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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
159/177

2-20 断節 ガゼルダ・ギルティス=ゴルディアック.1







 普段足を踏み入れることがないそこに、そのタイミングで赴いたのは、まぁ色々な偶然が重なった結果だ。アミラとデリダが何やらこそこそ話をしているのが妙に気になったのも一つなら、相変わらず届くサリナスからの催促の手紙にあばらの辺りを(くすぐ)られたような気になったのも一つ。だがまぁ、一番の決め手は、砂漠に生きる男の勘。……ってことにしとこうか。


 何はさておき、そこに入った瞬間に、俺はその違和感の正体を見破った。アミラめ、ふざけやがって。何もなかったなんて顔をしながら足跡をしっかり残しておくなんざ、ズボラを通り越していっそ挑発だ。


 通用口から一番離れた部屋の奥、空の木箱が山積みになって放置されている辺りに寄って、足許をランプで照らし、ゆっくりと睨め回す。朽ちた埃を踏み荒らした足の数は、一人二人のものじゃない。そもそもこの地下室に入ってくる奴が、俺たち四人とアミラが連れ回しているデリダくらいのモンだ、って話なんだが、もう少し頭使って考えた風なことを言や、足跡のうち廊下の方に伸びてんのは二つだけだ。後のやつは全部、せいぜい檻の前で止まってる。そして最終的には、この木箱の裏の壁。


 ……一か所穴が開いてることは、俺も把握してた。この穴がどの辺に繋がってるのかも大体知ってる。狭すぎるモンで、俺自身が覗いたことはないが。


 ほったらかしておいたのは、まぁ言っちまえば俺の趣味。俺は、俺の首を狙って近付いてくる奴のことが大好きなんだ。もしもこっからヴォルハッド団の拠点に潜入しようって連中が現れたら。そう思うと楽しみで仕方なかった。


「……ぇいっ、もう待てんぞっ」


 聞こえてきた声に反応し、顔を上げる。


 かつかつと乱暴に、廊下を近付いてくる足音。


 しまった俺たち五人の他にもここに入ってくる奴らがいたのをすっかり忘れていた。俺は急いで部屋の中央に戻ってランプを足許に置き、随分とわざとらしい演技付きで、腕組みしながら天井の方に目を向けた。


「ガゼルダっ! どこにいるっ? さっさと姿を現せ!」


「……別に隠れたりしていないぞ」


 天井を見上げたまま、扉から姿を現した初老の男に返事をする。


 やってきたのは、サリナスを先頭にした三人。怒りの剣幕で押し込んできたサリナスにユイスが笑いながら同行し、アミラがそれを宥めようと後ろから声をかけている。よく見る状況だ。


「こんなところで何をしてるんだっ!」


「何を、ということもないけどな。ただこの部屋の様子を見に来ていた」


「部屋なんぞぼんやり見てどうしようというんだっ! 約束の雨季の終わりはもう目の前だぞっ! まだ第一段階が片付かないとはどういう了見なんだっ!」


 がなり立てる灰色髪の男。横からアミラが手で懸命に男の胸板を抑えながら、俺に対しては何度も頭を下げている。ごめんなさい、どうにも抑えきれませんで。相変わらず、本人を横目にして言うべきじゃないセリフをずけずけ言ってよこす。慇懃無礼がアミラの特性。サリナスも、相手にしていないフリこそしてるが、多分アミラの物言いに苛立ちを激化させてる部分があるに違いない。


「ここにいたかよ、ガゼルダ!」


 ……千客万来だな。


 サリナスに応えて口を開けようとした瞬間、更に今度はボズロが俺の姿を見付けて部屋の入り口を潜ってきた。いつもは静けさしかないこの地下室が、今日に限っては戦場のど真ん中のような喧騒だ。


「アグロが脱走した。部下どもが言うにゃ、あのクソガキ、待遇に随分不満を持ってたらしい」


「そんな話はどうでもいい! それより計画の進捗を聞かせろ、ガゼルダ!」


「あ? うっせーんだよクソジジィ。テメーこそ出る幕じゃねーんだよ。アミラも散々、外で待ってろっつってンだろ」


「小娘がどうした! 私を待たせるなど、お前らクズどもに赦されると思うな」


「ンだとゴルァ!」


 人の目の前で額を突き合わせ、睨み合って怒号を応酬するサリナスとボズロ。前回初めて顔を合わせた時にも感じたが、この二人の相性の悪さは相当だ。その上背後に立つユイスは、楽しそうに微笑みながら全員のやり取りを眺めるだけ。相変わらず、この男の信用の置けなさは凄まじい。


「まぁ落ち着け」


 結局、こいつらを黙らせられるのは俺しかいないらしい。そう悟り、溜息を交えながら口を開いてやった。


「まずは情報をまとめさせろ。ボズロ、お前の部下が一匹いなくなったのを、わざわざ言いに来た理由は?」


「ああ。アグロのクソ野郎、他所の連中に声かけて、ヴォルハッドを潰しに来ようって腹らしい。頭の軽いガキだからな。俺様たちなんぞ簡単に潰せるって本気で思ってたみたいだぜ」


 他の連中が零してやがった、と、どこか楽しそうに笑いながら報告してくるボズロ。


 実際こいつは、面倒見がいい。口は悪い。気に入った相手に対して、「犬ころが」だの「尻尾振って靴舐めてみろや」だの、罵言にしか聞こえない挑発をよく発して、その神経を逆なでしている。だが実際下ってきた仲間に対しては、いいものを食わせてやり、報酬は自分よりも多く分け与えと、きっと砂漠の外でも有難い程の世話焼き具合を見せる。


 アグロ・ダインのクズのことは俺も把握していた。デリダがミルレンダインに潜入した際に釣ってきた団長候補。団長になれなかった腹癒せに、俺達に仲間を売った外道。そして今回、俺達からの評価が低いと不当を嘆き、俺達を裏切って更なる出世を目指したわけだ。


 アグロがそんな愚を企てることも、奴が愚痴を零した相手連中がその内容をボズロに全て告発したことも。全て理に適っている。話の内容に、疑う余地は特にない。


「俺達を潰しに来るだろうって話か。……あの男に頼れる味方なんていない。適当に煽って利用するなら、手近の連中を選ぶだろうな」


 顎に手を当て、声を音にせず。口だけ動かしながら頭の中をまとめる。


 横でサリナスが、苛立ちを顕わにしながら俺のことを睨みつけている。


 確かに雨季も末。恐らく次に雨が降ったら、今年はもう降らないだろう。




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