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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十九節 潜入――倉庫の正体
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2-19-1.「でも開いたじゃん。さすがだな」







 夜中の0時を過ぎてから、俺たちはそこへ向かった。


 ひやりとした乾いた風が、頬を撫でる。雲一つない満天の星空が、頭上に広がっている。昨日の雨の名残は欠片もない。柔らかく湿った土の地面が、嘘のように感じられた。


 俺とゼノンとセーラさん、それからミディアが、ハドラの案内で荒れ地を歩く。


 目的地は、ちょっと前四人で偵察に来た岩場。ごつごつとした大岩や、小高い岩山がいくつも並んだ場所。敵の拠点である倉庫跡からは岩山一つ隔てた裏側で、直接は何も見えないし、多分普通の大きさなら声もまるで聞こえない。何人も見張りを立てているんだろう向こう側の声も音も何も聞こえてこないので、そう考えて問題なさそうだ。


 聞こえてくるのは少し離れたところを行く、隊商の足音。ハーンの街から南西、ザード団の根城があるという方角へ向かって進んでいる姿を、さっき岩陰から見かけた。こちらには気付いていないし、気付いたとしても問題はなさそうな相手だ。


「ここです」


 ぐるぐると随分歩き回った挙句、ついにハドラが立ち止まり、はきとした口調で言った。その意外な様子に、俺は数秒間、目を奪われた。彼はこの場にいる仲間の中で一番、戦う顔をしているように見えた。


「ここって、洞窟の中か?」


 ゼノンの質問に合わせ、俺も改めてハドラが示す先を見た。


 岩山をくり抜いたようにそこにある、小さな横穴。入り口は狭く、俺の身長の半分くらいしかない。洞窟なんていう大仰なものじゃなくて、印象としては大木のうろに近い。


 中は暗くてよく見えない。セーラさんが魔法の火を灯し洞の中に飛ばすと、火球はふわりふわりと二メトリ程中を照らし、壁に当たってじゅんと消失した。


「おい、何もないじゃねーか」


「いえ、ありますね。足許に扉が」


 一人違うところを見ていたセーラさんが答えた。


 促されて下を見る。明かりが消え、影になったところ。確かに一か所色が違うところがある。しゃがみこんで手を伸ばしてみると、錆びた鉄の板が横たわっていた。一辺八十センターンくらいの大きさ。人ひとりぎりぎり通れるかどうか、くらいの大きさだ。


 セーラさんが、もう一度炎を灯した。今度は手の平の上に乗せたまま、鉄の板を照らす。よく見ると小さな取っ手が手前と奥に一つずつついていて、持ち上げられるようになっている。


「こりゃあ……。くぐるだけでも一苦労だぞ」


 ゼノンが覗き込んで言った。


 確かに、中の広さはわからないにしても、この入り口を潜らなきゃいけないって言うだけでも、少し躊躇が走る。


「けど、連中が罠を張っている可能性は低そうだ」


 俺も感想を呟いた。


 鉄の板は板面も取手も砂に塗れ赤黒く錆びて、しばらく使われた気配を感じない。連中が何やら仕掛けるって言うなら、せめて一度はここを開いているはずだ。


「ひょっとして、倉庫として使われてた頃から一度も開いてねーんじゃねーの?」ゼノンが鼻を鳴らす。「そうなると何十年ぶりって話だよ」


「約百六十年ぶりね」


 ミディアが補った。気が遠くなる長さだ。


「ですが、僕が幼少のとき、父と一度通りましたので……、実際は八年ぶり、……です」


「なんだよ、早く言えよ」


「あ、す、……すみません」


 ハドラの種明かしに、肩を透かされ文句を言うゼノン。


 とはいえ八年ぶりでも相当だ。とりあえず、開けてみるかと洞の中に入り、両方の取手をそれぞれの手で握り締めた。


「ちょっと! 罠かもしれないんでしょっ? 何ぐりぐり開けようとしてんのよ」


 ミディアが不安そうな声を上げた。別にぐりぐりは開けてないけど。開くかどうかすら確認しなかったら見に来た意味ないだろ、と答える。答えながら両手に、腰にぐっと力を込める。


 開かない。


「ンだよ。貸してみろよ」


 挑戦者交代。赤く跡のついた両手を振りながら、体を捻って場所を譲る。


 これでゼノンに軽々開けられちゃっても、情けないとこではあるけど。


「んぐぬぅうっ!」


 奇っ怪な声を上げ、ゼノンが鉄板を引っ張る。やっぱりびくともしない。正確にはびくとくらいはするんだけど、何かが引っかかってるみたいに、まるで持ち上がる気配がない。


「ちっくしょ、これホントに開くのかよ」


「実は押し戸、とかではないですか?」


 セーラさんなりの冗談か。地面に平面についた押し戸というのはなかなかに斬新なデザインに思われる。


「引き戸です。コツはあるのかもしれませんけど、父は腕力で開けていました」


 俺とゼノン、顔を見合わせる。


「つまりアンタらが貧弱だってことね」


「うっせ、お前に言われたくねー」


「そう言うなら、お前が開けてみろよ」


「か弱い女性にできると思ってんの?」


 誰がか弱い女性アンタらと一緒にしないで女性っつーかオバさんだろ殺すわよクソガキども……。俺も参加して雑言を投げ合う。


 その間、セーラさんは何事もないかの振舞でハドラと二、三言葉を交わし。何やら得心したような顔をして、何やら魔法を一つ使ったようだった。


 板の上に乗っていた砂が、くるくると円を描き、弾かれるように板の外に動いていく。すうーっと、板が少しだけ浮いたように見えた。


「板の隙間に風を通してみました。ゼノン、もう一度試してみてくれませんか?」


「え? いいけどよ」


 セーラさんに言われ、ゼノンがもう一度取手に手をかけた。ぐっと力を入れると、相変わらず板は重そうだったけど、それでもようやく少しずつ持ち上がり始めて、やがて大きくその口を開いた。


「クソ重ぇ! 何なんだこの扉は!」


「でも開いたじゃん。さすがだな」


 褒めてやると、「て、テメーにこんなことで褒められても嬉しくねーんだよ!」と、鈍い口調で拗ねられる。緩みかけた口許を隠そうと顔を背けるのが、なんかちょっと、チョロいっていうか……。


 うん、ちょっと気持ち悪い。




できたら1か月より早いタイミングで次節更新を。

……そんな風に考えていた時期が自分にもありました。

はい、ごめんなさい。1か月をさらに二週間ほど過ぎてしまいました。

ここからは敵地潜入のお話。いよいよ佳境に差し掛かっています。

第19節全7パート、どうぞお楽しみください!

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