2-18-4.「ごみ捨て場はひどいな」
「かいつまむと、この国は隣国ウェンデが罪人を砂漠に追放したことから始まったでます。追放された人たちが、図太く生き抜いて集落を形成し、やがて力を付けて一つの国としてまとまったでます。後年、ウェンデは『自分たちが責任を負うべきごみ捨て場』だとしてこの砂漠を支配、管理しようと何度となく手を出してきているでます。
一方、この国に商業的軍事的価値を見出し外から手を出そうとした国が、海の向こうのグランディア王国でました。実際には他の国も狙っていたのかもしれないでますが、何百年も諦めずしつこく関わり続けているのはグランディアだけでます。グランディアは最初にハーン市に港を作り、この街に人が集まる市場を作った。それからベイクード市を建てて、いよいよ世界中の人と物が集まる大市場を広げた」
「ごみ捨て場は酷いな」
俺が感想を呟くと、レマが珍しくにやっとして。
「レトリックでます。砂漠にすむ人間なら誰でも、ちょっとくらいこの二国に対する悪感情は持ってるもんでます」
「てことらしいわよ」
両手を広げ、ミディアが肩を竦めた。なるほど、ひょっとしたらこんなやり取りを、ミディアは先に済ませていたのかもしれない。皮肉めかした表情のミディアが、いろいろ言いたそうだった。
「まぁとにかく。まとめるますと、ウェンデはお節介な責任感から、長年この砂漠を支配しようと動いてきた。グランディアもまた、砂漠を我が物にしようと干渉し続けてきた。二つの大国の間で支配権の奪い合いを展開されながら、それでも自治を主張し現在独立を守っている。それがこの砂漠にあるレアンとダザルトという二つの国の歴史なんでます」
そして、レマは深く息を吐いた。
心なしか、ハドラが暗い顔をしている。
ゼノンが、つまらなそうに一つ「け」と鳴いた。
凄絶な、そして不安定な歴史に、俺は少し圧倒されかけていた。
「とてもわかりやすい歴史概略でしたね。ありがとうございます」
セーラさんがぽんぽん、とふたつ小さく両手を叩いた。そして。
「では、改めて、先程までのカルガディア氏のお話を、今の歴史を踏まえて考えてみましょうか」
「そうでますね……。組合長に言われてまとめてはみたでますが、正直あちしはまだどういう関連があるのかわかんないんでまして……」
「あら。何も、お気付きになっていらっしゃらないんですか」
頭を掻くレマに、セーラさんが目を見開き、右手を頬に添えて首を傾げてみせる。
レマが、そしてミディアも表情を揃え、二人してばね仕掛けのおもちゃのように背筋を飛び跳ねさせ首を上げて、セーラさんを見詰めた。
「何かわかるんでますかっ?」
「あくまで私の想像、と前置きを置いた上での推測ですが」セーラさんは柔和に微笑み。「カルガディアさんがグランディア王国からの使命を帯びて一連の行動を起こされているとして。レマさんが先程仰ったような背景を考えたら、一見片手落ちに見える何らかの隠蔽工作は砂漠の住人に向けたものではなく、ウェンデ国に対して行われているものだ――、と、考えることができるのではないでしょうか」
あ、とレマとミディアが声を揃えた。
なるほど、確かにこれには俺も納得した。ヴォルハッドの連中はさておき、カルガディアなる人物は初めから砂漠の人間のことなんて欠片も問題視していない。いや、問題があったとしてもそこは全てヴォルハッドの連中に押し付け、本人は対ウェンデを想定した対策に集中している。これはかなり説得力のある説だ。
「ウェンデに対してだったら何を隠すってんだよ」寝転がったまま、ゼノンが不貞腐れた声を上げる。いや。声は不貞腐れているものの、言葉自体は大分核心をついてる。「運び込むもの。ルート。運搬先。相手が誰だろうが、隠そうってモノなんざそうそう変わりゃしねぇ。んで、相手が誰だろうが、ケーパどもを一掃した程度じゃ隠し切れねぇのも変わんねーだろ」
今度はレマとミディアの表情が分かれた。レマはこれまた正論と、掴みかけた手掛かりを再び逃した残念顔。ミディアの顔には若干の怒りが混ざる。ゼノンのくせに生意気な。言いたげな本音が、眉間の皴から見て取れた。
「勿論その通りです。ただ、隠す相手が異なれば隠す必要のある部分も少しずつ変わってくる。見る立場が変われば、衝立の位置を変えなければ後ろが見えてしまうかもしれません。
彼らが何を隠したいのか、だけではなく、誰から隠したいのか、を考えることも重要だと、私は思いますよ」
セーラさんの言葉が、結局全員を納得させた。
要するに、まだわからない。何かを断ずるには手掛かりが足りない。
ただ、明らかにするべきポイントが見えてきた。それだけでも収穫だと、俺は思った。
加えて、敵の正体も見えてきた。ヴォルハッドの連中を解体すればいいのかと言えば、そう単純な話でもないらしい。国と国との問題だ、なんて言われたら俺の手には負えない大問題だけど、ゼノンやシーラの立場に立って考えればいい。彼らの自由を脅かそうなんていうどっかの国のお偉いさんがいるなら、砂漠のやり方で追い返すまで。そういう話なら、俺の指先にも引っ掛かる。
「そんなことじゃねーだろ。話し合うべきは!」
と言ったところでゼノンがむくりと立ち上がり、机の端にばんと両手をついた。
机の上で皆のカップが揺れる。ハドラなどは、ほとんど飲んでいなかったお茶を少し零してしまったくらいだ。
「これからどう戦うかって話だろ! いつ! どんな作戦で!」
額に青筋を浮かばせ、拳を振るえるほどに握り締めながら、大声で喚き散らす。
これもまた正論。この二か月、セーラさんとハドラに見てもらった結果、俺もゼノンも、周囲を見て察するハドラの戦い方をある程度は習得した。そして、それぞれ一対一でハドラに勝つこともでき、セーラさんには飛躍的に強くなったと保証してもらった。
先日敵の根城を偵察に行ったのも結局は近く襲撃するため。いよいよ奴らと直接対決をするためだ。
ただ……。




