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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十九節 潜入――倉庫の正体
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2-19-7.「ガゼルダは殺されたがってるのか?」







「はい、大丈夫ですよ」


 そしてこちらもとんでもない返事をしてみせる、アミラ。のんびりした動きで、俺と、ゼノンと、それからミディアの顔を指で指し。


「ええと、あなた。それからあなたと、後ろのあなたも。ミルレンダインの拠点で会いましたよね?」


「……ああ」


 頷く。緊張に、手の平に汗が滲む。


 さすがによく見てる。ゼノンとミディアは、あの時前に出なかったはずなのに。


「ガゼルダ様は、あなた方が私たちの前に現れる日を、とても楽しみになさっています。ここであなた方を捕えたり、ましてや殺してしまったりしては、ガゼルダ様が落胆なさいます」


「どういう意味だ」


 いつの間にか、アミラは俺に向かって話をしていた。赤い瞳が、確かにじっと俺を見据えている。


「そのままの意味です。ガゼルダ様は、あなた方が万全の態勢でご自身に刃を向ける日を心待ちになさっている。……もう一人の女性、確か、マウファドさんの娘さんでしたよね。別行動ですか。本気で私たちを襲撃するときには、一緒に来てくれるんでしょう?」


「…………」


 沈黙を、答えにした。


 (けむ)に巻こうとしたわけじゃない。その答えを、俺も持っていなかった。それだけだ。


「ったく。うちの大将も訳のわかんない性癖だよね」


 デリダが、大きく溜息を吐いた。


「性癖?」


「復讐に燃える奴と戦うのが大好きなんだってさ。だから、どっか襲撃するときには必ず、見所のありそうな奴を一人二人わざと見逃すんだって。今一番期待をかけてんのが、アンタたちってことだよ」


 言葉を失った。


 そういえば、セグレスの話じゃボズロも言ってたらしいな。『二人は今は泳がせる』。嫌精石を運ぶ仕事に関わった奴を片端から殺して回ってるこいつらが、まるで俺とシーラだけ特別扱いみたいに何度も見逃してる。


 その理由が、それか。


「……ナメてんな、おい」


 剣を大きく振り下ろし、切っ先でガギリと床を叩く、ゼノン。俺の前にずかずかと歩き出て、髪を掻き上げアミラを睨み付けた。


「俺等なんざ、いつでも殺せるって思ってんのかよ」


「いいえ」即答した。迷いなんて、一切ない。「その力を認めているからこその扱いです。いつでも殺せるような取るに足らない相手なら、ガゼルダ様は見逃したりしない」


「ガゼルダって男は、誰かに殺されたいって思ってるのか?」


 俺の質問には、アミラの答えは緩やかだった。


「殺されたい。……そう、そうかもしれませんね。……いえ、それは、そこまでは私にはわかりません」


 一瞬認め、そして即座に首を横に振った。


「とにかくガゼルダ様は、強い相手を求めておられる。


 あなたたち、強くなって下さい。強くなって、ガゼルダ様にご満足して頂けるほどに、腕前を披露してください。私は、私たちはそのときを、楽しみに待っています」


 ランプを下げた左手の甲に右手を重ね、アミラは深く一礼してよこした。


 何とも言えない気分だ。俺は剣先を床に向けたまま、ギリと歯を軋ませる音を立てた。


 この女の話が全てだとしたら。ガゼルダという男がその程度の人間だとしたら。殺された人たちが、ミルレンダインの奴らも、見ず知らずの連中についても、不憫でならない。


 セーラさんが、鼻で息を深く吐く音がした。


 そうだ。俺も深呼吸ひとつ、冷静を取り戻そうと試みる。こんな女の話を真に受けちゃいけない。セーラさんによればこの女も、仲間をガゼルダに惨殺されながら今ガゼルダと行動を共にしているような、狂った感覚の持ち主なんだ。


「では、私たちはこれで。見られていては、あなた方も帰り辛いでしょうからね」


 感覚が狂っていても、やっぱり勘は鋭いらしい。そう言い放つと、アミラは俺たちにくるり背を向け、入ってきた扉の方へ歩き始めた。


 後にデリダも続く。彼女は彼女で、アミラの言動を全部理解しているような、自然な動きだった。


「なぁ、デリダ」


 最後に一言呼び止めた。立ち止まり、振りむいた彼女は少し驚いた顔を見せていた。


「アグロは、どうしてる?」


「元気だよ。雑兵の扱いで腐っちゃいるけどね」


 それだけ答えて、また歩き出す。


 そうか。あの男もまだ生きていたか。嬉しいなんて気持ちは欠片も生じなかったけど、それでもなぜか、少しだけ救われる思いがしてしまった。


 二人が扉を閉め、この部屋を出ていって。


 俺もゼノンもセーラさんも、しばらく――って言ってもほんの一、二分のことだったとは思うけど、しばらくの間動くことができずにいた。ミディア一人、いそいそと地下通路に戻っていく。ハドラがその後を追ってくれていたので、俺としても尚更慌てて動く理由がなくなってしまっていた。


「あんたたち何ぼーっとしてんのよ! こんなとこ、とっととさっさと退散するわよ!」


 ミディアに促されてようやく、まずはセーラさんが動き出した。次いでゼノンが裏立たしげに、最後に俺がとぼとぼと、肩を落としながら通路に戻る。


 悔しさじゃあない。苛立ちの方が近いけれど、その言葉もしっくりとは落ち着かない。同じく足取りの重い三人でも、多分その胸中は三人ばらばらだったって気がする。


 とにかく俺は、何故だかよくわからないけど、アミラとデリダとの会話と、一切戦いにならなかったという事実に、物凄く打ちのめされたんだった。




今回もお付き合い頂きありがとうございました。

ようやく潜入、ついに敵と戦うか!?と思いきやまだちょっと会話しただけでした。

次節は戦う予定です。少しは派手になるといいなぁ。


次節こそ1か月以内に頑張ります! 遅刻しない!!

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