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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十九節 潜入――倉庫の正体
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2-19-4.「そんな重大な話を、なんで俺たちにしたんだ?」







「動物用か?」


 呟き、首を傾げる。


「ここは倉庫だそうですからね。愛玩用か、あるいは食用か」


 セーラさんが呟く。


「食用にしちゃ檻が小さいぜ。牛も羊も一頭入れたら身動き取れねぇ。鳥や兎でどんだけ満足するもんかよ」


 ゼノンが首を横に振る。


「違い、ます……」


 背後にいた、ハドラが怖ず怖ずと声を上げた。


 いや、違う。いつも怖じけたような震えた声でしゃべる彼。今の一言はいつにもまして震えた声だったけど、それでも振り返れば背筋がまっすぐ伸びていて、両手の拳もぐっと強く握られていた。怖気じゃない、今日の震えはひょっとしたら、武者震いかもしれない。


 その迫力の理由までは、俺にはわからなかったけど。


「何よ! あんた、私にこんなものを見せたかったっていうわけ?」


 不機嫌そうに腕を組み、すぐ横にいたミディアがハドラを睨み付けた。


 ゼノンもセーラさんも、俺も。みんなハドラを見ている。ハドラは、ミディアに目線を返さなかった。誰のことも見ていない。ただ、檻の一つをじっと睨み付け、奥歯をぐと強く噛み締めていた。


「……ここは、動物を繋ぐための檻……、では、ありません。ここにはたくさんの、拉致された盗賊魔法使が繋がれた、のだ、そうです……」


「盗賊魔法使?」


 ミディアが聞いた。


「魔法を主として使う盗賊、と言うことですか?」


「いえ……。魔法を少しでも使うことができる、当時のレアン国の国民、……という意味です」


「ンなもん、殆ど誰でもって言ってんのと同じじゃねーか」


 その誰でもの範疇に入っていないゼノンが睨む。ゼノンも俺も、魔法は一切使えない。

「はい。その……、要は、魔法さえ使えれば誰でもよかった。誰しもが、ここに拉致される可能性があった。実際にここに連れてこられたのは、砂漠で負けた人、騙された人。ただ運が悪かった人……」


「悪い、何が言いたいんだ? もう少し要領をまとめてくれないか?」


 俺が口を挟むと、ハドラはじろりと俺を睨んだ。長い前髪の隙間から、鋭い眼光が俺を睨み付けた。


 思わず怯んでしまう。


「このリザーダン倉庫は、本来倉庫として建てられた場所じゃありません。……この建物の本当の名前は、セウァントリアン実験場。魔法使を拉致して魔法の研究を行うための人体実験場、……だったそう、です」


 背筋に冷たいものが走った。


 ごくりと、唾を飲み込む。その音が地下室中に響き渡ってしまったと感じるくらい、みんな静かだった。


 震える声で、ハドラが続ける。


「……ここに捕まった人たちは最後、一人として外に逃げ出せた人はいなかったそうです。刺され、

切られ、潰され……。動物のように繁殖させられ、生まれた子供もモノとして扱われ、処理され……」


「…………」誰も、何も言えなかった。


「結局、この実験場がどんな成果を上げたのか、僕は知りません。知っているのは、泥沼化したアトラクタ戦争の末、研究が続けられなくなり廃棄された、というところまでです。この施設に、……この施設を動かしていたグランディア王国に、協力していたガーラール団。その団長の子孫が、僕にこの施設のことを教えてくれた父であり、そして僕自身、……なんです」


 記憶を辿る。確かにハドラはそう言っていた。


 ヴォルハッドに奪われた、彼が管理していたグランディア国営の倉庫跡。その運営に関わった盗賊団の(かしら)の血を引いている。……聞いたのはセーラさんからだったか。どちらにせよ、確かにその話は聞いていたんだ。――倉庫の実態が実験場だったこと、以外は。


「……姉ちゃんは、その話知ってたのかよ」


 声を低く、ゼノンが聞く。


 答えるセーラさんは相変わらずのポーカーフェイス。けど、言葉の限りでは否と答えた。


「初耳です。私もハドラさんからは、ここが倉庫だったという前提で話を伺っていました」


「……セーラさんにも、……言ってません。誰にも、言ったことはなかったです。……母もこのことは知らずに死んだと思います。父が……、ただ一人僕だけに伝えた。そして僕は、今初めて皆さんにお話ししました……」


 一言一言慎重に、いつものように間を置きながら語る、ハドラ。ただ今は、彼のそのまだるこしい語り口が、怖いくらいに頭の中に染みてきた。耳から入ってくる音の響きが、毒となって体中に広がっていくような感覚。


「そんな重大な話を、なんで俺達にはしたんだ?」


 聞く。


 ハドラは俯いて、口を開いた。


「ひとつには、皆さんに地下通路の存在を教える必要ができたから、です……。あそこを使うなら、この部屋を通らざるを得ない……」


 静かに、頷いた。


 そんな消極的な理由だけじゃないこと、わかっている。


「……もうひとつは、…………恐らくこの戦い、そのことを知らないと、勝てないかもしれないって、その……、何となく予感があるから、です」


「ヴォルハッドの連中が、何かに利用するためにここを拠点にしたってことかよ?」


 ゼノンが割って入ってきた。ハドラは静かに首を横に振る。


「いえ……。多分、ヴォルハッド団の人たちは……、この施設のことはわかってないと思います。ただ、昨日皆さんとお話をしていて……。彼らの後ろに、グランディアの人がついているのなら、彼らがここを奪ったことには目的があるはずです。そしてその目的は多分……、この地下の施設跡を何かに利用すること――……」


 そうか。


 少し目が慣れてきた頃合い、俺は一度、部屋の全体に目を向けた。


 壁際にいくつも並べられた、体を丸めないと人ひとり入れない程の小さな檻。


 机の上にはやけに細い、あるいは幅の広い、見慣れない形のガラスの器、その破片。


 向こうの壁際には机よりも大きく、背の低い四角い石の塊がいくつか並ぶ。まさかアレは寝台か。ここに繋がれていた人たちを、縛り付けたあとどうしたものなのか……。


 入ってきた方には木箱がいくつか。乱雑に積まれた様子を見ると、多分もう重要なものなんて入っていないんだろう。


 階段の上の一階層は、殆ど壊れたままだっていう。であれば、少し考えればわかることだ。守り人がハドラ一人だと言ったって、これから意気を上げて砂漠中に名を売ろうっていう新興盗賊団が、何を好き好んでこんな場所を塒に定めるか。小さな集落でも襲撃した方が、よっぽどいい場所が手に入るじゃないか。




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