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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第五節 サディオの帰還
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2-5-5.「魔法が封じられる? すごいじゃんか!」






「なんにせよ、カルガディアのオヤジが、大量の嫌精石を砂漠のあちこちにある彼の倉庫に分けて移したいらしい。モノがモノだし、量が量だしな。一度の運搬につき、最低でも十五人は人手が欲しいんだとよ。本当なら、ここであんたたちに頼めるとものすごく助かる。ミルレンダインで十五名、いや二十名ほどまとめて出してもらえるんならな」


「本当なら、――と言うのは?」


 紙から目だけ上げ、サディオが質した。


 答える受付は、頬杖をつき。


「シーラお嬢は魔法援護が主務だろ? なかなか、任せにくいなとは思うんだよ、俺も」


「どういう意味だよ」


 腰に手を当て、シーラが憤慨する。


「俺だって、こう見えて仕事の向き不向きは選んでるんだからな。お前に向かない仕事を与えて、何かあったら夢見は悪い」


「あたしに向かないってどういうことなんだよ! 力不足だって言いたいわけ? ナメてくれてるじゃん!」


「そうじゃねぇよ。お前嫌精石も知らねーのか」


「知ってるっての。何、あたしが魔法だけの女だと思ってるの?」


「俺は知らないんだけど」


 白熱する口論を止めるため、ってわけでもないけど、このまま話が進むといよいよ口を挟むタイミングを失くしそうなので、ここで一つ自己主張しておいた。


「あ? 知らねーのか?」


「あれ、ソルザランドでは珍しいの?」


 肝でも抜かれたような表情で、二人がこっちを見つめてくる。いや、三人か。……まぁ、こんな展開ももう慣れた。俺にとってはここは異国で、異文化で。彼らが常識だと思っているものを俺だけが知らないなんてことも、もう一度や二度の経験じゃない。


 教えてもらえるか?と素直に聞き質すくらい、今更何の抵抗もない。


「嫌精石ってのは、早い話魔法を使えないようにする石だ。親指の先くらいの大きさひとつ、手に持つとそいつの魔法が封じられちまう」


「魔法が封じられる……? ホントかよ。メチャクチャすごいじゃんか!」


 興奮に、拳を握って声を上げた。


 魔法の仕組みなんて、俺は全くわからない。自分では使えないし、使い方を学ぼうと思ったこともない。けど、砂漠に来て、魔法を使われることの厄介さは身を以て知った。もし本当に封じることができたら、魔法を使わぬ剣士としては便利なことこの上ない。


 って、思ったんだけど。


「案外使い辛いものですよ」冷たい目で、サディオに言われた。「身に付けた人が魔法を使えなくなるだけですからね。相手の魔法を封じるためには、相手に石を持たせないといけない」


 お、おう。そりゃ確かに、戦場で使うのは無理があるな。


「じゃ、じゃあ、数をたくさん用意するとか、大きい石を持ってくるとかは? それなら最初っから相手の魔法を封じられるんじゃないか?」


「確かに効果範囲を広げることはできますが、相当の量か大きさを用意しなければいけません。かなりの費用がかかるわけですが、それでいて魔法が使えなくなるのは敵だけでなく味方側も同じ。劇的に有利になるわけではないので、実際使われることはまずないですね」


 少なくとも僕は見たことがないです。落ち着いた様子で、小さく鼻を鳴らしながら、サディオが説明してくれた。


 うぅむ、そうか。ちょっと聞いた感じすごく便利そうな道具なのに、実際の使い勝手はそんなに悪いのか。……そんなもの、大量に集めてどうしようって言うんだ?


「別に全く使えない道具って訳じゃねぇ。捕虜の確保や奴隷の管理、他の国で言えば犯罪者の収監なんかで利点のある道具だ。希少価値もあるし、貴重品なのは確かなんだよ」


 受付の補足に、なるほどなぁと感心する。役に立つシーンもあるけれど、砂漠の盗賊たちではなかなかうまく使いこなせない、そんな代物だというわけだ。


 ……あれ、でも、そうなると、そのカルガディアとかいう金持ちは何のためにそんな石をそんな大量に――。考えそうになって、ふるふると頭を横に振る。サディオと同じマナー違反を繰り返す愚は避けないと。


「まぁ、話を戻すとだ。そんなわけで、一応仕事はあるんで、聞かれたからにゃ紹介だけはしておくかなと思ったんだが、まぁお前さんたちに勧めるのは気が引けるもんでな。こいつはしまっておくことにするよ」


「待ちなさいよ!」


 サディオから紙を受け取り、引っ込めようとする受付。横からシーラが怒号を上げた。


 びくりと肩を震わせる、受付とサディオ。と、俺。シーラはカウンターに両手を置いて、ぐいと顔を受付に近付けた。


「さっきから何なの! あたしには向いてないから勧められないとか、ふざけないで!」


「何逆ギレしてんだよ。実力の話じゃなくて、特性の問題だって言ってんだろうが」


「アンタ、あたしのことナメてんだね? あたしが魔法が泣きゃ何にもできない奴だって」


「んなこたぁ言ってねぇだろ。でも魔法が許される環境の方がお前は実力が出せるだろ?」


「関係ないよっ! 父さんだって魔法を使わないって約束で、ウェルと勝負して勝ったんだ」


 いやいやアレは、色々と別次元の問題だろ。負けた当事者である俺、内心で小さくぼやいた。


「あたしだって仕事の一つや二つ、ナイフと弓だけでもこなしてみせるっての! ほら、それ貸して!」


「いや待てって。 お前本気でこの仕事受ける気なのか?」


「受けるよ! そう言ってんじゃない」


「ちょ、ちょっとシーラ落ち着いて。変な意地になっちゃってるんだろうけど、やっぱりこの仕事はシーラ向きじゃあないよ」


 受付とシーラの言い合いに、サディオも口を挟んだ。


 心配になるのはよくわかるけど、多分今のシーラは頭に血が上っていて、制止すればするほどやる気が盛り上がってしまうだろう。サディオに向けても、「まさかあんたもあたしには無理だって思ってるんじゃないでしょうね」と目を吊り上げている。










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