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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ゼノン・エイド=エンポリル.3







 デリダは右肩を左手で押さえ、クキクキと首を捻りながら。


「私とアミラはね。ガゼルダの信念を打ち砕きたいんだ。あいつを絶望させて、今までの人生全部無駄だったって泣き喚かせてやりたいんだよ」


 そして、発言。湿った息を吐きながら。


 そこに驚きがなかった、って言やぁ嘘にはなる。が、そんなことよりその思わせぶりな話し方への苛立ちの方がずっと強かった。


「いちいちツッコんだりしねぇぞ。さっさと一から説明しろ」


「あんたホント短気だねぇ。私にとっちゃ重要な話なんだよ? もうちょっと慎重に聞いたらどうなんだい」


「思わせぶりな自分語りに付き合うほど悠長じゃねぇ。テメェが俺たちの邪魔にならないってことをちゃんと説明しねーなら、今すぐお前の首ぶった切って先に進むぜ?」


 奥歯を軋らせ、切っ先を向け。正直めんどくせーと思いつつ、さっき脱いだばっかの殺気をもう一度身に纏って、デリダにぶつけてやる。さすがに多少は慌てたか。デリダの野郎も両手を上げて平を広げ、わかったわかったと戦意のなさを示してよこした。


「人の人生軽く見ると、足許掬われるよ?」余計な一言を聞き流してやったのは、一応話す素振りを見せていたから。「アミラとの付き合いは長いんだ。以前はレンヴァースって盗賊団にいた。友人に勧誘されて入団したんだけどね、そいつの妹がアミラだったんだ」


「さすがに振り返り過ぎだろ。もうちょっと端的に――」


「重要な話だって言ってんのに急かしたのはあんただろ? せめて黙って聞いてな」


 ぶつけた不満。だが今度は怒鳴り返された。


 こいつ、調子に乗りやがって。あんまり長くなるなら、話の途中でも切り捨ててやるぞ。


「小さい盗賊団だったけど、居心地は良かった。私もまだガキだったし、身を寄せる場所ができたことも素直にありがたかった。けど、ある日突然レンヴァースは潰れた。ダリオスって男に襲撃されて、団員皆殺しに遭ったんだ」


「ダリオス……? どっかで聞いた気もするけど」


「まるで苦しませるために殺していたみたい、って話だったよ。生き残ったのはアミラと、その時たまたま別行動してた私だけ。私はともかく、家族や仲間がそうやって殺されていくのを目の当たりにした、アミラの心の傷はそりゃ酷いもんだったわ。数か月は言葉もろくにしゃべれなかったし、一年以上経ってやっと笑えるようになった後も、剣なんて視界に入れることもできなかった。

 しばらくは私が面倒見てあげてたんだけど、居辛くなったみたいでね。ある時アミラは私の前から姿を消した。方々探し回って見付けた先は娼館だった。私も、彼女がもう盗賊として生きていけないなら、それも一つの選択なのかもって。それなら、会いに行ったりしないで陰ながら見守ってあげた方がいいのかなって、そんな風に考えたりしてた。

 転機は、私があの男の話を聞いたことだった。レンヴァースを潰したダリオスが、ガゼルダって名前を変えて砂漠統一を目論んでるって話を」


 ああ、そう言や聞いたな。石の山の隙間に尻を下ろして膝の上に頬杖を突きながら、俺はようやくダリオスなる名前の正体を頭の中でも発見した。っていうかこの話自体、前にも聞いたな。ミラースから聞いたんだった。


「最初は、私一人でも奴を殺すつもりだった。ただ、アミラにも話だけはしておかなきゃって思って、それで会いに行ったんだ。

 私も意外だったよ。料理用の刃物さえ触れなくなってたあの子が、ダリオスの名前を聞いた途端に街を出る決意を見せたんだ。あの男を殺せるなら相討ち上等、そんな風に言ってたよ。

 そうして、奴に近付くためにヴォルハッドに名を連ねた。アミラなんかはダリオス――ガゼルダに近付くために、ヴォルハッド四強の一人にまで上り詰めたんだ。でも、……ダメだった」


 軽薄だったデリダの口調が、ほんの少しだけ影を帯びた。


 つまんねぇ話だ。恨みをどれだけ積み重ねても、力が及ばなかった。どこにだって転がってる、弱い連中の話――。


「寝首掻く隙くらい何度もあったんだけどね。近付くほど、それだけじゃダメだってわからされるんだよ。だってあの男の本懐は、自分に復讐心を抱く者に殺されることなんだから」


「……あ? どういうことだ?」


 意味がわからず、聞き返した。


 デリダは腹立たしいしたり顔で、「言っただろ?」と一言を前に置き。


「私たちの目的は、あの男をただ殺すことじゃない。あいつの信念をへし折って絶望させて、その上で八つ裂きにしてやりたいのさ」


「そこじゃねぇよ」俺も最初に一言挟んでから。「なんだその、自分に復讐心を抱く者に殺されたいってのは。ガゼルダって男はマゾなのか?」


「それがあの男の信念だからさ。『人を強くする一番の原動力は復讐心』。あいつ自身、それを糧に強くなったって主張している。そして自分より強い奴が出てこないのは、自分程根深くて大きな復讐心を持った奴がいないからだ、とも。だから、自分に強い恨みを持った奴が自分を殺してくれたら、それがあいつの信念を証明してくれることになるのさ。奴が方々で人の恨みを買って回ってるのは、それを期待してるからに違いない」


 なんだそれ。デリダの話をいくら聞いても、俺の眉間から皴は取れない。ガゼルダの考えてることが、まるで理解できない。復讐心が人を強くするって理屈はわかる。けど、それが絶対だってことを証明するために、復讐心を持って自分を殺してくれる奴を待ち続けてる、……ってのは。


「私もアミラも、ガゼルダのことは何度殺しても殺したりないくらいに恨んでる。憎んでる。けど、そんな私たちがあの男のことを殺しても、ダメなんだ。それじゃあいつを喜ばせるだけ。

 アミラはずっと、心を殺しながら待ってるんだ。あいつの傍で。復讐心じゃないものであいつを殺してくれる奴が現れることを」


 なんだそれ。もう一度、同じ感想。


 なんだそれ。なんだそれなんだそれなんだそれ。


 こいつらのことなんか知らない。この女がどれだけ弱くても、アミラって女がどこまで自虐的でも、その人生がどこまで無意味でも、俺にとっちゃどうでもいい。


 どうでもいい、はずなのに。何でだよ。何でこんなに、イライラするんだよ。畜生。


「……いいぜ? 俺がその男を殺してやる。俺はヴォルハッドの頭領のことを恨んだりなんてしちゃいねぇ。ただ、いい気になってんのが目障りなだけだ。お前らの望み、俺が叶えて――」


「あんたじゃ無理だよ」


「――……何?」


 言葉を遮られて、俺は勢いつけて立ち上がり、何度目か目の前の女に殺気をぶつけた。




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