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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第七節 サディオの想い シーラの想い
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2-7-5.「ジェブルの悪い囁きが、蘇ってくる」






「……。け、けどっ、あいつは頭領になる気はないんだろうっ?」


「うん……。正直そこが、悩ましいとこなんだけどね」


「悩ましいどころじゃないよ! 僕があいつを気に食わないのもつまりそこなんだ! 栄誉あるミルレンダインの頭領の責を蹴るなんて、あいつには責任感て物がない!」


「責任感なんてどうでもいいんだけどさー。あたし程のいい女を好きにしていいんだよって言われてんのに、手を出そうともしないってのは男としてどーなの、とは思うよね」


 おおう、自分で言っちゃうかそれ。


「それも、そうだ! シーラの魅力に惑わされないなんて男として言語道断だよ!」


 おぉおう、同意しちゃうかそれ。


「……だからもう、そんな奴の相手なんてもう、するのは――」


「え? ……なんて言ったの?」


「あ、いや! ……いや、なんでもない。

 ……そうだよな。シーラはあいつを後継の儀の相手に選んで、あいつはそれを受けてそして頭領の座を勝ち取った……。今さら、異なんて唱えられないんだよな」


 なんだよこのヘタレ。そこまで言ったんなら最後まで言っちゃえよ。ウェルみたいな奴より俺の方が、って!


「うん? ……うん、そうだね。えっと、サディオ? 何が言いたいの」


「いや、つまりその。……なぁ、でも、シーラはさ。まだあの男とまぐわったわけじゃないんだろう?」


 話題の転換、思わず咽そうになる。そっち方向に強気になるんじゃねぇよ。


「そ、そうだけど……、それが何か――」


「シーラにしては、随分消極的だな」


「攻めてるよ! 攻めてるけど、あいつ陥落しないんだもん! しょうがないじゃん」


「その……、だったらさ」かと思うと、急に弱々しい声音になる。「その、今晩、久しぶりに、どうだ?」


「どうって?」


「だから、その、……シーラも、しばらくやってないんだったら、疼いたりとかしてるんじゃないか?」


「そりゃあもう! ヤりたくてヤりたくてしょうがないよ! ウェルったらホントに、あたしが毎晩魅了して誘いをかけてやってんのに、全然乗ってきてくんないんだもん! やんなるよホント!」


 シーラももう少し言い方を考えろ! その口を塞ぎたくなり、思わず体の向きを変えてしまう。小石が転がる音がして、ヤベェと身を縮こまらせた。


「だからさ。前みたいに、僕とさ――」


 よかった。気付かれはしなかったみたいだ。いやでも二人の話は止まろうとしないので、あんまりよくもないんだけど。


「あ、ああ、ああ。どう?って、そういうこと?

 うーん……。気持ちはありがたいけど、あたしは、相手を決めたらその相手とだけ寝たいんだ」


「え、シーラ、そんなこと言うタイプだったのかっ?」


 俺も意外。貞操観念柔らかいんだと思ってた。


「そうだよぉ。そりゃ確かに今まではいろんな奴と寝たけどさ。そういうのは相手がいないうち。好きな人ができたら、その人だけのモノになりたいんだ」


「…………」


「ほら、父さんもあれで、死んだ母さん一筋だったでしょ。母さんが死んだあとも女遊びだけは一切しなかったって聞いたし。盗賊らしくないのかもしれないけど、あたしやっぱそう言うのに憧れるんだ。憧れるし、自分もそうありたいって思う。


 だからさ、サディオの気持ちはありがたいけど、あたしはもうウェルとしかしない。決めたんだ」


「そ、……そうか」


 ホントに意外だ。あいつが。ここまでの決意を俺に向けてくれていたなんて。


 なんだか真面目に、申し訳なくなってくる。あいつの想いに応えてやれないことは勿論、あいつの心を勝手に聞いてしまっていることも。


 もしかして、ここで、ミルレンダインのみんなと将来を過ごす選択もあり得るのではと思えてしまう程。ジェブルの悪い囁きが、耳許に蘇ってきてしまう程。


「あたしのことよりサディオ、自分のこと考えた方がいいんじゃないの? 慰めてくれるのはそりゃ有難いけどさ。いい加減、お兄ちゃん気質は置いといて、自分のパートナー探しなよ」


「あ、ああ……。そ、そうだな。そうするよ……」


 答えるサディオは力無さげ。


 そりゃそうだろうなと、俺は心中、サディオに同情してしまった。そんなものはむしろサディオを怒らせるだけの代物だとわかっていながら。


「あ……」


 最後に――多分これが最後だろう、と隠れて聞いている俺は感じた――、サディオが口を開く。


「ん? なぁに?」


「いや……。この前の仕事のときは悪かった。お前を、守り切れなかった」


「え。何のことだっけ」


「…………。覚えてないならいいよ。ただ、謝りたかったんだ」


「ふ、……ん、そっか」


 謝ってもらうことなんてあったかなぁ、と無邪気に口許指を添え、考え込むシーラ。


 聞いてしまったこと、後悔しないと言えば嘘になる。だから盗み聞きなんて趣味が悪いって言うんだと、自分を叱りつける。


 やがて二人は姿を消した。別々に。集落の中心の方へ。


 サディオはきっと、自棄酒でも飲むつもりだろう。シーラはどうか。部屋に戻って俺を待つか、それとも何か自分の用事をするか。


 俺は最初の予定通り、少し素振りをして気持ちを整えてから、部屋に戻ろうと思った。





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