2-10-2.「そろそろサディオたちと合流しないか」
「なぁシーラ。そろそろ、サディオたちと合流するのはどうだ?」
このままこの街を拠点として活動するのか、それともここを離れるのか。そこまで考えるとすると、まず真っ先に選ぶべき選択肢だろう。
情報も、人の力も。それにひょっとしたら、資金も提供してもらえるかもしれないし。
「あ、ああ、うん……」
帰ってくる返事は、どうにも元気がない。
いや。今後のことを考えたら、じゃない。資金云々以前に、仲間との合流なんてひと落ち着きしたら何はなくとも考えるべきところだった。当然シーラはもう既にあれこれ考えていたはずで、それがこの表情、この返事ってことは――?
「ちょっと、みんな、どこに行ったかわからなくて……」
「え」想外の返事に、息を飲んだ。
「ンだよ、合流場所もはっきりさせてねぇのかよ」
さてはお前ら、襲撃なんてされるはずねーって油断してやがったな? ニヤニヤ笑うゼノンに、だけどシーラは眉を吊り上げない。
「何かあったときは、まずはベイクードに集まる算段だったんだよ。街の南西門のところに合図を残して合流する筈だった。けど、毎日見に行ってるけど何も残ってなくて」
「あ――」
ゼノンですら、言葉を飲み込んだ。
そういえば、俺も一応毎日グァルダードに顔を出して情報を集めてるんだけど、そこにも伝言やら合図と言ったものは届いていない。この街に来られないのなら、他の場所からこの街に向けた、何かしらを残すはずだ。
シーラの顔を曇らせているのは、つまりそういう「どこに行ったかわからない」だっていうことか。
「だから、その。……その、ごめんねみんな。もう少し粘りたいって思っちゃって、みんなに言い出せなかったんだけど、あたしたちもこのままこの街にいるのは――……」
その先の言葉を、シーラは紡げなかった。紡がれなくても、その先はわかった。最悪の状況への想像力が、ずいぶん逞しくなっちゃったなと思う。
シーラの前の、丸いままのパンと半分以上残ったスープが、それ以上なかなか減らない。
「ま、いいんじゃねーの?」
ゼノンが、軽い口調で言う。シーラがびくりと肩を震わせた。
「いつまでもこの街にいても意味ないってんなら、いい加減こっちから動き出そうぜ!」
さっきの言葉に続けて、綿毛の実くらい重さを感じさせないふわふわとした提案を吐き出し。返すナイフで、肉の最後の一切れをパンと一緒に口に放り込む。
俯いていたシーラが、そっと顔を上げた。心なし、口許を綻ばせている。
「動くってどこに?」行動の方向性、ゼノンに確認する。
もぐもぐもぐ。勢いで頬張ったものを全部飲み込んでから、改めて。
「どこに動くかを考えんだよ。目的は二つ。ヴォルハッドとかいうふざけた連中をぶっ潰すことと、まぁ生きてるって前提で、破廉恥女の仲間を探すこと。それを踏まえて、どこに向かうのがいいのか考えてこうぜ?」
「は、破廉恥女って――」
唐突に暴言挟んできたな。欠片も異論ないけど。
「ゼノン。お前、ミルレンダインの仇討まで付き合うって言うのか?」
バドヴィアの日誌を取り戻すまでじゃなく? ゼノンの真意に驚きを向けた。義理難い奴だとは思っていたけど、ヴォルハッドを潰すとなったら一朝一夕の手間じゃすまない。
「あったりめーだろ? 俺まで一緒にコケにされたんだ。黙って引き下がれるかよ」
答えはとても、簡潔明瞭。すごい奴だと呆れちゃって、笑い声を飲み込みきれなかった。
「……ウェルこそ、どうなの?」
弱々しい声で、今度は俺に、シーラが質問を向けてきた。
どうってのは?と目を丸くして聞き返す。
「ミルレンダインがなくなったら、いよいよウェルはあたしと一緒にいる意味はないでしょ? 継ぐべき頭領の座もなくなったし、父さんとの、……父さんに勝つまで帰らないっていう約束もなくなった」
「なくなったんだっけ?」
「うん……。あのとき父さんは、『どちらかが死んだ場合はこの約束はなくなる』って言ったからね。もう、ウェルを縛り付けるものは何にもないんだよ」
今にも泣き出しそうな子供のような声で、シーラはそう認めた。
そういやそんな話だったか。自分の身の振り方に関わる話だってのに、俺も全然細かい条件付けを覚えていなかった。ま、覚えていたところで、俺の答えも決まってる。
「けど、俺はこの砂漠に武者修行のために来たんだからな。マウファドを倒すって目標を立てて、まだまだ足許にも及ばないままで帰るわけにはいかないよ。マウファドがいなくなったんなら、今度はマウファドを倒した奴を倒してやる」
だから、俺もやるよ。ミルレンダインの仇討。ヴォルハッドの連中を、みんな薙ぎ倒してやる。
拳を握って宣言すると、シーラの奴がまた泣きそうになる。目を潤ませて、口許を両手で押さえて、震える声で「二人ともありがとう」なんてしおらしいことを言う。ホントに調子が狂うなぁ。「あたしのことほったらかして帰るなんて、不義理なこと言わせないんだから!」くらい横暴に振舞ってくれりゃいいのに。
「できれば、真っ先にあの銃狂いをどうにかしてくれない?」
ふと、ミディアが声を上げた。
彼女の前には罅の入った白いティカップがひとつ。既に湯気が消えた香茶には、さっきミディアによって大量投下された砂糖でさぞかし甘い味に仕上がっていることだろう。
相変わらず、朝食を取らない主義は貫いているらしい。
「私は、命の取り合いなんて完全に専門外だし、戦う手段なんてものも護身用の拳銃だけ。日誌を奪い返さなきゃいけないから仕方なく追いかけるけど、それさえ叶ったらなるべく早く国に帰りたいわ」
「気持ちはわかるけどさ。どうやって攻略するかの糸口も何にも見えてないのに、どいつを最初に、なんて考えられるわけないだろ」
「わかってるわよ。努力目標でよろしくって話」
肩を竦めて両手の平を広げて見せる。頭の固い奴ね、とでも言いたげな表情だけど、固い柔らかいの話じゃないぞ。




