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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第五節 サディオの帰還
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2-5-4.「俺、短期で終わる仕事のがいいな」







 先にグァルダードに赴き、どんな仕事があるのかを確認する。


 本当に大規模な仕事を請け負うのであれば、今日は少し時間が遅い。いっそ今日は準備の日と割り切って、どんな仕事を請けるかをじっくりと選び、依頼人とのやり取りに時間をかけ、その上でどんなメンバーをどの程度集めるかを決めよう。そういう話になった。


「相変わらず、お前は仕事の探し方が漠然としてるなぁ。おっきい仕事、でいい条件の話が出てくると思うなよ?」


 いつもの受付が頭を掻きながら、書類とにらめっこしている。いつもより紹介してくれる前の吟味に時間をかけているのは、シーラの注文の出し方が悪いことだけが理由でもないようだ。


「いつも、こんな調子で仕事を探しに来るんですか?」


 小首を傾げてサディオが訊ねる。ああいつもこんなだ、とは俺も答えられたけど、多分彼は俺には聞いていないので黙っておいた。


「ああ、いつもこんなだ」受付の男が俺の準備と全く同じ返答をした。「お前さん方、もう少しオジョウサマの教育しっかりしといてくれよ。グァルダードを遊び場と勘違いしてるんだぜ、コイツ」


「……教育、なんて言い方をされるのは穏やかじゃないですね」


「グァルダードに口の利き方を求めるお前さんも大概だな。ケーパの常識ぐらい教えといてくれって言ったんだよ」


 サディオに睨まれても、受付の男は怯まない。彼がどれ程強いのかは俺も今もって知らないけど、毎日舌先で何人もの盗賊をあしらっているんだ。話術についてはそんじょそこらの若造じゃ、まるで勝ち目がないだろう。


「……そうですね。ケーパについては、確かに伝え損ねているものは多いかもしれないです。そこは申し訳なかった……」


 素直に頭を下げるサディオ。ギリ、と奥歯を噛む音がここまで届いた。言い負けたのがそんなに悔しかったのか、隠し切らない感情表現に俺は背筋が冷えた。


 当のシーラだけ、そんな苛立ちの音は聞き逃したか、「えぇ? 私別に、変なことしてないよね?」と暢気な声を上げていた。


「変なこと、レベルだったら挙げてけばキリがない。まぁ、常識無しでも別に迷惑行為が目に余るわけじゃなし。いいけどな。

 ほら、『おっきい仕事』 今あるのはこんなもんだ」


 ぽんと十数枚、書類が渡され、それから一枚、シーラの前の机に置かれた。


 どれどれ、と無邪気に受け取るシーラ。まずは十数枚の紙束の方。ふんふんと鼻を鳴らしながら一枚めくり、もう一枚めくり……。ごとに表情を曇らせ、最後の一枚を見た瞬間に、んべぇと舌を出し顔をくしゃくしゃに歪めた。


「何なのこれ。全然いいの無いじゃない」


「んなこたぁないだろ。そこそこ条件のいいやつ揃えたぞ?」


 べん、と机を叩くシーラに、受付の男も負けじ反論。うん、よく見る光景だ。


 どれどれと、サディオがシーラの手から紙束を掠め取る。ふんふんと眺める彼の、表情を追うだけでも、彼が受付氏に賛成なのが見て取れた。


「確かに、いい条件の仕事ばかりですね。……っていうか僕いつもここに来てますけど、こんな好条件の仕事の束は見せてもらったことない気がするなぁ」


「そりゃ気のせいだろ」


 あしらう受付。ふいと目線を逸らす。あー、気のせいじゃないんだな。


「で? シーラ。ここの仕事は、どれも請けないの?」


「だぁって、どれもこれも一日契約! 近隣移動の隊商の護衛ばっかりじゃん。人数だって五、六人いれば十分のやつばっかし。せっかくあたしとウェルとサディオ、このミルレンダインの新進気鋭が揃い踏みで、人を集めて大きな仕事をこなしましょうって言うんだよ? だったらもっとさぁ」


「もっと、どんな仕事がしたいの?」


 優しく聞くサディオ。


「俺、短期で終わる仕事のがいいな」


 静かに突き放す、俺。


 傍若無人ではあっても、決して鈍くはないシーラ。風当たりの強さをしっかり感じ取り、一瞬うぅと怯んだけれど。一つ大きく息を吸って、それだけでもう気持ちを切り替えてしまったみたいだった。


「もっとさぁ。二十人くらいで、四十人くらいの敵の襲撃を返り討ちにするような、派手な戦闘依頼とかをこなしたいんだよね。『危ない、このままじゃヤバいぞ! 何くそ、相手は寄せ集めだ。この精鋭チームが本気を出せば、多勢に無勢何するものぞ!』みたいな勢いで、苦境を最終的にひっくり返しちゃう、みたいなさ」


「……四十人敵が来るのわかってるなら、戦力は五、六十用意しとくべきじゃ?」


 再度ツッコむ俺。


「『精鋭チーム二十人』を死地に追いやるような仕事、まずは俺の時点で門前払いだ」


 受付氏が更に盛大な溜息を吐く。


 うぐぅと一声喉を鳴らしてから、でもでも、そういう方がカッコイイじゃん!と両手を振り上げ主張するシーラ。鈍くはない彼女だけど、風当たりの強さを感じて尚その拳を振り上げられるくらいに傍若無人でもあるのだ。


 とはいえ今日の彼女はどうしたろうか。いつもならもう少し聞き分けはいいんだけど、サディオが一緒だっていうことが、彼女を興奮させているんだろうか。


「…………。

 そういえば、こちらの仕事は何なんです?」


 サディオが、受付が置いた紙のうち、一枚だけ別に置かれたものを手に取った。シーラが手に取らず、取る前に舌を出されてしまった、まだ見られる機会のなかった一枚だ。


「ああそれは――」受付氏が口を開く。「大口の仕事ってことで一応用意した。ハーンに豪邸を構える宝石商カルガディアが依頼主だ。要は護衛なんだけど、隊商が運ぶっていう積み荷が特殊で、お前らに勧めたもんかどうか悩んでるんだ」


「積み荷が特殊?」


 珍しく、全編歯切れの悪い話し方をする受付の男。けど歯切れが悪い割に隠したいわけでもないらしい。既に紙片はサディオの手にあり、内容を読むなとは言わない。


「…………嫌精石?」紙面の文字を追っていたサディオが、ふと、表情を曇らせた。


「そうだ。量にして約一ティアン。このベイクードの街外れにあるご自分の倉庫に詰め込んであるそうだが、運び出すのも駱駝数十頭の大移動になるって話だ」


 耳慣れない単位を聞いて、俺は横で顔を顰めた。一エルガーティアン(ティアン)は千ケールガ。確かサイやらワニやらがそれくらいの体重になるって、この前の夜中のオアシスでシーラと話をしたな。


「そんなに大量の嫌精石を、一体何に使おうって言うんです――」


「さぁな。そこは、グァルダードが口出すとこじゃねえ」


 強い口調で、サディオを黙らせる男。さすが、有象無象の盗賊共の相手をしてるだけはある。その迫力ある眼力に、俺は少々驚いた。加えて、それだけの迫力を表に出させるくらい、サディオの発言は失言だったのだな、とも。




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