2-10-7.「個性的で律儀な女性だった」
最初に、シーラが話をした。その話に、俺が覚えていたことを補足した。
それからゼノンが、銃使いとの戦いの話を最初から。最後にミディアが、愚痴を撒き散らして終わった。金をもらって愚痴を聞かせるとは、相変わらずミディアの奔放ぶりが凄まじい。
一通り話を終えると、シーラさんが感情の籠らない声で一つ礼をくれた。
「大変、参考になりました」
その表情の薄さに、やっぱり益体のない話しか聞けなかったと落胆しているのか、邪推してしまう。けど、どうやらそうじゃないみたい。そうじゃなくて、受け答えもそぞろになるくらい、気になることがあっただけのようだ。
「ヴォルハッド団。……ガゼルダ・ギルティス=ゴルディアック……。アミラ……」
腕組みをしながら、伝え聞いた固有名詞を反芻している。
「……アミラ……、まさか、アミラ・ガルドレア? あの子がなぜ……」
「どうかしたのか? 姉貴」
ゼノンが顔を覗き込んでも、なかなか反応を返してはくれない。琥珀色の瞳を鋭利に研ぎ澄ませ、穿つように。その目の先に映っているのは今口にしていた名前の持ち主なのか、それとも別の誰かなのか。
セーラさんは最後まで、教えてはくれなかった。
「確認させてください。ガゼルダは金色の短髪と顎髭が目立つ低身長。アミラは白銀の髪に赤い瞳の細身の女性、ですね?」
「ええ。ガゼルダがミディアと同じくらいの身長。背の低さと、ライオンの鬣みたいな髪と髭が印象的だったわ。アミラは、背丈はあたしより少し低いくらいかな。それよりとっても剣なんて持ち上げられそうにないくらいの細腕だった。どんな武器を使うのか、見逃しちゃったんだよね」
「一番でかかったのが弓を持った剛腕の男で、二メトリあったんじゃないかと思う。銃使いはそれよりちょっと低いくらいだったかな」
補足した、俺の話には興味を持たなかったみたい。ガゼルダとアミラの情報を、空になった包み焼の皿を睨み付けながら何度も何度も口の中で繰り返している。
「……知ってる連中なのか?」
耐え切れず、聞いてみた。
俺のその一言で、セーラさんの考え事は中断されたらしい。ようやく顔を上げ、改めて満面に笑み。「ええ、その、少々」と、清々しい表情の癖に、歯切れの悪い言葉でごまかしてよこす。
「なんだよ、知ってんのか姉貴。なんか知ってんなら教えてくれよ」
拳を机に置いて、じろりと姉を睨み付けるゼノン。
セーラさんはさすがの貫禄。一切臆することなく、ゆったりとゼノンの顔を見返して。
「いくら払います?」
姉弟の情なんて欠片も感じられない言葉で応対した。
「か、金取んのかよ!」
「今伺った情報も、私はあなたたちに代価をお支払いしました。私から情報を買いたいというのなら、相応の額を支払わなければなりませんよね?」
正論だ。ゼノンの喉からも、返す声はぐぬぬ以外に出てこない。
「じゃ、じゃあ、ちょっと待っててくれよ! 急いでこの腕輪売っぱらって、半額返すからさ!」
「最低額は先程の腕輪の倍額にしておきます」
「ひどくねっ?」
確かに酷い。教える気が全くないことが、とりあえずわかった。
「私の持っている情報はさておき、皆様に教えて頂けたお話、大変参考になりました。もしまた皆様が調査を進め、新たな情報を得られましたら、その時はまた私にそれを売って下さいませ」
そして、こちらに情報を流さなかったことなんて何もなかったかのように、そんな挨拶で話を締めくくった。
「ねぇ。一つだけ聞いてもいい?」
珍しくミディアが、自分から口を開いた。「ええどうぞ。代価を必要としない程度のお話でしたら、お答え致します」にっこりと、営業第一のセーラさん。なんだか売るにせよ買うにせよ、圧倒的に有利な立場を握られちゃってるなぁ。
「さっき、あんたたちラナマーヴェ団は私たちと協力して敵と戦う準備があるって言ってたけど、それについては?」
「ああ」
大事な話を思い出した、とばかり。手を合わせ、目を細めて、それから二度ほど頷いて。
「勿論ございます。いずれ最終的に、並んで剣を取り敵を追い詰めることができれば理想的ですね。ですが、今の時点ではまだ、私どもとしては皆様に背中を預ける利点がありません。お譲り頂ける情報は受け取りましたし、戦力としては申し訳ありませんが、ゼノンを含めても敵の中核を攻撃できる程のものではないでしょう」
ぐ、と息を飲む音が、シーラの喉から聞こえてきた。
言いにくいことをはっきり言うなと、俺もその物言いに苦く笑って嘆息する。
「ですので、今日のところは、それぞれ必要な情報と資金を交換することで、協力の第一歩と致しませんか? 加えてゼノンをお預けするという形で、皆様へは戦力の援助、私どもには弟を成長させる機会。その交換ということでは」
「は? 俺が交換の条件なのかよ?」
ゼノンが声を荒げたけど、多分扱いについての表現が気に入らなかっただけだろう。ゼノン自身、俺達と一緒に戦うことには納得してくれてたし、今この状況でセーラさん達のところへ戻るって選択肢も考えてないはずだ。
「なるほどね。今日のところはこの辺で、今後ともよろしくって形か」
「左様です。ご不満ですか?」
私は納得した。頷くミディアに、シーラも俺も同意した。ゼノンだけが姉ちゃんひでーよと騒ぎ立てていたけど、他の全員の意見は無言のうちに「黙殺する」で一致してた。
「では、私はこれで失礼致します。どうぞ今後とも、よろしくお願い致します」
早々に椅子から立ち上がり、深く頭を下げて別れを告げる。
踵を返す、その一瞬の動作の間に、右の拳が机の上にそっと、二枚の紙幣を置いていく。菓子と茶の代金か、と了解したのは既に彼女が店の外へ出て行ってからだった。律義なことだ。
「なんていうか、なかなか個性的だったわね」
ミディアが、真っ先に溜息を吐いた。
俺も緊張してはないつもりだったんだけど、いざ彼女がいなくなってみると、急に体の力を抜いて首を落してしまっている自分がいることに気付いた。
「ホントだねぇ。なんか、あたしなんもしてないのに疲れちゃった」
ウェルは楽しかったみたいだけど、なんて。だからシーラは何でそんなに俺のことを、膨らませて睨んでるのかな。何か大きな誤解が生まれている気がしてならない。
「ま、なんにせよ。みんなの頭を悩ませてた資金の問題が解決したわけね。これで大分、今後のことが考えやすくなったわね」
「そうだね。まずは商人街で換金して、それから改めて、どこから行くかを考えよっか」
ミディアが状況を補い、シーラが提案する。
よしじゃあまずは商人街だ。随分長っ尻になってしまった、そのことを少し申し訳なく思うので、せめて支払いに少し色を付けて店の人に会計してもらった。




