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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ガゼルダ・ギルティス=ゴルディアック.3






 結局、サリナスは俺の言葉に頷いて寄越した。「雨季が明けるまでだ。それ以上は待たないぞ!」一つだけ条件を課して。


「私も、この場所の守護に回りましょうか」


 ここでユイスが、驚きの提案を挙げた。思わずこの俺が、この男の顔をまじまじと見つめてしまった。どういうつもりだ。何を企んでいる……?


「いや! それはダメだ。お前にはこんな所よりもっと大事なものを守ってもらわねばならない」


「例えばお前自身とか?」


 ニヤつきながらサリナスを挑発するボズロ。サリナスは歯牙にもかけないと言った様子で。


「それもそうだ。が、本当にこの男に守らせたいのはもっと重要なもの。オマエごとき盗賊風情には理解の及ばぬ崇高なものだよ」


 蛙に説教、とでも言わん態度でそうとだけ言い捨てた。


 ふん、とだけ鼻を鳴らすボズロ。


 代わりにユイスがわかりましたと慇懃に一礼して、サリナスの顰め面に答えた。


「では、雨季が明けたら、すぐに詳細な第二段階の計画を提示するんだ。いいな」


 サリナスは踵を返した。用事さえ済めば、こんな場所には一分たりと長居したくない。本音が見え見えだ。


「くれぐれも、襲撃の最中にこの砦に来るなよ。さすがの俺達も、戦ってる最中にあんたの身を守るのは無理だからな」


「いらぬ心配だ。この男がいれば問題はない。それに、用もないのに来はしないよ」


 吐き捨てられた返答に、「それでいい」。淡々として頷くのは慣れたもの。つい安堵してしまう内心など、隠し果すのは簡単だ。


 早々に地下室を出ていくサリナスの、背を追いながらユイスがちらりとこちらを振り向く。


「彼はああ言っていますが、もし厳しいようなら呼んでくださいね。恐らく第二段階に進むまで、ハーンのサリナスさんの邸におりますので」


 け。誰が呼ぶかよ。ボズロが唾を吐き捨てる。


 くっくと笑いながら、皿にユイスはもう一言付け足し。


「間違っても、彼には気付かれないよう気を付けますので」


 そう言って、今度こそ部屋の扉を閉めた。


 足音が遠ざかる。そして聞こえなくなったのとほぼ同時、ボズロが大きな溜息を一つ吐いた。


「相変わらず高慢なクソジジィだな。顔を見るだけでもイライラするぜ」


「だったら、わざわざ出てこなくても良かっただろが。何であのタイミングでしゃしゃり出てきたんだ?」


「よく言うぜ」ボズロは呆れた顔で。「適当なことフカシやがって。俺が話を持ってこなきゃジジィごまかしきれなかったんじゃないのか?」


 俺はちらりとアミラを見る。アミラはすぐに動いて、扉の外を覗き込んで。そして一つ頷いて見せた。もう、連中は潜んでいない。


「フン、ナメるな。他にも五つは話の進め方を検討してたわ」


「とんだ狸オヤジだよ。しかも盗み聞きへの気配りまで抜かりなしか」


「お前がザル過ぎるのさ」


 ニヤつくボズロを真顔で一蹴。この男、部下を大事にするのは長所だが、まだまだ甘さも目立つ。いつか命取りにならなければいいが。


 まぁ、知ったことでもないか。命取られようがこいつの生き方だ。


「しかし、ちったぁ楽しくなってきたじゃんか。なぁガゼルダ。こりゃきっと、アグロのボンボンにとってみりゃ、俺様達への復讐だぜ? お前の大好きな、よ」


 にひひと笑いながらふざけたことを抜かすボズロ。


 反論する気も起きない。俺は黙って体の向きを変え、アミラの方を見た。「おい、無視してんなよ!」大声を上げるボズロを、やはり相手にはしない。


「今日から数日以内、恐らくは二日後の夜に、敵からの襲撃がある。アグロ・ダインの小細工と捉えるな。全団員に抜かりなく準備をさせろ。ヴォルハッド団結成以来初の守り(いくさ)だ。失敗は許さない」


「はい」


 俺の言葉を受け、アミラは徐に、首肯する。


 恐らく心中に、戸惑いはあるだろう。ダインがたった数日で強力な仲間など得られるわけがない。撃退に、全戦力の半分だって割くことはないのではないだろうか……?


 必要なら、ある。


 根拠は、俺の勘だ。


「まぁ、いいけどよ。大将首は俺様のエモノだぜ。他の奴にゃ渡しゃしねーからな」


「大将首、というのは、アグロさんのことですか?」


「……正直役者不足だけどよ。あのクソガキがアタマ張るってんなら、俺様が引導渡してやらなきゃなんねーからな。アミラ! そこんトコ、デリダにもよく言っとけよ」


「ええ、はい。それは問題ないと思いますが」


 アミラの答えは歯切れが悪い。アグロ程度を斬ったところで、ボズロは何を満足するのか。そんな疑念が、隠し切れな様子だ。


 ふ、と小さく嘲笑う。全く持って、俺の周りはバカばっかりだ。


「とにかく、全員に伝達しろ。次の襲撃には全力を持って応じること。敵を弱いと過信して手を抜く奴がいれば、この俺が叩っ斬る。いいな!」


 おうよ! ボズロが答える。


 はい。静かにアミラも頷く。


「ああ、いや待て」


 俺はふと逡巡し。アミラに目を向けた。


 何でしょうと首を傾げるアミラ。俺はじろりとこの女を睨み付け。


「お前には別の仕事がある。この部屋、しっかり掃除しておけ」


 ぐ、と絶句するアミラ。わかってんだよと目で諭す。きっと、敵は一筋縄じゃ行かない。俺の勘は、まぁしかし、それなりに裏付けもあるってことなんだよ。




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