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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20-7.「ここは、やらせてくれ。因縁の相手なんだ」







「ったく。裏からこそこそ入ってくるんじゃねーよ。またアミラに美味しいとこ取られちまうとこだ」


 息一つ乱さず、男が笑う。


「……そっちこそ、屁みたいな襲撃に中心連中がぞろぞろ出ていくなよ。せっかくの奇襲が台無しだ」


「うちはみんな臆病なんだ」


 にやにやと、心にもない軽口を叩いて笑う、ボズロ。


 剣を構え対峙しながら、俺は上唇をぺろりと舐めた。


 自分の成長を実感していた。戦えている。この男を相手に、まだたかが数合だけど、十分にやり合える手応えを感じた。


「少しは腕を上げて来たみたいだな。俺様の剣筋、読んでんのか?」


 ボズロにも違和感を与えられたらしい。表情に出してはいけない、と自らを律するのに必死になってしまう。緩む頬が、なかなか抑えられない。


「だからっ、俺を無視してんじゃねーぞっ! 簡単に背中見せやがって。ナメんな?」


 背後からゼノンが叫ぶ。


 そう、背後。ボズロは依然、ゼノンに背を見せたまま。真正面から俺のことを見据えていやがって、そんなことは今までで初めてなので、ゼノンには悪いがついつい気持ちが浮いてしまう。


 敵に認められたからなんだと、心の中で自分に檄を飛ばした。


「んー、別にナメてるわけじゃないんだけどな?」剣を床に刺して立て、開けた右手でぼりぼりと頭を掻きながら、少し困ったような顔を見せるボズロ。「お前もお前で楽しませてくれそうだとは思うんだけどなぁ。ほら、ええと、……ウェルか。正直、お前の成長ぶりに感動しちまってんだよ。いや、初めに会ったときは女と二人がかりでないとろくに攻撃もできなかった坊主がなぁ」


 腕を組み、うんうんと大きく頷いて見せるボズロ。この男に認められるのはそれなりに嬉しいんだけど、こうも子供扱いされるのはそれはそれで腹立たしい。


 以前は大人と子供くらいの実力差があった、という現実は認めざるを得ないとしてもだ。


「提案なんだけどよ」そして、ゼノンに向けて話を始める。「俺とウェル、一対一で戦わせないか?」


「あ? 俺と戦うのはつまんねーって言いてぇのかよっ?」


「んなこた言わねぇさ。実際お前もなかなかに香ばしい。正直ここには、お前ら二人なり、もっと仲間がいるなら全員まとめて薙ぎ払ってやろうと思ってきたんだ。お前もウェルも、まとめてペットにして飼ってやりたいって思ってんだぜ」


 下卑た笑いを浮かべながら、大きくわざとらしく舌なめずりを見せ付けてくるボズロ。背筋にぞわりと鳥肌が立った。


「……二人相手は荷が重く感じたか?」


「ナメんなよ?」


 小さな挑発もマメに拾ってよこすボズロ。ふ、と笑って、けど正直俺も望むところだって心の中で認めていて。


「ゼノン」


 結局俺も、ゼノンの名前を呼んでしまった。


 ンだよ、と答えるゼノンは少し不機嫌。どうやら、俺が向ける言葉の中身も察しているようだった。


「ここは、やらせてくれ。因縁の相手なんだ」


 目も見ず頼むと、大きな溜息が返ってきた。


「ったくしゃーねぇな! 次の相手は俺がやるから、お前は手出すなよ?」


 投げ槍に大声で吐き捨て、剣を床に置いてすぐ傍にあったソファに腰を沈める。


 俺は視線はボズロから動かさないまま、「悪い」と一言ゼノンに置いておいた。


「俺様からも礼を言っとくぜ。ウェルを刻んだその後なら、いくらでも相手してやるからさ」


「け、生憎ヒトの喰い残しにゃ興味ねーんだよ。テメーはさっさとウェルにクビ落とされとけ。ウェル以下なら俺以下だ」


「ほぉ。言うじゃねぇか」


 ヒウと口笛を鳴らすボズロ。大言壮語は大好物らしい。


 ま。俺は大人だから何も言わないでおいてやるけどさ。――俺はゼノンには負けたことないんだぞ?


「さぁ。じゃあいよいよ本番といこうぜ」


 ボズロがにやりと笑い、俺も静かに口角を上げた。


 ここがこいつとの最終決戦だと、心の中のもう一人の自分が、静かに強く、自分を律した。




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