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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ゼノン・エイド=エンポリル.4







「テメェ、今なんつった?」


「あんたじゃ無理だって言ったんだ。単純な話、あんたはガゼルダより弱い」


「っンだと――」


「純然たる評価さ。別にあんたをバカにする気はない。あんたは私よりは強いけど、ガゼルダよりは弱い。そんな指摘で私を斬ろうってくらいのガキならしょうがないね」


「……っ」


「今まで、何人と見てきたんだ。ガゼルダに挑んで返り討ちにあった、あんたみたいな命知らず。ダメだよそんなんじゃ。死に急いじゃダメ。あんたまだ強くなれるんだから、今ここで焦らないで出直す勇気を持ってよ」


 向けられた言葉を、俺は拳を握り締め奥歯を噛み締めながら受け止めた。


 さっきからホント、何様のつもりだコイツ。弱いくせに、完全に上から俺のこと見てやがる。


「じゃあ、何だ。テメェは俺に、無駄死にする前にさっさと帰れって言うためにここにいたってのか」


「え?」


「わざわざ俺に喧嘩売って、勿体つけた昔話なんぞ聞かせて。人の闘争心掻き立てといて無謀だから帰れだと。人を馬鹿にするためにここにいたって言うのかよ」


 苛立ちを丸ごとぶつけてやると、今度はデリダが眉間に皺を寄せてきやがった。はぁ?と小首を傾げ、でっかい溜息を撒き散らして、めんどくささを表した仕草を全部詰め込んで俺にぶつけてきやがる。


「何で私がそんなことしなきゃなんないの。私はここで、ヴォルハッドの一員として、嫌精石の見張りをしてただけだよ? ここに来たのはあんたの勝手だし、私の目的なんてもんを聞きたがったのもあんた。敢えて私からしたことって言や、死に急ぐことないよってアドバイスだけじゃなかったかしら?」


「ふざけんな、テメェから喧嘩売ってきたんだろ。聞きたきゃ力尽くでどうだ、なんつって!」


「人の過去漁りたがったのはあんたが先だ。のこのこ通りすがった盗賊に、ただで教える奴はいないだろ」


「聞きたがるよう仕向けただろ! そもそもあの場で、テメェらがガゼルダと違う目的を持ってる、だなんて零す必要なかった!」


「そんなの知るかい。私がどこで何零そうが私の勝手だろ。拾ったのはあんただ。今さら人のせいにしないでほしいね」


 突き放すように言い放つデリダに、俺は拳の震えを押さえ込むのに必死だった。


 それでも実際殴ったり斬ったりしてないのは、その通りだって認めてる自分もいるからだ。こいつの態度、余裕ぶったその語り口はめちゃくちゃ腹立たしいけど、だからってこいつをぶん殴って気を晴らして、それで何が変わるってモンでもない。


 ああ。こいつの口ぶりに惑わされず、俺の中でちゃんと考えて答えを出しゃいいんだ。こんな女に何がわかる。俺がガゼルダに敵わないなんて、何を根拠に認められる。


「まぁ、ね――」


 ようやくと腹の内の苛立ちを押さえつけたところ、頃合いを見計らったみたいにデリダがまた口を開いた。これ以上この女の話に耳を傾ける必要はない。こいつの言う通りなら、俺はこいつの話に耳を傾けなきゃいい話だ。


「期待してたのは事実だよ。がっかりしたのも本当。ひょっとしたらあの男を遺恨なく殺してくれる奴が来たかもって、ちょっとは思ったからね」


 無視だ。無視。大袈裟に首を背ける動作を見せ付け、そのままデリダの横を通り過ぎようとした。


「ガゼルダよりもさらに強い奴がいるって言ったら、あんた、どうする?」


 その瞬間、またこの女は挑発してきやがる。


 じろっと一瞥。それ以上の反応をしてやるつもりはなかった。


「あんたがこのままここを通り過ぎようとするなら、私は声を上げなきゃならない。見張りだからね。人を呼んで、曲者をこのアジトから排除しないといけない。


 あんたがガゼルダより強けりゃ、見過ごす手もあったんだ。放っときゃあんたがガゼルダを殺してくれる。そんな期待がありゃ、私ももう後のことなんて考えなかった」


「……ああ?」


 この女、この期に及んで挑発だと?


 ――ドガッ。


 大剣を、デリダの座っていた場所に力いっぱい振り下ろした。さしもの俺も、今のはイラっと来た。


「やっぱ気が短いね」


 ち。逃がしたか。デリダもしっかりと身を翻し、剣の軌道から逃れていた。まぁ、殺してもいいとは思ったけど、殺すつもりで振った剣じゃない。


「声を出すってんならいいぜ? それより先に殺してやる」


「焦んないでよ。話はまだ続いてんだ」放った殺気もどこ吹く風。デリダは剣を避けた先の床で腰に手を当て仁王立ち。「私が今考えてる選択肢は三つ。一つは今言った。ここでの見張りの仕事を全うするべく、声を上げて味方を集める。ただ、この手の問題は、身を守るための選択肢なのに思いのほかリスキーになりそうだってことだ。二つ目は、何もなかったことにしてあんたを素通りさせる。けどそれも、私の職務怠慢が叱られそうだし、その割に私が得るものが何もない」


「テメェの都合なんざ今さら知るかよ。ここまで人をイラつかせたんだ。お前がどうしようが、こっちはテメェの腕の一本くらいもらってくつもりだぜ」


「ホント怒りっぽいなぁ。損得は全部聞いてから判断しないと、面白くないよ?」


 大仰に首を左右に振って溜息一つ。それから、にんまりと表情を変えて右の人差し指を一本顔の前につき立てた。


「最後の選択肢こそ、私的にも一番のおススメ。さっき言いかけた話さ。ガゼルダより強い奴の話、興味ない?」


「ないな。そんな奴がいるなら、お前らがさっさとそいつに泣き付いてるはずだろ」


「それが上手くいかなくてさぁ」


 両手を広げ、首を落とし。それから、広げた両手を雑に下ろして、両腿の辺りをパンと大きく叩いて鳴らす。何やら動きが劇がかってきた。ホントこいつ、言動がいちいち粘っこくて鬱陶しい。


「その男、今はガゼルダと共闘関係なんだよ。何考えてんのか腹の内はわかんないけど、多分しばらくはガゼルダを切る気がない。私らとしても下手に動けなくて、様子見るしかなかったんだけど。

 ……でも、あんたが引っ掻き回してくれるってんなら、情報を流すくらいはできるかなって思うんだよ」


「…………めんどくせぇ」


 ぽつりと感想を吐き捨てる。言葉の通り、俺は現状、一欠片も、デリダの話に興味を持っていなかった。


「あはは、あんたならそう思うだろうね。けど、あんたラナマーヴェの頭領の息子だろ? ひょっとしたら、あの男、あんたに興味を持つかもしれない」


 親父が何の関係が――、怒鳴りかけた口が、ぴたりと止まる。


 そうか。こいつが言ってる強い奴ってのは、そういうこと。


「あんたならきっと、あの男の気を引けるさ。ユイス・ゼーランドのね」




短いパート更新でしたが、お付き合い頂きありがとうございます。

このところ、執筆時間がなかなか取れなくなってきてしまっています。

遅々とした進みですが、ウェル君たちがヴォルハッド団を倒すところまでは絶対に書き上げますので、どうぞ引き続きよろしくお願い致します。


次回更新。4月頭を目標に頑張ります!

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