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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20-1.「どうもこの辺りは治安が悪い」







「地下通路は使えたんだ! 今度こそ、ガッツリ不意打ち仕掛けるべきだろ!」


 ハーンの街に帰って翌日。ゼノンの主張に応じる者は、誰もいなかった。行って、帰ってこられたことは事実。けどアミラとデリダに見つかったのも事実だし、二人の真意がどうであれ、あの後一度は地下室を調査して抜け道を探すに決まってる。今度こそ、通路に罠を仕掛けて潜入に備えないとも限らない。もしも俺たちへの招待の言葉が本物だったとしても、あの通路は俺達以外のハイエナだって使えるんだ。


 結局、ヴォルハッド襲撃の作戦は一から練り直さなきゃいけなくなった。ゼノンとてそれは理解しているはずだ。ただ、いよいよ暴れられると思っていたものがふいになって、駄々を捏ねているだけだろう。


 一から、って言ったけど、実際は進んだ面もあった。


「ヴォルハッド団とのガチガチの殺し合いについては、私は何の作戦もないけど」ふと、ミディアが提案する。「グランディアの計画を潰そうっていう話なら、できることはあるわ」


「例えばどんな?」聞いてみる。


「あの研究所で行われていた実験のことを、世界に公表するのよ。そして、今またその施設跡を使って何かをしようと企んでる。そう公表すれば、グランディアは身動きが取り辛くなるわ。


 例えばそうね、この砂漠をグランディアと奪い合ってる、ウェンデとかを取っ掛かりにするといいかも」


「けど、証拠は一切ないぞ?」


 そう。他の誰かに信じさせるには、圧倒的に確証が足りない。よしんば他の国の調査員とやらをあのヴォルハッド団が頑張ってる施設の地下に連れていけたとして、グランディアが何かをやってたっていう証拠は、ハドラの話以外には何もない。


「別に信じさせなくていいのよ。ウェンデだってグランディアには砂漠に手を出して欲しくないはず。難癖付けて手を引かせられたら儲けもの、くらいのもんよ」


 言葉尻はいつも通りの投げ遣りさ。その割に、ミディアの横顔は、随分と真剣なものだった。

「いずれその話が世界中に広がれば、グランディアは下手なことは一切できなくなるわ」


 一つ低めのその声音。俺はふむと考え込み、案の実現性を検討してみた。


 いや、俺が考えたところでこんな搦手の評価なんてできない。仲間たちに聞いてみないと。


「確かに……。もしもその情報でウェンデや他の国の軍まで動かせたら、面白いことになりそうですね」


 セーラさんは、前向きな評価をした。


「ウェンデの力を借りようっていうのが、ちょっと癪でますけどね。悪くはないと思うでますよ」


 レマは、自分の感想も添えながら、一応の賛同。


「……えっと、あの建物が壊されちゃったりは、……しないでしょうか」


 ハドラはやや後ろ向きか。


 そしてゼノンは――。ゼノンには聞かなかった。あいつも俺と同じ、いや俺以上の単細胞。中身が銀だろうと錫だろうと、「いいじゃん、やろうぜ」と頷くような奴だ。聞くだけ、時間の無駄だろう。


 いやいや。もしこの作戦を本当に行うなら、ゼノンにだって話しておかないといけない。仲間としてそれは絶対だ。話す気が起きなかった大きな要因の一つ。実は俺自身、この作戦に後ろ向きだったんだ。言った通り、上策か下策かはわからない。だが好きと嫌いで見るなら、あんまり好みの手段じゃない。


 俺自身の目的は、ボズロやガゼルダや。あのマウファドを殺したような強敵に、剣の腕で勝つことなんだ。どこぞの国の軍隊に、連中を潰してほしいわけじゃない。


「どうしたもんか。いっそのこと、正面から門を叩いた方が話が早いのかなぁ」


 もう飲み慣れた、麦を醸した穀物酒。ちびちびと舐めるように飲みながら、酒場の隅の席で大きな溜息を吐いた。


 地下通路の潜入から数えて、二晩目。ミディアの策を聞いてからも、そろそろ半日が経つ。動くんだったら、いい加減動かなきゃいけない。


 つまみに頼んだ塩炒り豆(ペトノット)を舌の上に放りながら、もう一度大きく溜息を吐いた。


「お、おい、……おいっ! 何なんだお前らは!」


 酒場の入り口の方で、誰かが叫んでいた。


 またぞろつまらない喧嘩でも起こったか? どうにもこの店辺りは治安が悪いらしく、二、三時間も座って飲んでいると騒ぎの一つ二つ必ず起こる。意外なことに、ライトラールの食事処の方がよっぽど落ち着いて飲めたんだ。


「オヤジ、極上の酒を全部寄越せ。五十人分だ」


 怒号のような注文とともに、俄かに店内が騒々しくなる。元々座っていた客たちが、おらどけよ、席空けろ、と絡まれ首根っこを掴まれて椅子から放り出される。


 放り出された連中は、次々と店から逃げ出していった。あっという間に、店内はそいつらに占拠された。


 ガラの悪い連中だ。関わるのも面倒だな、俺も素直に退店するか。


「おい」


 ほら、来た。ガタイのいい禿げ頭に怒鳴り付けられたタイミング。手が伸びてこないうちに立ち上がって、グラスの酒を一気に煽り飲み干した。


「もう帰るとこだ。好きに座ってくれ」


 禿げ頭にそう言って、店主のところへ足を進める。怯えた表情の小太りの店主には、釣りを用意する余裕もないだろう。札を十枚。多めに机の上に置き、ごちそうさまと言い残して店を出ようとした。


 入り口から入ってこようとしたチンピラの一人が、おい待てよ、とニヤニヤ顔で難癖付けてきた。じろりと睨むとすぐに手を引っ込め、舌打ちを捨てる。俺くらいの眼力で怯むなんて、ほんとにチンケな奴だ。酒の勢いも手伝って、俺はつい、鼻で笑ってしまった。


「お、なんだぁ? 見たような顔がいるじゃんか!」


 聞いたような声が耳に飛び込んできて、瞬間的に剣の柄を握った。


 ハドラに近いレベルで周囲の動きには敏感になれている、と、自負している。けど、慎重さはハドラ程じゃない。この距離なら顔を見なくても殺気の有無は感じ取れるし、いつもだったら即座に臨戦態勢を取るような状況じゃなかった。


 いつでも抜けるよう構えたのは、単純に、その声に身の毛もよだつ嫌悪を抱いたから。




ぴったり一か月後の更新を実現できました。ありがとうございます。

ただ、第20節は変則的。どこが切れ目になるやら、今の状況だとまだわかりません。

とりあえず行けるところまではいつも通りの3日おき更新で参りますが、いつもより短くなる可能性もありますので、どうぞご了承ください。うん、見切り発車。

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