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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20-6.「ハドラが戦うと決めた。無闇な心配は失礼だ」







「刺さったのが木箱でよかった。本を傷付けてもよいという人とは、私はわかり合えません」


 言いながら、足許の箱を蹴り両手のナイフを構えてハドラに飛び掛かる。


 ハドラは握った剣一本。角度を見抜き、一本で二本のナイフを受け止める。


 ガガギッ、と。三本の刃物が二か所で押し合ったのはほんの一瞬。


 アミラは左手でハドラの剣を抑えたまま、右手を浮かして握ったナイフをハドラの目前に迫らせた。


 ハドラは剣身を大きく捻り、肘と足とで攻撃を遠ざけた。


 まるで投げ飛ばされた獣のように、重心を低く、ナイフを握った両拳を床につけ、アミラは態勢を整えた。


「僕も……、死者を(たっと)べない方とは分かり合えません」


 まるで猛獣と獣使い。


 構えを崩さぬハドラと、四つ這いの奇妙な構えで次の攻撃を探すアミラ。


 少しずつ、両者の目に、互いしか映らなくなってきたことが、傍目の俺にも伝わってきた。


「行ってください」


 一瞬だけ目線をこちらによこし、俺たちに指示を出すハドラ。


 それを隙と見たのか、次の瞬間、アミラがハドラに飛び掛かっていた。


「ハドラっ!」


 反射的に、ハドラの名を呼んだ。


 同時に、もう一人の自分がすぐさま、その場を離れようとする。


 ハドラが戦うと決めたんだ。無闇な心配は失礼だ。


 アミラとて、すんなり見逃しはしないだろうけど、ハドラの相手をしながら俺とゼノン二人の足止めまでこなす、なんて器用な真似はそうそう――。


「ガゼルダ様は、表の喧騒の中心部にいるはずです。隣の小さい部屋からも表に抜けられますので。行くのなら、お覚悟を」


 とか思ってたのに、まさかの勧奨。どういうつもりか、俺たちのことは完全にナメてるってことなのか。


 チッと大きな舌打ちで答え、二人の剣戟の音を背に部屋を出た。


「あのアマ……。完全にナメてやがんな」


 ゼノンがギリと奥歯を噛み締め、額に青筋を浮かべた。


「やっぱりセーラさんの言う通り、アイツは俺達を本気で歓迎してるんじゃないか」


 宥めるように言ってみる。


 そういえば、聞いた話だと、あの女も昔ガゼルダたちに仲間を殺されたらしい。今はヴォルハッドに名を連ねてるけど、もしかしたらすぐ近くで、ガゼルダの寝首を掻くチャンスを窺っているのかも。


 まぁ、だからって言っても、ムカつくのは確かにムカつくけどな。


「どうでもいいさ、そんなの。

 それよりさっさと行くぞっ! 連中の首、ぜってぇ全部取って並べてやる」


 ゼノンの景気づけに、おうと答えて向かいの部屋の扉を開ける。これだけムカついてるのに、結局はアミラの言葉を信用してこの部屋に入る自分たちのことを、ちょっとだけ、迂闊だなと省みた。


 実際、さっきも同じ。パッと見た限りでは扉はどこにもなく、ただの個人の部屋としか思えない造りだ。


「ガセか?」


 すぐに疑うゼノンだったけど、俺は、そんなに単純じゃないんだろうという直感に従うことにした。


「隠されてるなら壁際だ。まずは本棚や家具の後ろ、調べておこう」


 提案し、本棚の背後を覗き込む。


 見付からず。次の目当てに移る。


 ゼノンも一つ舌打ちをした後、しょーがねーなと動き出す。


 二人がかりで本棚の裏を全て確認し終え、扉らしき扉がどこにもないので、ひょっとして巧妙に隠されているのかそれともやっぱりアミラの罠だったか――、腕組みし考え始めた次の瞬間、俺もゼノンもその音に気付き、瞬時に臨戦態勢を取って壁に構えた。


 気付くか気付かないかの音がしたのはごく僅かの時間。唾を飲み込む間もなく、壁の一部が向こう側から、爆発でもしたかのように弾けて飛んできた。


 もわもわと立ち昇る砂埃、その向こう側にいたのは最早見慣れた大男。浅黒い長髪を背に垂らし、丸太より太い剛腕に、黒い弓と小さな剣を握り締めている。童顔が、以前より少し精悍さを湛えたろうか。


 この男も探していた相手の一人、とはいえ、逆に向こうから来られると一瞬の驚きはあった。表が鎮圧されたんならいくらなんでも早すぎる。深部からの潜入を察して一人で戻ってきたんなら、勘が良すぎる。


 さぁどっちかな。聞こえたはずはないのに、そんな風ににまりと笑う太い眉と仄青い目が、そして次の瞬間右手一本で剣を俺に振り下ろしてきた。


 受けるのは容易。撃の重さも、いまや想定の範囲。刃の粘っこさに、久しいなんて感慨さえ抱いてしまう。


 二撃、三撃。振り回される剣。


 けど、俺も随分成長した。こいつの一挙手一投足、目の動きや呼吸の仕方を見るだけで、次にどんな攻撃が来るか予測がつくようになった。


 左上から、右手一本斜めの一撃。


 止めた刃としばし競合。


 空いた腹を膝蹴りが狙ってくる。


 俺は床を蹴って後ろに跳び、距離を取る。


 ようやくゼノンが来る。俺を無視すんじゃねぇ、とか何とか馬鹿正直に主張しながら。


 背後から飛び掛かり、頭の上から思い切り振り下ろした柳葉刀。


 左手一本、握った弓で、あっさりと受け止められてしまう。


 一度距離を取る。


 反対の壁に背を当て、構えを整えながら、今度はゼノンと男との鬩ぎ合いをしばし見守る。


 僅か数合。結局ゼノンも攻め切れないまま、やがて彼も一度敵から離れて体勢を整えた。




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