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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第七節 サディオの想い シーラの想い
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2-7-1.「サディオの態度には心底疲れる」








 嫌精石を運んだ仕事から、一週間ほど経った。


 大仕事を経験して、俺自身はすごく大きなものを得た。シーラ以外の誰か、それも複数の味方と組んで戦った、連携攻撃の複雑さ。ぶっつけ本番でもそこそこ熟せたっていう自信と、まだまだ研鑽できる部分があったという反省。


 もっと、他の奴とも一緒に仕事をしてみたい。そんな欲が出てきたんだけど、それについてはシーラがあんまりいい顔しない。はっきりと表には出さないけど、シーラは先の仕事の間、何やら不満が募っていたらしい。以後、「またあんな大規模な仕事やりたいな」なんて呟こうものなら、とんでもなく不機嫌になってしまうんだ。


 仕方がないので、あの後は、また前みたいにシーラと二人で仕事をこなしている。仕方がないのでってのはシーラに失礼か。でも複数人と組む楽しさと難しさを教えてくれたのはシーラだったのに、それ以降はさせない、なんて酷い話だよなぁとも思う。


 とにかく、変わらない日々だ。


 ミディアもそろそろ作業が終わるのか、と思っていたけど、ゼノン曰く「あの女、全然仕事しねぇ!」だそうで。本人に聞いてみたところ、ミディアはそもそもはバドヴィアの写本にしか興味がなかったんだけど、盗賊たちの集落に来て、実際に戦うための魔法を駆使する連中に話を聞くと、今まで想像もしなかった見方や考え方があるって気付かされて、とても面白いのだそうだ。


「だぁかぁらぁ! んな話は後でしろよ! 先にシャホンだかなんだかさっさと作りやがれっての! そしたら俺は自由になれんだよ! お前が国に帰ろうがここに居座ろうが、無関係になれるんだよ!」


 常にミディアの後について怒鳴り散らしているが、どうやらけんもほろろの様子。どこまで行ってもミディアは自分の興味に正直だ。気になることができれば真っ先にそれを片付けるのが性分で、気分が乗らない仕事は後回しになる。


 見かねた俺が、そんなに言うならゼノンが写せばいいんじゃないかと口を出したりもしたけど、それは二人から激しい勢いで却下された。


「俺が? 写す? こんなちっさな字で書かれた本をちまっちま書き写せってのか?」


「やめてよね。コイツに紙と筆持たせるなんて資源の無駄。どさっとごみが増えるだけよ」


 なんだよ、意見合わせやがって。仲いいじゃんか。


 さりとてミディアもゼノンも作業しなければ当然仕事は進まず。一週間経った今日もまた、早く写せの気が乗らないの、ミルレンダインの人たちの視線も気にせず、喧と囂とで言い争っていた。


 そんなものは、呆れたもんだと溜息を吐きながら背中を見送れる。


 シーラの機嫌を取るのも、腑に落ちないだけで別に嫌ってわけじゃない。


 身の回りの変化で、これらは何も大変なことはない。ただそうなったっていうだけの、俺にとっては純然たる変化。


 カルートやネメアは酒を誘ってくれるようになった。交友が広がるのは喜ばしいことだ。二回続けては断らないようにしようと決めている。


 これも大変なことじゃない。むしろ嬉しいってだけの話だ。


 大変なのは、俺の背中に、じっとりと粘つく視線をしつこく突き刺してくる奴ができたってこと。


 サディオだ。


 正直、面と向かって何やら言ってくれた方がいい。まだまだお前なんて欠片も認めてないぞと、声を荒げてどんと胸をぶたれる方がマシだ。察しろよ、いややっぱり察するなよ、とこちらにさんざ気を使わせて、ネチネチ黙々ただ睨み付け続けてくるなんて、面倒くさいことこの上ない。


 気持ちがわかるような気になっちゃってる、俺の受け取り方にも大いに問題があるんだろうけども。


 はぁ、と溜息を吐きながら、今日は食堂――と呼ばれる並べられた長机――の端の席に座り、頬杖をついて眉間に指を当てた。


 さっきまた、サディオと目が合った。まだ日が残っていて暑さを感じるなと、寝惚けまなこで日陰を探していたところ、たまたますれ違ったんだ。挨拶を向ける余裕もなく、目線を逸らされてすれ違い終えた。そのくせ、俺の背後に回るとじめじめした敵意をわざとらしくぶつけてくるんだ。


 疲れるったらない。言いたいことがあるなら、はっきり言えよと思う。


「お疲れのようですね」


「……あぁ、うん。いやまぁね。疲れるよ、実際」


 何度目か溜息を吐きながら、かけられた言葉に相槌を打つ。打って、ぶちぶちと文句を口の中で転がして、それからようやく気が付いて、顔を上げた。正面にはジェブルが座っていた。ほとんど絡んだことがなかったけど、今のは俺に話しかけてたんだよな。こっち滅茶苦茶見てるし。


「ごはん、食べないんですか?」


 やっぱり俺に話しかけてきてる。ニヤニヤしながら、自分だって盃の一つも持たずに座ってるくせに。


「一応ね。シーラがまだ起きてこないんで、待ってようかなって」


「はは。ホント仲いいですね。食事くらい、たまには別々に食べたっていいじゃないですか」


「俺はいいんスけどね。あいつ、待ってないと怒るんですよ」


 そのくせ寝起き悪いし。右手の杖に顎を乗せ、頬を膨らませて小さくそっぽを向く。ジェブルは変わらずうっすらと微笑んでいたけれど、その目にからかうような光はほとんど見出せなかった。


「もしお暇なら、少し話に付き合ってもらってもいいですか?」


「え、いいですよもちろん」


 ジェブルが俺に、一体何の話があるんだろう。訝りながら、しかし気負いなく頷いた。ゆっくり話すのは初めてのことだけど、穏やかな口調にどことは言えない微かな皮肉っぽさが混ぜ込まれている、そんな彼の話し方。おじさんに似ていて、何だか落ち着くんだ。


「ウェルさんは、本当にここの頭領を継ぐ気はないんですか?」


 何の話かと思えば。苦笑いを零しながら、俺は全てを素直に答える。


「ああ、ないです。戻らなきゃいけない場所がありますから」


「シーラさんのことは、どう思っているんです? 好きなタイプじゃない?」


「あいや、タイプとかじゃ……」


 そのことを突き詰めて考えたことはなかった。うーんと唸り、腕組みをして、口を歪めて、考え込むことしばし。


「……シーラは、いい奴ですよ。いっつも俺の面倒見てくれて、砂漠のこと、ミルレンダインのこと、あれやこれや全部教えてくれて、色々手伝ってもくれる。戦うときも息が合います。彼女以上の相棒は、なかなか見つからないんじゃないかな」





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