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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
序章 第五節 涙の理由
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0-5-4.そして夜は更け





          ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「長いよね」


 おいふざけんな。お前が聞かせろって言ったんだろ。


「いやだって。要はファザコンの幼馴染を父親の思い出から奪いたいって、そんだけのことでしょ?」


「お前なぁ。人に無理矢理昔話させといて、中身バッサリとか性格の悪さにもほどがあるぞ?」


 そんなことないでしょー。シーラが背中から離れ、立ち上がった。


 根城の全部が見渡せる、俺たちが座った大岩の上。座ったままの俺の背中は、温度を失い涼やかな砂漠の夜風に冷やされる。


「アタシは少なくとも、そんなメンドクサイ女とは違うもん。お父さんならしてくれるのに、ウェルはしてくれないー、なんて言わない言わない。ウェルが服なんか買ってくれたら、もう毎日その服ばっかり着ちゃう。シチューを作ってくれるんなら鍋の底まで舐めちゃう。こぉんな素直な女、拡大鏡で砂粒の間まで探したってそうそう見つかんないよぉ」


「ティリルの悪口言うなら、俺はもうお前とは口も利かない」


 横に置いた剣の鞘を掴んで、俺はシーラを睨んだ。ベルトを頭からかぶって、背中に剣を負う。やっぱり俺の背中にはこの感触がしっくりくる。シーラの柔らかい肌なんかいらない。そんなもの、邪魔なだけだ。


「ウェルはさ」正面に回ったシーラ。至近距離から俺の顔を覗いてくる。「そいつのこと、好きなの?」


「……そういうんじゃないよ」


 つっけんどんに答え、顔を背ける。


 我ながら説得力のない言葉だ、と思う。俺はティリルが好きだ。男として、あいつのことを守ってやりたいって、ずっと思ってる。


 ゼノンや、ミディアや。あるいはマウファドだとしても。他の誰かに聞かれたら、ひょっとしたら素直に頷けたかもしれない。けど、なんでだろう。シーラを相手にはついついごまかしたくなっちまったんだ。素直に、好きだって認められなかったんだ。


 や、待て。ゼノンに聞かれても多分ごまかしたな。


「じゃあ、アタシと結婚してくれても何にも問題ないよね?」


「いや、それは問題あるだろ」


「えぇ? なんでよ」


「とりあえず、俺は別にシーラのこと好きじゃないからじゃないかな」


「そこは別に、無視したっていいとこでしょ?」


「いや、一番大事な理由じゃん」


 ぐっと顔を近付けてくるシーラから顔を背け、冷たく言ってやる。


 でもシーラはそんな俺に上半身をぐっと乗せ、俺の膝にその豊満な胸をわざと当ててよこす。ホント、こいつに奥ゆかしさってものはないのか。そんなに人のことをからかって楽しいのか。


「ったく、アタシ、ウェルのことはいい男だと思ってるけどさ。ウェルの女の趣味だけは理解できないなぁ。そんなかまってちゃんがいいだなんて思わなかった。ちょっと幻滅だよね」


「だからティリルの悪口は――」


「恋敵のこと素直に褒められるほど、さすがにアタシできた人間じゃないんだよ。そこはまぁ、軽く流しといて」


「流せねぇ。かまってちゃんってなんだよ。俺の話聞いてたか?」


「聞いてた。だからこその評価だよ」


 やっと俺から離れたシーラ。腕を組んで、じろりと俺のことを睨みつける。


 それからふっと指を立てて。


「あ、でもそっか。そういうのがウェルの好みなら、アタシもそうやればいいのか」


 なんて、然も名案のように言い出した。


「じゃあそんなわけで、ねぇ、ウェル~ん。見て見てぇ~? アタシのカ、ラ、ダ。いいでしょぉ~? キレイでしょぉ~?」


 突然シナを作ってくねくね腰を動かすシーラは、さらに羽織っていた薄手の外套(ケルヴン)を脱ぎ捨て、殆ど下着同然の姿になりやがる。俺も未熟だ……。いつも見てるそんな姿についついたじろいじまう。


 っていうかティリルはそんなんじゃねぇだろ。そうやってやるって、何を参考にしたんだよ。


「やぁだ。アタシのこともっと褒めてよぉ。照れないで、もっとアタシを見て、褒めて~」「お前、心底からティリルをバカにしてんだろ」


「そんなことないよぉ~。ティリルって子、こんな感じなんでしょ? 口に出さないだけで」


「全然そんなんじゃねぇっ! ……っていうか口に出さないだけでもまるで違うだろ」


「でも、そのおかげでウェルとティリルは進展なかったんでしょ? 今はその女はここにいなくて、アタシがウェルの傍にいるんだもん。今のうち、アタシがウェルの童貞奪っちゃうんだから!」


「だっからっ! ホントそういうのやめろって! お前話聞く前にも、今日はそう言うんじゃないって言ってたじゃないかよっ」


「うぅん、そのつもりだったんだけどぉ。なんかその気になってきちゃったぁ」


「どの気だよ! いいから水飲んで来い。いや桶一杯かぶって来い。頭冷やしてそのまま寝ろ!」


 女を本気で殴りたいなんて、俺はそんなこと思う奴じゃないって自負してたつもりだったんだけど。……イラつく女っているんだなぁ。砂漠に来たからには、女だろうと剣を向けなきゃいけないことはあるだろうとは覚悟してたけど。


「ねぇ? あんまり女に恥をかかせないでぇん?」


「だったら少しは恥だと思――、って脱ぐなっ、それ以上脱ぐなっ」


「あっはは、ウェルったら反応かわいいん」


「ふざけんなよ! わかった、俺が寝る! もう寝に戻る! お前なんかに真面目に話したのがバカだった!」


「あ、寝床行くの? 行こう行こう」


「来んなっ!」





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