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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十九節 潜入――倉庫の正体
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2-19-5.「誰も、お前を責めたりしてない」







「情報共有は勝利のため、今後の作戦を立てるため、ということですね」


 微笑みかけるセーラさんに、ハドラは上目遣いに視線を返し、背中を小さく丸めながら頷いた。


「その、……勝手に皆さんを巻き込んでしまって、……申し訳、……ないんですけど」


「今更だろ」軽い口調で、笑いかけてやった。「巻き込まれたなんて思わないよ。俺達も自分の意志で奴らと戦うって決めたんだ。むしろ、話してくれてありがとう。そこまで俺たちを信頼してくれて、さ」


「あ、…………え、えっと……」


 礼を言うと、ハドラは少し困ったように、頭を掻いて俯いた。


 セーラさんが微笑み、ゼノンが大きく舌打ちをする。ハドラの気持ちを受け取った、それぞれ彼らなりの答え方。


 ただ一人ミディアだけ、面白くないと腕を組み憎々し気にハドラを睨み付けている。どうした、と聞くより早く、そして彼女は不満をハドラにぶつけた。


「私も聞きたいわ。そんな重大な話、なんで『特に』私に聞かせたかったわけ?」


 詰問には、随分と鋭い棘が生えていた。


「他の連中は『教える必要ができたから教えた』のかもしれないけど、あんた、私には何が何でも見てほしいって、強引に腕引っ張って来たわよね。なぜ? どうして私に、こんなものを見せたかったの?」


 ハドラは答えない。答えられない。いつものように喉を震わせ、口をへの字に開いている。


「私がグランディア人だから、これを見て何かを思え、って言いたかったの? グランディア人だから、同じ国の人間がやったことを噛み締めて、慙愧の念に捕われろって思ったわけ?」


 裡に怒りを包みながら、包み切れずに零しながら、ミディアは低い声で言葉を続けた。


 珍しい、と思った。感情的になること自体は珍しくもないミディアだけど、ここまで重苦しい物言いを人にぶつける姿はあまりない。それだけ、ハドラの話は彼女の中にも強く迫るものがあったんだろう。


 肩を震わせるハドラ。ゼノンがじっと、その顔を睨み付けている。


「どうなんだよ」睨みながら、口を挟んだ。「コイツの言うように、テメーもちっとは責任感じろや、とでも思ってんのか?」


「……違い、ます……」


 震えた声で、やがて答える。


 ミディアの視線も、いまだハドラに刺さっている。


「じゃあ、何でなのよ」


「……グランディアで魔法を研究されている、という、……ミディアさんなら、えっと、この施設の、目的とか、成果とか……、わかるかもしれない、と、……思いまして」


「知らないわよ、そんなこと。こんなところで国の主導で非道実験してるなんて、国民にだって知らされてるわけないじゃない」


 腕組みしたまま、ハドラに背を向けるミディア。ハドラはいよいよ背を丸くし、「そうですよね……、すみません……」と蚊の鳴くような声で呟いた。


「……知らされてるわけないわよ。ましてや私が生まれるよりずっと前の話じゃない。今さら聞かされて、責められたって……。私に何ができるっていうのよ」


「ミディア」


 腕組みしたまま、背を向けたまま。声を潤ませ始めた彼女の名を、俺はそっと呼んだ。


「誰も、ハドラも、お前を責めたりしてない」


「…………わかってるわよ。うるさいわね」


 呟く声が、微かに揺れていた。


 俺はミディアから目を逸らし、もう一度壁に並べられた檻にぼんやりと視線を送った。


 ――と。


 第一声は、ハドラだった。


「隠れましょう」


「おう」


 俺とゼノンが迷いなく頷いた。


 セーラさんもすぐに反応し、最後に赤い顔をしたミディアが「え、ちょっと、何よ」と慌てながら、ゼノンに腕を引っ張られた。


 部屋の隅、積み上げられた木箱の影に入り込んで、息を殺す。セーラさんがランプの火を消すと、本当に何も見えない真っ暗闇になった。


 ――いや。今まで眺めていた檻の壁の少し先。扉のあった辺り。本当に微かにだけど、うすぼんやりと光の欠片が感じられる。


「何なのよ」と憤るミディアもちゃんと声は潜めている。あっちを見ろと示せば気付くものにも気付いてくれた。ミディアもちゃんとわかってる。ここは敵地なんだ。


 ハス、ハスリ、パスリ。


 スサ、スッタ、ズッタ。


 足の音は二人分。段々と近付き、大きくなってくる。


 話し声も聞こえるが、何を話しているのかまでは聞こえない。高い色。女の声か。気を抜いた様子の足音に比べ、口の方はなんでか少し慎重な様子が伺える。


 光が大きくなった。そしてギィと音を立て、扉が開かれた。


 木箱の隙間から覗き込む。手に持ったランプで部屋の入り口を照らす、影はやっぱり二つ。


「はいはい、今日も異常なしっと」 


 やる気のない女の声が、静かな部屋の中大きく響く。巡回か。俺は何となく、更に息を落ち着かせ音を潜めた。


「相変わらず細かいね。こんなとこ、何も起こりっこないでしょ」


 光が動く。やる気のない声は、動いている気配がない。どうやら一人はサボりながら、もう一人が入念に確認している様子を呆れ半分見守っている。そんな状況のようだった。


 それにしても、どこかで聞いた気がする声だな。


「? え、なに、下?」


 聞き返すような声が聞こえた。続けて、はっと息を飲む音。それからやがて、驚くほど慎重な音になった足音が、ひそやかに少しずつ、こちらに近付いてくる音。


 薄暗闇の中、俺も反射的に下を見た。微かに届く光の切れっ端程度で何かが見えるわけもない。が、気付くことはあった。足許。土の通路。そもそもあまり人が入っていなさそうな石畳の部屋。――足跡か! 奥歯をぎゅっと噛みながら、そっと腰の剣に手を添える。


 まだ慌てなくていい。相手は二人、仲間を呼ぶ素振りもない。活路は十分にある。






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