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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ガゼルダ・ギルティス=ゴルディアック.2







「おいっ! 何をグズグズ考え込んでいるっ。さっさと私の質問に答えないか!」


「…………」


 睨み付けていたのもほんの一分かそこら。再びがなり立て始めたサリナスを、俺は一度無視してやる。


 まぁ、二度目は無理だな。


「聞いているのかっ! このノロマがっ!」


「……ああ。聞いてるよ」


 額に血管を浮き立たせ、今にもぷつりと切ってしまいそうなほどに血を上らせるサリナス。


 頃合い。俺は先にボズロに「わかった」と一言頷き、そしてサリナスとユイスの方に向き直った。


「第一段階は既に完了している。いつでも第二段階に進める」


(だま)――……」


 黙れと罵声を浴びせようと準備していたサリナス。どうやら俺の言葉は相当に意外だったらしく、黙らされたのは自分自身だった。


 見れば横のユイスも、アミラとボズロまでが驚いた顔をしている。まずいな、もう一つごまかしておくか。


「だっ、……だったらなぜ早く報告しないんだ、このウスノロが」


「俺自身もついさっき受け取ったばかりの情報だ。まだこいつらにさえ共有できてなかった」


 顔の筋肉を極力動かさずに答えてやると、しかしユイスは途端に表情を変え、小さな微笑みを慌てて隠そうとする。構わん。口さえ開かなければ、それでいい。


「……では、嫌精石を運搬する仕事に使った盗賊ども九七一人、全ての死亡が確認されたんだな」


 静かに頷いた。


 ここでようやく、ボズロが気付いた顔をした。


「おうよ! 最後の二人の行方も、この俺様が突き止めたからな。部下ども随分手こずったみてーだが、ようやく終わらせやがったか」


 ああ。頷きながら目で合図。あまりやり過ぎるなと。


 幸い、サリナスはボズロの石クズ演技には興味を向けなかった。


「それならさっさと第二段階に進むんだな。もう計画は立てているんだろう? 明日には始められるんだろうな?」


 コホンと咳払いをひとつ。相変わらず声音には棘があったが、言葉選びは随分穏やかなものにかわっていた。表情も急速に丸みを帯び始めた。残った棘は、元々俺たちのことを見下しているが故だろう。


 だが、俺もすぐには首肯しない。


「その前にもう一つやっておくことがあるんだ」


「なんだとっ?」


 また、サリナスの語調が強くなった。


「ふざけるな、ここまでどれだけ進捗が遅れていると思ってるんだっ。お前たちのお遊びに付き合う時間なんぞもう――」


「数日の間に、この拠点は襲撃を受ける」


「――少しもありは……、……なに?」


 響く怒声を気にかけず、間を割って言葉を捻じ込んだ。そんな言葉をしっかり拾える冷静さがサリナスにあるとは、少し存外だった。


「聞いてただろ? 脱団員が出た。奴の気性に鑑みりゃ、ここを襲撃し俺達を潰そうと考えるだろうと予想が立つ。それも数日中にだ。機を待つ、などと慎重なことができる男じゃないしな」


「それが何だ! お前らの不始末だろう、計画に支障を出さずにどうにかするのが筋だろうが!」


「この拠点が破られてもいいんなら、そうしよう」


 うぐ、と動揺をわかりやすく表しながら息を飲むサリナス。


 ここを拠点として守れと指示を出し、更に嫌精石で壁を建設させたのもこいつらだ。この拠点が襲撃されて、困るのは俺達じゃない。俺達には、こんな場所への未練はない。


「まだ壁も完成してない。敵の規模がどの程度になるかは計りかねるが、予想を超えてきた場合には残存勢力だけで守り切れるか確約できないな」


「そ、それは……」


「雨季はまだ明けていない。時間はもう少しもらえんだろ? それに、いずれ砂漠中の他の勢力を全て壊滅させるのは段階の一つのはずだ。襲撃者を平らげるのも、第二段階の一端に数えられないか?」


「……」


 捲し立てると、サリナスは慎重に黙り込んだ。


 最低限、こいつもバカじゃない。国柄の格差を妄信し、自分が俺達よりも優れた人種だと勘違いし、俺たちのことを罵倒して当然だと本気で思っていやがる糞野郎だが、罵倒することが目的にはならない。


 条件を並べ立てれば吟味する知能はあるし、それが全体の益になると判断すれば是と受け入れる余裕もある。


「サリナスさん。彼の言葉には一つ以上の理があります。受け入れてみては?」


 おまけに、ようやく口を開いた脇のユイスまでそんなことを言ってよこすわけだ。静かに頷けるかどうかは別として、サリナスも結局は受け入れざるを得ないところだろう。




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