2-20 断節 ミディア・アバディア.4
察したんだろう。セーラが私の前に完全に身を滑り込ませ。魔法の風壁で銃弾を防ぐだけでなく、その体を挺してまで私を守ろうとしてくれる。
パァン。
パワァン。
パウァン――。
今度は三発。軽い、間抜けな音を響かせて、男は続けざまに引鉄を引いた。
と、ほぼ同時くらいに素早くしゃがみ込み、頭を低くした。撃った銃弾の三つ分は、一つは私とセーラの右手側に、一つは左手側に飛ばされ、最後の一発は天に舞い上がった後、不可解な軌道を描いて、立っていた男の胸のど真ん中辺り、だった場所に向かい帰っていった。
「けケ。面白いことするじゃン」
「……何したの?」
ゆっくりと腰を上げる男。その言葉を受け、私はセーラに聞いた。
「……下からの突風で銃弾を上空に煽り、勢いを残したまま彼の体に戻るよう軌道を操りました。あれを避けるとは相当の実力者ですね」
珍しく、セーラの余裕がわざとらしく感じられた。
冗談でしょ、と私も思う。魔法の限界なんて知らないけど、銃弾の軌道を軽々変えて跳ね返せるなんて、そんな狂った魔法がそうそうそこらに転がってるとは思えない。こいつ、思ってたよりもさらにずっとすごい使い手なんだ。そう、思い知った。
そして、それを魔法が使えない身で見切って避けたこの男の変態ぶりも。
「……ミディアさん、頭を低くしておいてください。そして私が接敵したら、なるべく速やかに岩陰に隠れて」
セーラの言葉が届く。考えるより先に、私はその場に蹲った。
同時に、セーラが男に突進する。ナイフを手に、魔法の風を背に受けて。
楽しそうに笑った男が、まず一発、銃弾を撃ち込んできた。
セーラは簡単に、それを弾いた。そして勢いそのまま、男の懐に入り込みナイフを細かく振り回す。
男の服に切れ目が走る。けど、肌には届いていないみたい。血が散らない。左手に嵌めたグローブみたいな防具で、素早く器用にナイフの攻撃を受け止めている。
そして、更に器用なことに。
ンパァンッ!
ざさりっ。
セーラと組み合った状態で、奴は私のことを狙い、撃ってきた。
目の前で砂がめくれ上がった。一瞬振り返ったセーラの顔を見る限り、セーラが逸らしてくれなきゃ私のどこかに当たってたのかもしれない。
恐怖が背中を駆けずり回った。
そして、セーラの言葉を思い出す。
この大岩の頂、蹲れば人ひとり隠れられそうな小さなでっぱりが、いくつか。一番近いのは、左手に五メトリ程。動くならそこだ。
ゆっくりと、慎重に。中腰のまま歩き出す。
男とセーラの動きには、常に気を配りつつ。
さすがセーラ。ほとんど振り向きもしないくせに、私の姿が見えてるんじゃない?って疑っちゃうくらい正確に私と男の間の位置を取り続けてる。
男も何度か銃口を私に向けようとしていたけど、発砲までには至ってない。そもそも銃を私に向けようとする段階で、セーラが上手くいなしてくれているらしい。
頑なにセーラを撃とうとはしない男の戦法も、セーラを楽にしてくれてるみたいだった。こだわりなのか知らないけど、正直、助かる。
「けけケっ、ヤるね。ちょっと面白くなってきたヨ」
岩陰に辿り着いたところで、男が楽しそうに口を開いた。
「認めて頂けて光栄です。そろそろ、私とも戦って頂くわけにはいきませんでしょうか?」
「んー……。ポリシーには反するけど、そうだネ、オネーサンを仕留めたら、次はオジョーサンをボクのコックラムの獲物にしようかナ」
「……残念ですね。私の方が魅力がない、と言われてしまうなんて」
「ちょっとっ! 何で私は『オネーサン』で、セーラは『オジョーサン』なのよっ」
そんな場合じゃない、ってのは重々承知。ちょっと聞き流してやれないとこだったので、岩の陰から声を荒げてツッコんでやった。
「え。オネーサンの方が年上なんじゃないノ?」
「じょっおだんでしょっ? 剣振り回してるガキどもよりはそりゃ年上だけど、こんな落ち着き払った皮肉女よりは私の方が断然――」
「あの、ゼノンの話では、恐らくミディアさんの方が年上だと」
「はぁあっ? 何言ってんのよっ。あんた年いくつよっ?」
「二十一ですけど」
「あぁ? サバ読むのもいい加減にしなさいよあんた。その落ち着きで二十一はないわよ。絶対有り得ない」
「えぇ……?」
「いやァ、オジョーサンならそれくらいじゃないかナ? オネーサン、それより上じゃないノ?」
「う、うっさいわねっ」
嘘でしょこのニマニマ皮肉女、私より六も若いっての?
そんで、それくらいの年だってのがこの変態男には見ただけでわかっちゃうっての?
やめてよねそりゃ人より老けた顔なのは自覚してるけどさ。化粧もしてなきゃ肌の手入れもしてない、髪だってろくに整えないおかげでいっつも年上扱いされるけどさ。実際の年齢言や「えーウソ若いっ」って言われるのがいつもだったんだからねっ。「まぁ、そんなもんだと思った」なんて言われるような……、そんな……。
……そんな年になっちゃったのかなぁ私。うわなんかすっごい凹むんですけど。
「ま、年なんてどーでもいーじゃナイ」
変態男がけらけら笑う。
あんたにだけは言われたくないわ。銃にしか興味ない変態のくせして、セーラと私の年齢差見た目だけで見抜きくさってからに――。
「どーでもいーヨ。どうせ二人とも、今日ここで死ぬんだカラ」
ぞくりと、背中が躍った。




