似たり寄ったりの実力なんだけど、相対したゼノンが逃がさなかった。ただのストレス発散だ。あの銃使いに負けて以来、すっきりと剣を振るう機会がなかなかなかったから、ゼノンにとってはいい運動なんだろう。せいぜい付き合ってもらおう。


 一足先に剣を収めた俺は、シーラとミディアが駱駝を休ませている辺りに寄り、荷物に腰掛け座り込んだ。


 呆れ半分の溜息一つ。シーラもミディアも同じような表情で肩を竦めていて、まぁもうすっかり慣れたもんだ。


「この調子で、えぇと、その何とかって町まではどれくらいかかるのかしら」


 ミディアが遠い目をして呟いた。


「セラム、ね。別に旅程が遅れてるってわけでもないよ。砂漠の移動中ハイエナに絡まれるのは計算のうちだしね」


「ほんっと、この国って常識ないわよね」


 腰に手を当てふるふると首を振り、諦念を示すミディア。


 そっちの国と違うってだけ。この国にだって常識はあるよ。伸びをしながらシーラが言った。ミディアはそんな議論には、なんの興味もない様子で、両手を頭の後ろで組みながら砂の斜面に背中を預けて寝転がった。


「この国にいる以上、非常識なのは俺たちの方だ。慣れるっきゃないよ」


 俺からもそれとなく諫めてみる。けど、ミディアの意識はもう全然違うところへ行ってしまっていたらしい。服の胸許を手で持って、はたはたと暑そうに扇ぎながら「え、何?」。聞き返すのも数秒置いてからだった。


 ずいぶんとマイペースなメンバーが揃ったもんだと、腰に手を当て溜息深く。それでも、不思議と苛立ちや焦燥は生まれない。みんなのペースに飲まれちゃっているのか、それとも俺自身ものんびりしているのか。


「ったく、ホント骨がねーんだから」


 ようやく、ゼノンが戻ってくる。


 あんまり遊んでやるなよ、と口を挟んでやる優しさも、持ってるのは俺くらいのモン。シーラもミディアもまるで興味を示さぬ憮然顔で、一言も答えないまま静かに駱駝を立ち上がらせ、先を急ぐのだった。



 

 セーラさんと別れた後、もう一度話し合って目的地を決めた。


 最初にシーラが、沈痛な面持ちで呟いた。


「合流の合図にも反応がないんだし、いい加減、もう仲間たちのことは諦めないとダメだよね……」


 それに対し、ミディアが答えた。


「合図に反応がないっていうだけで、死んだって決めるのは性急じゃない? 反応できない理由なんて他にもいくらでもあるでしょ」


 ゼノンが、結論を急ぐ。


「探しに行くんならさっさと行こうぜ? ベイクードに行けないとしたらどこに行くか、当てはねーのか? 例えば、同盟関係にある他の団とか」


 特にない。シーラの答え。結局、最後に口を開いた俺の意見が結論になった。


「冷たいことを言うようだけど、俺は、みんなを探すのは一旦後回しにしたい。ヴォルハッドと戦うんなら、避難した人たちは正直戦力としては期待できない。


 戦える人たちは、あの日戦ってた。ジェブルさんやサディオを除けば、多分避難したのは戦えなかった人たちだ。生きてるとしても、どこかに身を隠しているならそのままの方が安全なんじゃないかって思うんだ」


 ランプの火を眺めながら、あの日の会話を思い出す。


 シーラは、怒ってないだろうか。俺があのとき口にした意見は、正論ではあったと思っているけれど、シーラの気持ちを無視したものでもあったはずだ。今、こうしてセラムに向かっていることを、シーラは不満に感じていないだろうか。


「どうしたのウェル。ぼんやりして」


 シーラに声をかけられ、慌てて「別に何も」答える。直接聞く勇気は、俺の中にはなかった。


 ベイクードから南方セラムまでの道のり、俺たちは、東海岸沿いにぐるりと回って向かうルートを選択した。この時期は雨が続く道。雨量には気を付けなければいけないが、はけはいいので道を塞がれることはそうそうなく、背の高い岩肌には雨がしのげるような横穴もよく開いている。と、いう話で。


 今夜――と言ってもそろそろ夜中の三時頃だけど――も、そんな穴を見付けることができた。ゼノンが移動に慣れていて、つくづく助かった。


「こう昼夜逆転の生活が続くと、肌荒れがひどくてたまんないわ」


 携帯用のランプを灯し、囲むようにして四人座った岩窟の中。かったるそうに、ミディアが上半身を反らしながらぼやいた。


「素肌の手入れ、何かしてたの?」


 シーラが興味深そうに聞いた。


「んにゃ、してない」にべもない。


「っつーかミルレンダインでだって似たような生活だったし。そもそもお前、国でだって夜中のが作業が捗ったって言ってたろ?」


「うんまぁね。研究論文読み込むのとか、夜中の方がバリバリ集中できるのよね」


「じゃあ、何にも変わらないじゃないか」


「まぁそうね。むしろ今なら、いくら荒らしても生活環境のせいにできるから、都合がいいかも」


 なんだそれ、と苦笑する。最近わかってきたことだけど、四人の中で一番あれこれ雑なのが実はミディアなのだ。特に会話が雑。ゼノンよりもずっと雑。口を開くのは嫌いじゃないみたいだけど、投げかけてくる言葉の大半は、ろくに返事を必要としてない。



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